JAの活動:JAは地域の生命線 いのちと暮らし、地域を守るために 2017年今農協がめざすもの
【鼎談:2017 世界はどう動く】転換期声上げ闘おう(2)2017年1月14日
この国の針路米国依存から脱却を
森田実氏(政治評論家)
孫崎享氏(元駐イラン大使・元防衛大教授)
萩原伸次郎氏(横浜国立大学名誉教授)
萩原 ところで、トランプは日本の牛肉関税が38%、しかし、日本の自動車関税は2・5%だから不公平だ、公平を期すなら日本の自動車にも30数%の関税をかけるべきだという主張をしているようです。これはアメリカに産業を呼びたいという意図ですか。
孫崎 その意図は非常に強い。明らかにトランプは今までの新自由主義的な流れもノーだということを明確に出しているし、この圧力は相当強い勢力なわけです。しかし、そこにヒラリー・クリントンを支えていた新自由主義的なグループとそれから軍産複合体的なグループが襲いかかってきます。そうするとこれに彼が耐えきれるかどうか。トランプにとって今の方向性は好ましいでしょうが、国内を支えきれない可能性も十分にあると思います。
森田 米民主党はたしかに大統領選挙では敗北しクリントンが負けました。日本ではトランプが勝つべくして勝ったという主張がありますが、クリントン自身は実はFBI長官にやられたと言っています。FBIはメール疑惑をもう一度捜査するといいましたが、選挙寸前にそれをやめた。しかし、そのときはもう世論が変わってしまっていてトランプと対等の戦いになっていた。クリントンは原因はFBIだといっています。
クリントンが敗北したのですが、民主党側には負けた気がしないところがあると思います。実際に総得票数はクリントンのほうが多いわけですから。2年後には民主党はかなり議会で復活してくるのではないかと思っていますし、4年後には再び民主党の体制ができあがる可能性があると私は思っています。
◆空振りアベノミクス / 自民党の分裂も
森田 それ以上にトランプにとって大きいのは失業問題の解決です。白人労働者の失業問題の解決は、4年でできるような問題ではありません。だいたい完全雇用というものをレーガン以来の新自由主義がつぶし、大多数の労働者は半失業者にされてしまったわけです。35年間かかったことを4年間で回復するなんてことは難しい。
日本でアベノミクスで黒田日銀総裁が出てきて異次元の金融緩和だ、金はいくらでも出すといっても空振りです。今のデフレ不況は、3年や4年では解決できません。それは20年、30年が経てばデフレ不況の生活習慣が作られるからです。たとえば私の50歳前後の若い友人たちが言うには、自分の子どもたちにいちばんしたいことは何かと聞くと、ほとんどが貯蓄と答えるそうです。生まれたときから不況だからお金を貯めるんだという。もう金は持っても使わないという文化、習慣ができ上っているわけで、黒田総裁がいくらはったりを言っても世の中は動かない。世の中を動かすにはやはり企業家が完全雇用を達成する、正規雇用を増やす、賃金を増やすということをやらない限りだめです。
アベノミクスはうまくいかないと私が言っていたのは結局、物価上昇目標を2%、3%としたからです。物価上昇というのは決して一般大衆にとっては楽しいことではありません。不愉快なことです。ところが経済分析をやっている人間にとっては成長率や物価上昇率が大事です。
1960年に池田内閣が登場しましたが、池田さんも大平さんも所得倍増という言葉を注意深く使い続けました。所得が倍増することは国民にとってはいいことだからです。ブレーンの学者の下村治や内田忠夫などは成長率といった言葉を入れていましたが、政治家は使わなかった。物価上昇率などは学者の言葉です。
ところが今の政治家は平然として物価上昇率いくらを目標にするなどと言う。失業率をどこまで下げるか、正規雇用をどこまで増やすか、賃金をどこまで上げるかという国民の生活に直結することを語らず、物価上昇率や成長率ばかり言っています。アベノミクスは空振りに終わってしまったのは観念先行だったからだと思います。
◆ ◆
孫崎 森田さんが指摘されたようにトランプが出てきて終わりではなく、2年後の中間選挙、そして4年後に向けて、ドラマはこれから始まるということだと思います。
トランプが起用したマティスという国防長官はひどい人間です。2000年代初め、彼は、アフガンにはベールを被らないといって女性を殴る男がいる、これを撃ち殺すのは楽しみだ、と言いました。彼は重要なことに全部関わっています。2001年にアフガンに拠点をつくり、03年からのイラク戦争では海兵隊を仕切って現地に行った。04年にファルージャで戦闘があったとき、一般市民も巻き込んで殺して、それが今日のIS(イスラミック・ステート)の元凶となった。少なくともオバマはアフガニスタン戦争、イラク戦争はおかしかったではないかといって当選したわけです。ところが次期政権はその最高責任者を起用した。だから安全保障の面では暗黒の時代に入っていくとも考えられます。
そうした問題の日本への影響をどう考えるかですが、集団的自衛権に関連してこれまで日本が米国から言われてきたのは、ショー・ザ・フラッグ、旗を立てろ、であり、次はブーツ・オン・ザ・グラウンド、戦場に軍靴を出せ、でした。そして今、言われているはシェッド・ザ・ブラッド、血を流せ、です。
ただ、こういう状況のなかで、安倍支持の流れにどっぷり浸かっていた国民のなかから、おかしいではないかという動きがかなり出てきていると思います。
そのいちばん顕著だったのは参議院選挙の一人区だったし、新潟の知事選挙だったということです。今までの動きが反転する可能性が出てきたと思います。それは野党共闘が次の衆議院総選挙でどこまでできるかということになってきました。逆にそれを止めようとしている勢力もあり、この動きがどうなるかということが日本の将来に非常に大きな影響を与えるのではないかと思います。
森田 その通りだと思います。ただ、実際を見ると共産党は小選挙区のほとんどに候補者を決めました。今までは民進党の野田や岡田の選挙区には、候補者を立てないでおこうという見方があったんですが候補を立てている。もちろん今の共産党の志位委員長は民進党が野党連合政権というものを呑めば、候補者を取り下げていいというだけの指導力を持っています。ただ、それをやると民進党に分裂のおそれがある。
したがって、今度の選挙は民進党が自民党を大きく切り崩す選挙をやる以外に道がなくなっていると思いますが、今の民進党は本当に腰抜けで候補者も過半数ぎりぎり立てればいいというような姿勢です。過半数ぎりぎりの候補者で過半数などとれるはずがありません。
民進党独自で小選挙区395のほとんどに候補者を立てる決断を今の民進党ができるかどうかが大きな焦点になってきています。
それをやると今度の総選挙はどうなるか。安倍首相は衆議院選挙を2度、参議院選挙も2度勝ち統一地方選も勝っていますが、これだけ勝つと国民の不満が蓄積しています。このため投票率は下がります。政治に不満をもつ有権者が投票所に行って投票するのは反安倍です。民進党がその層を吸収すれば今の自民党の議席は相当減らすことができます。
他方、自民党が勝ちつづければ自民党内に分裂の芽が出てくる。1993年に細川政権ができたときにも自民党が分裂した。鳩山政権ができたときは表には出ませんでしたが、与謝野や石破という議員が内部で造反を起こして、もし選挙が8月でなければ分裂が公然化する恐れがあるぐらいの状況で選挙になりました。
自民党がずっと優位でやってきたこの日本において自民党政権を倒すには、自民党分裂しかない。今の流れはそっちの方向にいく流れだと思いますが、長期的にみると、私は15年に一度くらいは太りすぎた自民党に分裂が起きると見ています。その時が政権交代のチャンスです。
孫崎 参院選での東北、北海道の反発のひとつの根拠がTPPです。
ところが、農業団体はTPP反対では腰が引けていたと思います。しかし、今の状況は意味のないTPPが成立した。意味がないTPPなら反対勢力をつぶす意味もあまりないわけで、そこで何が起こるかというと、農業関係者からもTPPのような意味のないことをやるこの安倍政権はおかしいという声も出やすくなるということです。
萩原 世論調査ではTPPについて、国民には慎重に審議すべきだという声が多かったですが、こと安倍政権を支持しますかという質問では結構支持率は高い。
◆若者は怒りと勇気を
孫崎 冒頭の話に戻ることになりますが、イギリスでもアメリカでもノーが出てきたということですし、本当にノーと言い続けられるかどうかという問題はありますがイタリアでもノーが出てきました。フランスもその勢力が増えてきている。その原因は共通なんです。ところが日本だけなぜかノーの動きが出てきていない。私はそこには2つの要因があると思っています。
1つは今日も話題になりましたがマスコミです。もうひとつ残念なことですが、日本国民には権力に隷属する基本的な流れがある。これは幕末のときにアーネスト・サトウが書いていることですが、この国の国民は権力者に隷属することしか考えていない、だから外国が来ても支配するのは簡単だと、そこまで書いています。
その意味で残念ながら力の強いものにつくということです。とくに今深刻化しているのが経済がおかしくなったということで就職が担保されないという状況になってくると、ますます自分を守るためには権力側に少なくとも反発しているというグループにはいたくないという心情を持つ。それは若い男性になればなるほどそうなんです。
ですから私は日本の新たな展開をしてくれるのは女性しかないと期待しています。それは現実の問題として参議院選挙であれ、集団的自衛権や憲法改正であれ、男性誌は取り上げませんが女性誌ではTPPはおかしい、憲法改正はおかしいなどとかなりスペースを取って書いているからです。それはそのテーマで買う層が女性にはいるからです。男性にはいない。
◆ ◆
萩原 アメリカはご存知のようにサンダースを支える人は若者です。サンダースは高い学費など若者特有の問題を語りかけて支持を広げていった。今回の投票でもクリントンには若者が結構投票し、トランプに投票したのはおじさんたちです。サンダースはクリントンを当選させるといったので、若者がクリントンに投票したと思いますが、アメリカの若者と日本の若者はかなり質が違うということでしょうか。
孫崎 アメリカだけではなく世界中と比較して違うということではないでしょうか。
この間を振り返ると、いい運動だったかどうかは別にしてもアラブの春、オレンジ革命、そしてアメリカ、韓国ですね。若者が中心になって革命的な動きが起きてくる。ところが今、日本でいちばん声を上げているのは老人です。安保世代がやっているわけです。
森田 結局、60年安保の場合は社会党がしっかりといてそれが命がけで戦った。それからマスコミが社会党に乗った。それで大衆運動が起きた。だがそれだけでは勝てないことは分かっていた。安保条約を潰すために必要だったのは自民党議員の造反でした。
実は60年安保のときには石橋湛山、河野一郎、三木武夫らが安保反対に回ったんです。岸首相が5月19日の未明に本会議で一挙に採決したのは、もし時間を置くと自民党内の造反が広がって危ないという状況がでてきたからだった、と私は当時から思っていました。岸首相が採決を逡巡したら反対が増えたかもしれませんし、実際、賛成多数というだけで正確な数は発表されていません。あれだけ多数を持っていた自民党が何十人かの造反で追い詰められたんです。
だから安保条約反対派はもう一歩のところまでいった。
60年安保闘争の運動の目標は安保条約を阻止することと岸を倒すことでした。
しかし、岸は倒したが安保はだめでした。ただまったく駄目だったかといえばそうではなく、自民党のなかで総理経験者も含めて超大物も造反に回った。これがもう20、30人増えれば「あっと驚く大逆転」という状況までいっていたんです。ですから、私は、惜しいところまで行った、最後に岸にやられたと思っていました。ただ、その岸だけは倒すことができたと思っています。
安保闘争は日米両国政府の心胆を寒からしめたものがあったから、両国政府はしばらく何もできなかったわけです。何もできなかったから池田内閣でケインズ型経済政策を実行することができた。だから孫崎さんの言うように、60年安保は意味があったということは私も同意見です。
◆
森田 今、わが日本でピンチなのは、つまり、野党第一党が闘う野党になっていないことです。それからマスコミが野党と手を組むという状況にはなっていない。むしろ与党の側に立っている。大衆運動が起きようがないんです。
マスコミと野党がタイアップする、そして大衆運動が起る。とくに大衆運動は学生と労働組合、それに農民運動ですがこれがあれば市民運動が盛り上がってくる体制になりますが、今の状況はマスコミが政権の手先になってしまっている。野党でも手先が増えてしまって裏切り者ばかりになってしまっている。こういうお寒い状況ですが、私は、韓国の大規模な反政府運動は日本に影響すると思います。過去がそうでしたから。近い将来学生が動き出すのではないかと思います。
萩原 今の大学生をはじめ若者の経済的状況は非常に困窮を極めていますね。私たちの時代はそれなりの余裕がありましたが、今は奨学金の援助を受けるとそれを返さなければいけないという大変な借金を背負っています。アメリカと同じ状況が日本でも起こっています。それを考えると今の自民党政権のやり方というのは本当にやりたい放題で、カジノ法案も本当に短い時間で通していってしまったというようなことがまかり通っている。マスコミもそれなりに批判はしていますが、体制にすり寄っているという側面は確かにあるかもしれないですが、世界の状況が大きく変わってきている認識を持たなければならないということが今日のお話しで明らかになったと思います。
孫崎 昨日もある弁護士の集まりで講演しましたが、この世界の状況を若者にどう訴えていくのかという話になりました。
私が申し上げているのは、今日も強調しましたが、日米安保の基地負担が7200億円にもなっており、私たちが考えなければいけないのは軍備に力を入れているということは、必ずわれわれの生活環境がおかしくされるということです。学生の困窮を指摘されましたが、ある野党のリーダーは国公立大学の無償化は5000億円あればできると言っています。
萩原 基地を撤去すればできるわけですね。
孫崎 そうです。思いやり予算を振り向ければ、国公立大学は無償化できるんだということです。米軍基地のような問題はわれわれから縁が遠い、安全保障について私は分かりませんというのではなくて、実は自分たちの問題と関係しているんだというかたちの論理展開をしていったほうがいい。 いろいろな政策に対する反対派も細切れですね。TPPで反対する、原発で反対する、その反対運動としての関係はあまりありません。しかし、基本的にはつながっている問題です。そういう意味で、たとえば学生の生活問題と安全保障の問題は実はつながっている、福祉がおかしくなっていることともつながっているということをまとめて考えていくことが求められていると思います。
萩原 アメリカではサンダースが言っていますね。国公立大学無償化など夢物語ではないかと批判されることに対して、彼は軍事費を減らせばこんなことは簡単にできる増税しなくても今の税の使い方を考えればできるんだと反論しています。要するに税金の取り方と使い方、そういうものを工夫する、具体的に訴えていくということが非常に重要な時代に来ているということでしょうか。
森田 戦後の運動を考えると、きっかけは権力側のやり過ぎやミスです。ほとんどがそうで、今はミスが非常に起きやい状況になっています。
しかし、どうして野党が大騒ぎしなかったのかと思った問題に安倍首相の発言があります。安倍首相は年金カット法案の審議に出席し、民進党に対してあなた方がいろいろ主張しても国民の支持が上がらないではないか、と発言しました。一昔前ならばあの発言は問題になった。傲慢不遜だ、取り消せと。しかし、野党は黙ってしまいました。 そのようにみんながおとなしくなっている感じがあります。政治家だからやはり、どこかで首を刎ねられても仕方がないというような勇気ある人間が出てこないと活性化しません。もともと政治活動というものは狂気性を帯びやすいものです。狂気になった人間が勝負していく。だから首相にも狂気性はあると思いますから、野党側にも狂気性を持った人間が出てきて勝負してもらいたいと思います。みんな冷静すぎると思います。理性だけでは闘いはできません。野党議員に闘争精神をもってほしいと思います。
萩原 多岐にわたるお話しをありがとうございました。
【鼎談を終えて】
2017年はまさに激動の年になるという予感がします。歴史的転換は、ドナルド・トランプ氏の大統領就任で事が始まるわけで、懸案のTPPからの離脱宣言の後、トランプ政権が、どのような政治を展開するのかが注目されるところでしょう。従来の政治パターンからの変化が訪れることは間違いありません。また、衆議院選挙必至と言われる2017年に、安倍政治からの脱却が、日本の政治にとっての大きな課題となることは間違いないところでしょう。(萩原伸次郎)
(写真)鼎談風景、萩原伸次郎氏
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