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JAの活動:より近く より深く より前へ JA全農3カ年計画がめざすもの

総合的な提案で農家手取り最大化に貢献 JA全農肥料農薬部 天野徹夫部長2016年7月21日

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省力・コスト低減化資材や新技術で

 JA全農は、「より近く より深く より前へ」を合言葉に、生産・流通・販売面でいままで以上に深化・拡充した重点事業施策を実行し「農業者の所得増大・農業生産の拡大・地域の活性化」を実現する「3か年計画」に取り組んでいるが、今回は天野徹夫肥料農薬部長と松山真裕燃料部長に重点課題を聞いた。

◎トータル生産コスト低減

◆適正な栽培方法と資材の活用

 ――3か年計画の基本的な柱は何ですか。

JA全農肥料農薬部 天野徹夫部長 第一の柱は、「農家手取りの最大化(トータル生産コストの低減)」です。第二の柱である「競争力強化に向けた事業体制の確立」と、第三の柱である「海外原料・輸入肥料・原体の新規開発と安定確保」で、第一の柱を下支えしていくという構図です。
 そして、農家手取りの最大化(トータル生産コストの低減)を実現していくために、この4月に事業改革推進室を設置して、具体的な取リ組みを実施してきています。

 ――手取り最大化では、「農家のつくった農産物は1円でも高く、農家に供給する資材は1円でも安く」といわれていますが...。

 そのことは否定しませんが、それでは農業の改革につながりません。「1円でも高く売る」ためには、どんな時期に、どういう作物をどんな形で出せば買ってもらえるのかを考えなければいけません。また、「1円でも安く生産する」ためには、資材価格だけではなく、「自分のところに向いた栽培方法は何か」とか、労働力の配分や作付配分などを考えることが必要です。
 栽培方法についても「1円でも安い」資材を使えばいいというものではありません。私たちは常に農家の手取りを最大化するために、それらを含めて総合的な提案をする取リ組みを進めていきます。


◆需要の集約と効率的な生産・物流で

 ――とはいえ、肥料や農薬では価格対応をしていますね。

 とくに汎用的な商品については、競争できる価格を出しています。そのために仕入れから物流までを踏まえた供給方法を常に考え実行しています。価格面では、生産者の方々の需要をできるだけまとめていただくことで、その商品の効率的な生産と物流を考えることができます。
 それが肥料の工場から生産者への直送ですし、肥料に比べて物量は小さいですが、農薬でも水稲用一発除草剤の「担い手直送規格」をコスト低減のために用意しています。直送することで価格を抑えることができます。
 肥料では、大粒硫安について宇部興産との合弁会社を設立しましたし、輸入原料だけではなく国内の地域資源を活用する「鶏糞燃焼灰」の活用にも取り組むことで、コスト低減をはかっています。


◆省力化実現する新しい栽培技術

 ――資材だけではなく栽培方法や栽培技術でもいろいろな提案をされていますね。

 省力栽培技術としては、水稲育苗箱全量施肥とか鉄コーティング湛水直播栽培などがありますが、水稲の追肥について、いちいち水田に入ることなく、固体または液体肥料を潅漑水と一緒に水田に流し込む「水稲流し込み施肥法」という技術が開発され、これに適した肥料の開発を行うと同時に、施肥法についてもさらにブラッシュアップします。

 ――農薬でも新たな天敵農薬やウンカ剤の登録申請がありますね。

 天敵農薬では、石原産業が開発している天敵農薬を、29農薬年度から独占的に販売することになりました。これはアザミウマ類、ハダニ類など難防除害虫を捕食する天敵と、天敵を増殖する資材「バンカーシート」(石原産業の特許)をセットにした製品です。現在、実証ほ場での試験などを行っています。
 また、デュポンと共同開発を進めているウンカ剤については、この5月に登録申請しました。最近は登録取得に時間がかかっていますが、ウンカは虫害だけではなく縞葉枯病を媒介します。発生すると大きな被害を蒙りますので、病害虫の緊急度合いや優先度合いに応じた審査をしていただくよう、都道府県の方々とも協力してお願いをしていきたいと考えています。


◆ジェネリック農薬のコスト低減を

 ――コスト低減のためにジェネリック農薬をという意見もありますが...。

 日本でジェネリック農薬に取り組んできたのは全農だけではないでしょうか。ただ日本では、ジェネリックの登録取得に必要なコストがオリジナルの先発剤とほぼ同じくらいかかります。当然、安全・安心については国民的な合意が必要ですから、国で検討していただくことだと思いますが、諸外国では安くできるシステムがありますから、そうしたことを含めてご検討いただいて、できるだけ低コストで登録が取得できるようになれば、それだけ生産者のコスト低減につながるので、検討していただきたいと考えています。


◎担い手農家の経営改善を支援


◆規模拡大や新たな挑戦を可能に

 ――農家手取り最大化を実現するための総合的な取り組みを進めるために設置された「事業改革推進室」の取り組みとは具体的には...。

 昨年度を準備期間として取り組みを始めている1県1JA、全国55JA・60経営体を対象に、JAと全農でプロジェクトを設置して、共同で組合員対応を強化する実践を行っています。そのことで、担い手・経営者・組合員を直視したJAグループとしての取り組みができるということで、大きくは次の3つの柱を立てて進めています。
 一つは、トータル生産コストの低減・多様な生産者ニーズへの対応です。ここでは後でお話しますが、JAの事業をコスト低減に向けて見直しをしていきます。そして「担い手における手取り最大化の実証」となる営農モデルの提案をします。三番目は、こうしたことができるJA職員の人材育成です。
 そして内部体制を強化するために「事業改革推進室」を設置しましたが、これは生産資材部の農機事業改革等担い手推進課や営農販売企画部の営農企画課と一体となって取り組みを進めていきます。

 ――トータル生産コスト低減見直しのポイントは何ですか。

 資材価格を下げることだけではなく配送コストを圧縮することで担い手負担を軽減したり、集出荷施設やカントリーエレベーターなどの稼働率向上を含めて運営コストを見直したりしていきます。また省力栽培を可能にすることで、組合員の労力を軽減し、余剰になった労働力を新たな規模拡大や新品目に挑戦していくような流れを作っていくこともあります。
 これまで栽培している品目についても、より生産性を高め、収量を向上させる。さらに販売価格についても、もう一歩踏み込んだ努力をすることで単価をあげたり、販売シェアを拡大したりすることです。


◆100項目についてヒヤリング調査

 ――取り組みの流れはどうなっていますか。

 3月から4月に、外部コンサルタントの客観的な評価を活用して、いままで取り組まれてきた施策についてヒヤリング調査をしました。それに基づいて各JAで実践具体策、3か年の計画を見直していくために、JAの営農部長・経済部長にも入っていただいて「事業検討会」を7月中に実施することにしています。この検討会以降は、決定した取り組みを順次実践していくことになります。

 ――ヒヤリングの内容は...。

 担い手向け資材コストや事業施設の運営コストなど「物財費の削減」、鉄コーティング湛水直播技術など省力栽培の導入など「労働費の削減」、新品種の導入や農作業受託など「生産性向上」、価格の見える化やTAC活動によるニーズ掘り起しなど「多様なニーズ対応」の4つの大項目について、ほぼ100項目の質問によって、JAで実際どう取り組んでいるかをヒヤリング調査しました。


◆個別経営の成果を地域に広げていく

 ――「手取りの最大化」は、資材価格や販売価格だけではなく、さまざまな要素を含めた総合的な取り組みが必要だということですね。

【手取り最大化のイメージ】【手取り最大化のイメージ】

 そうです。それをイメージ化すると上図のようになります。これはJAサイドの取り組みだけではなく、担い手・生産者が経営改善にも取り組まなければ実現できない問題でもあります。
 そのため全農としては各事業所や都府県本部も一緒に入って、JAと生産者で経営改善をする活動をしていきます。経営改善提案をするためには、担い手の経営実態を把握する必要がありますが、信頼を得ないと情報をだしてもらえませんので、信頼関係を築き「こいつら役に立つな」という認識をもってもらうことからスタートしないといけないわけです。
 そして現状を把握しながら経営改善点を洗い出して、全農と農研機構が共同開発したシステムZ―BFMで営農計画をシミュレーションして、経営耕地の有効活用とか労働力の適正配置から所得の最大化を検討し、提案し実証していくわけです。途中経過や実証結果をみてさらに安定的な生産が可能になるように繰り返しシミュレーションし営農計画を確立させていくわけです。
 こうして個別経営体で得た成果を地域の人に水平展開して利用してもらうこともJAの大きな役割です。

――ありがとうございました。

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