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事業成長の要は人材に2016年7月8日

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インタビューInnerbrain(株)村田興文代表取締役(シンジェンタジャパン前会長)

 昨年末にシンジェンタジャパン株式会社取締役相談役を退任し、今年1月にコンサルティング・アドバイザリング企業のInnerbrain株式会社を立ち上げた村田興文代表取締役は長年、人材育成と組織づくりに力を入れてきた。農薬・種子業界のトップとしてJAグループと関わりを深めてきた村田氏に、今回は「待ったなしのJA改革」に取り組み成果を上げるには、いかに人材育成が重要かを語ってもらう。

◆世界的企業が重視すること

 ――世界の農薬・種子業界のリーディング企業トップとして日本の業界をリードしてこられた村田さんの戦略やマーケッティング展開での業績は知られていますが、実は組織構築や人材育成に非常に力を入れてこられたと伺っています。今日はインタビューを通してJA改革を実践・実現するための人材育成の在り方についてアドバイスをいただこうと思います。
 常々、「事業成長の要諦は人材育成にあり」と強調されていますが、具体的にはどのようなことを実践されてきたのでしょうか。

重要になる生産者とのコミュニケーション 村田 私自身がリードした事業展開は大きく3つに分かれます。
 第1に新たな営業の組織構築、第2に異なるビジネス文化を持つ組織の合体、第3が異なるビジネスシステム・企業価値をもつ企業を1つに合体融合したことです。
 それぞれの事業展開に際し、部門ごとにまずは「定型能力開発プログラム」によって能力を高めてきました。
 具体的には、「営業部門」は顧客管理機能の強化、「マーケッティング部門」は市場調査・仮説構築・市場細分化・価値提案構築能力の向上、「研究開発部門」は最新のR&D(リサーチ・アンド・ディベロップメント)研究手法の導入、そして「管理部門」には新しい人事・財務政策のシステム導入を行ってきました。

 ――ここまでは他の企業・組織でも行っていることだと思いますが。

 村田 その通りです。体系化されているかどうかの違いはありますがね。
 実は大きく異なる分野があります。それは日本企業・組織が過小評価し、一方、多国籍企業では重要視している「非定型能力」である「コミュニケーション能力」の強化です。


◆組織共通の文化づくり

 ――そのためのプログラムを導入されたということでしょうか。

インタビュー Innerbrain(株)村田 興文代表取締役(シンジェンタジャパン前会長) 村田 はい。主たるプログラムは米国で開発されHRD社が日本市場に導入した"DiSC(R)"(ディスク)というプログラムです。
 成果を一言でお話しすると「組織の共通言語・コミュニケーション文化」をつくることができたことです。
 このプログラムのもっとも基本的な考え方は「人はそれぞれにタイプが異なるが、それは決して間違いではないのだ」ということを理解しようということです。これをお互いが理解することによって社内での部門間・部門内のコミュニケーションが「説得」ではなく理解し合意点を見出す方向に向かい始めたことが私の経験でも顕著に分かりました。 
 具体的な成果としては、たとえば営業部門では、トップ営業がどのような論理・話法・態度で顧客に対応しているかを「暗黙知」ではなく、より分かりやすく「形式知」として人に伝えることができるようになり、他の営業担当が再現性の高い実績を上げ始めました。
 また、部下の育成に関しても、一人一人のタイプ・スタイルに合わせた指導(コーチング)が始まり、部下の強みを生かすことで成果が向上し、お互いの信頼関係がより強くなったことが挙げられます。
 このプログラムの導入、実践について前職での事例を紹介しますと、人事と営業部門から2名のスタッフに認定インストラクター資格を取ってもらい社内研修を開始、営業部門から始め全社員にこの研修プログラムを受けてもらいました。
 最終5名のスタッフが認定セミナーを受講して認定インストラクターとして普及に務めてもらいました。これは内製化といわれるアプローチです。


◆JAこそ人的能力の強化を

 ――では現実に我々が直面するJA改革と人材育成をどのよう考えればよろしいのでしょうか?

 村田 ビジネスの観点では、組織の能力・強さを測るのに2つの軸から構成されるベクトルの概念を使います。
 横軸は「組織の機能能力」です。具体的には、受発注システム・物流システムに代表されるもので、システム力ともいわれます。
 縦軸は「組織を構成する人的能力」です。この人的能力には先ほど申し上げた定型能力と非定型能力が存在しますが、この2つの軸をそれぞれバランスよく強化することが組織改革・変革時には必要だとされます。
 地域社会における農業協同組合の存在価値を考えるときには、横軸の「組織の機能能力の強化」に偏重した戦略ではなんら民間私企業と変わるものではなく協同組合としての理念が十分に差別化要因にはならなくなってしまうと思います。
 地域に根差した強みは、縦軸である「人的能力の強化」がなされて初めて発揮できるでしょうし、持続的な農業協同組合としての求心力を確立するためには人的能力、そのなかでもとくにコミュニケーション能力の開発と育成に力を注ぐべきだと考えます。


◆組合員とともに農業と地域をつくるために

 ――より具体的にお話しいただけますか?

 村田 イメージから描くと、ホールディングとしての総合農協の傘のもとに業態・業界の異なる金融・共済・経済・厚生それぞれの事業が存在します。
 それぞれの事業部門では異なる専門性の高い定型能力定着のための業務研修が組織の機能を強化するために必要なことは誰でも理解できます。ですがそれは必要条件であって決して十分条件ではないということです。
 経営陣・役員にありがちな自己満足的なリーダーシップに職員が動機づけられるでしょうか? それにはリーダーシップ能力の強化が必要です。
 組織の部門長が部下の職員を指導するのに「人を見て法を説け」を忘れ自己流の均一な指導方法で果たして職員の能力が向上するでしょうか? そのためには指導力(コーチング能力)の強化が必要になります。
 あるいは結論の出ない会議を延々と続けて方向性が出るのでしょうか? それには合意形成能力(ファシリテーション能力)が必要になります。職員の方々が農業者である組合員の方々や地域社会の課題やニーズを十分に聞き取り、理解し、農協の事業に反映させることができなくて事業の充実、顧客満足度を上げることが可能になるのでしょうか? それを実現するには渉外力(営業能力)を強化する必要があるでしょう。これらすべてがコミュニケーション能力なのです。

 ――農協協会が今やるべきこと、逆に私たちだからできることは何でしょうか。

 村田 農業協同組合新聞、あるいはウェブサイト「JAcom」にしても農協協会はコミュニケーションを生業とし、プロフェッショナルとしての存在感を持っています。農協協会こそJAの役職員に対するコミュニケーション能力の向上に向けた貢献をするべきだと考えます。座学研修はもっとも効率の悪い研修手法だといわれます。それは実体験・反復性・参画率が低いからです。JAの役職員が一時的に研修プログラムを受講して終わるのではなく、内部のコミュニケーション文化として定着・強化できる仕組みにするべくJAがプログラムを内製化していくことが必要だと思います。そしてそのプロセスの導入を支援するのが農協協会の使命であると私は思います。

 ――ありがとうございました。

村田興文氏:上智大学理工学部化学科1976年卒。76~97年日本モンサント株式会社営業本部長・新規事業本部長、97~2001年ローム&ハース社アジア太平洋地域マーケッティング・研究開発本部長。01~16年 シンジェンタジャパン株式会社代表取締役社長・取締役会長・取締役相談役。(公職:農薬工業会副会長、日本農産物輸出組合理事長、経団連農業活性化委員会委員)。現在Innerbrain株式会社代表取締役
(写真)重要になる生産者とのコミュニケーション

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