JAの活動:JAは地域の生命線 いのちと暮らし、地域を守るために 2017年今農協がめざすもの
【インタビュー・JA長野中央会 雨宮勇会長】なければ困るJAめざして2017年1月12日
所得減らす買い取り毅然と反論すべし組合員の参画向上へ
聞き手:横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授田代洋一氏
JA長野県グループは、規制改革推進会議がJA改革の意見(提言)を出したとき、すぐさま集会を開き抗議の意志を示した。
JAの結集力を誇るJA長野県グループは政府の一連の農協改革の動きについてどう考えるのか、またJAの自己改革について雨宮勇・JA長野中央会会長に聞いた。(聞き手は田代洋一・横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授)
――昨年11月11日の規制改革推進会議農業ワーキング・グループの意見についてお聞きします。農業大県の長野として意見をどうみますか。
当日、JA長野県大会の日でした。朝、日本農業新聞を見てびっくりし、これは抗議しなければならないと考え、大会前に急遽、決議文の内容を修正して大会に臨みました。提言はまったく企業的な発想で、農業のことをよく知らず、農協組織の内容を理解していない委員の発言を基にした提言だと感じました。
特に全農について、買取販売を1年以内に100%実施しろというのは衝撃的でした。買取価格を決める仕組みはどうするのでしょうか。また鮮度が勝負の青果物を買い取りしても、価格を下げられてロスが発生すれば最終的に農家の負担になる恐れがあります。農協は最終的にはメリットもデメリットも組合員の利益や損失に直接つながるのです。それを踏まえて考えていただきたい。
これまでの規制改革会議の提言は農協の組織だけの問題でしたが、今回は農家組合員に直接影響する問題だけに見過ごせません。農業改革がいつのまにか農協改革・組織解体に繋がる提言でした。納得できません。組合員や組織を守るためにもJAグループは毅然とした態度をとるべきです。
結果的には与党の国会議員のみなさんに、断じて許せないことを訴え、一定の決着を得た格好ですが、政府・規制改革推進会議の全農改革は、その狙いが明確でありません。内容も抽象的で、改革をやるのは農水省か、JAグループか、それとも国か、その辺をはっきりさせる必要があります。
――規制改革推進会議の意見は、3年以内に半数のJAの信用事業を分離して代理店化することを政府に提言していますが。
農林中金の代理店化などとんでもない。総合農協としての機能が果たせなくなり、独自の事業ができなくなります。農家に低利の融資も難しくなり、農協が事業をやるときは借り入れしないとできなくなるのではないでしょうか。代理店化は総合農協としての農業所得の増大や地域の活性化の取り組みに大きな影響を及ぼし、それこそ組織崩壊につながるのではないかと危惧しています。
――全農改革は、まず購買事業をもっとスリム化しろということです。少数精鋭で成果が上がるのでしょうか。
ただ全農は、もう少し事業や商売を行う上で透明性を高めていただきたい。地元のJA信州諏訪では生産資材専門員会があり、購買の予約も当用も、その手数料や奨励金などをすべて報告し、組合員に理解してもらっています。全農も、きちんと情報提供するような制度を整備する必要があるのではと思っています。組合員が不満を持つようでは組織が成り立ちません。情報をきちんと提供するのは商売の原則ですし、統合のメリットが享受できる組織とするべきです。
――農協は共同購入だからこそ組合員の理解が必要ということですね。一方、全て買取販売しろという意見についてはどう考えますか。
米の買い取りは全国的にも少しずつ増えており、まったくできない商材ではないと思っています。ただリスクが最終的には組合員に行くのが農協組織であり、規制改革推進会議のいう買い取りが、なぜ農業者の所得増大になるのかわかりません。品質、物量以前に買いたたかれる恐れがあるのではないでしょうか。
今の卸売市場には価格決定と流通、それに代金決済機能があります。農産物は産地によって品質が違います。しかし全農はそのすべてを売り切る責任があり、良いものだけを買うということは組織理念からできないことです。買い取りは企業的な発想です。品質のばらつきは農産物の常で、よいものしか買ってくれないのであれば、農家は不安です。生産したものはすべて売ってもらえる安心感があってこそ信頼され、農協に結集しているのです。
――政府自民党、規制改革推進会議が、全農の改革の進捗状況を監視するといっていますが。
全農がどういう取り組みをするか、それが所得増大につながるのか、このへんをよく考えないと、組織の信頼性を失う恐れがあります。改革を主張している人とのすり合わせ、改革を理解してもらえるスキームづくり、そしてそれが農業者の所得向上につながるのか。この3つの視点で改革を進めるべきだと思います。
――長野県は若い農業者の動きが活発です。昨夜も松本市で話し合いをする機会がありましたが、ちょっといいものを作ると、すぐ業者が買いに来るといいます。若い人たちは、それもいいけどやはり農協も大切だと言っていました。買取販売と委託販売をうまく使い分けるべきではないでしょうか。
委託販売をベースとし、買取販売は農家のリスクが増大しないよう時間をかけて進めるべきだと考えます。買取販売は定期・定量で原料の品質に幅のある加工仕向けであれば、一部は可能でしょう。しかし青果物で今の量販が求めているものは品質や等級をきちんと分けたものであり、売れないものが発生することも予想されます。それを買取販売で扱うのは質・量の面で難しいと思います。
――長野県でも准組合員が増えていますが、准組合員の利用制限をどう考えますか。
日本の農業、国民の食料を支えるメンバーとして利用していただき、食やくらしの質を高めることが大事です。また、このことを理解してもらうよう、広報などを通じてはたらきかけ、農協の運営に参画していただくことが重要です。そして一緒に地域を支える。これがないと農村社会は崩れてしまいます。そうした思いを持てる仕組みを考えていきたいと思っています。
――自己改革として、特に力を入れていることはなんですか。
事業と組織と経営のあり方やこれから取り組むべきことはJA長野県大会でも議論し、決定しています。人口減による組合員の減少、低金利の厳しい金融情勢でJAの収益は毎年落ちていますが、信連の還元金がなくなると、代理店化の前に組織再編が必要になるかも知れません。いま一度、組織のあり方を検討しなければならないと思っています。
昨年のJA長野県大会の決議は、自己改革の加速化でした。具体的には重点品目の拡大や組合員の参画度を上げるというものです。それぞれのJAには重点品目があります。その品目の販売力強化につながる枠組みを、いままで以上に生産者や地域の人を巻き込んでつくらなければなりません。そのためには、組合員の皆さんに、きちんとJAの運営に関わっていただき、自分の意見がJAの運営に反映されているんだと感じてもらえる仕掛けづくりが必要です。
そして、地域の生活インフラは最大限農協が守る。それが自然や環境を守ることにもつながります。漠然と農協があって良かったというのではなく、事の大小を問わず、組合員や地域から、「JAがなくては困る」と言われるようにしたいと考えています。
――どうもありがとうございました。
(あめみや・いさむ)
昭和43年長野県木曽郡農協入組。原村農協、富士見町農協を経て平成4年合併で 諏訪みどり農協へ。11年JA諏訪みどり 常務理事。16年合併でJA信州諏訪 常務理事、20年代表理事専務理事、23年代表理事組合長、28年JA長野中央会会長。
【インタビューを終えて】
新任早々から難題に直面されている雨宮会長のお話を伺った。「農協は最終的にはメリットもディメリットも農家に行くことをしっかり踏まえ、きちん情報提供して事業の透明性を高めることが大切」とおっしゃる。これぞ農協改革のキモだ。長野は平場、中山間と自然に富み、景観は抜群、作目は多様で、各農協とも個性的だ。「多様性を尊重しつつ団結する」のが今日の協同の要諦。そのリーダーシップと准組合員問題、公認会計士監査などへの手堅い手腕を期待申しあげたい。(田代洋一)
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