JAの活動:JA全国女性大会特集2017
【「あったらいいね」を形に】JA改革の中での女性組織の役割2017年1月29日
コミュニティの主役は女性共通課題を「自分ごと」で魅力ある地域の原動力に
農業・農政ジャーナリスト榊田みどり
JAの原点はよりよい生活をしたいという組合員の願いを実現することにある。そのための重要な手段が農業所得の向上だが、しばしば目的と手段が逆転しがちである。暮らしを起点とした協同組合本来の姿に戻すのが女性の役割という、農業・農政ジャーナリストの榊田みどりさんに、実際の取組み事例をもとに報告してもらった。
◆農村は暮らしの場
取材で各地を回っていると、農業の成長産業化のための農地集積と規模拡大、さらに農業が衰退したのはJAのせいだと言わんばかりのJA改革論に、JA関係者だけでなく違和感を抱いている人たちに会うことが多い。
食料供給の場としてだけ農村を見れば、農地を担い手に集積して規模拡大し、効率よく低コストで食料生産し、都市部に供給するのが最も合理的なのは確かだ。そのために農村の人口が減ろうが、食料生産の労働力が人間からロボットに代わろうがかまわない。
これは都市型の発想で、現実には、農村は都市部への食料供給の場だけではない。ひとが安定して暮らしていける「生活の場」であることが大前提であり、まずは「暮らし」が「産業」よりも優先されるのが当たり前だ。自らの生活やコミュニティを壊してまで都市部への食料供給や国のGDP向上のために貢献する必要はないはずだ。
農業産出額は畜産や果樹・野菜が多いが、農地面積でいえば、今も日本は水田が圧倒的に多く、土地利用型農業が広く営まれている。土地利用型農業は、市場経済と接点を持つ産業としての要素の下に、都市の人間にはわからない、農村コミュニティの共同行動に深く組み込まれた基盤がもともとある。
都市型の発想では、市場経済の中での農業しか議論の対象にならないが、近年の農業改革に対して、「これでは地域が壊れる」という懸念の声を聞くことや、今の農業改革とは一線を画した「地域を守る」農業のあり方を模索する地域に出会うことが増えたのは、希薄化したとはいえ、今もその基盤が地域に深く根ざしていて、農業だけでなく農村の生活基盤を支えているからだと思う。
この状況下、JAグループはどんなスタンスに立とうとしているのか。第27回大会では創造的自己改革の柱として「農業者の所得の増大」「農業生産の拡大」「地域の活性化」の3点を掲げたが、農業の産業化にJAの存在を特化するかのような最初の2点に重点が置かれ、「地域」や「暮らし」が後回しにされた印象を抱いたのは私だけではないと思う。
協同組合の原点に沿った、地域に根ざしたJAの活動は何か。その答えを探さなければ、協同組合としてのJAの存在意義は失われてしまうのではと危惧している。
◆協同組合の原点は
協同組合が目指すのは、平たくいえば「みんなが安心して暮らせる地域を協働で作り出す」ことが原点ではないか。混住化が進み、かつてのような組合員の均質さは希薄化したが、農業者も商業者も消費者も、みな同じ地域に住む"地域人"として共有する課題がある。地域協同組合としてのJAの存在意義は、そこにあるはずだ。
純農村が中心だった時代、農村女性たちの間で「協同炊飯」という風習があった。農繁期、各家庭で炊飯する労力を軽減するために、女性たちが交代で複数の家庭の食事を作る。暮らしの中から生まれた協働の形だ。
今や地域の食と農の拠点として機能している直売所も、もともとは農村女性たちが、自らの収入を生み出すために始めた青空市が出発点だ。現在の子育て支援や高齢者介護支援も、自分たちの暮らしに必要なことを、ひとりでは難しくても相互扶助によって課題解決していこうとするもので、それが協同組合の強さだと私は思っている。
その意味で、主役はJA単協でも、ましてJA全中でもなく、地域を運営している現場の組合員だ。私自身、かつて生協に勤務した20代の頃、職員教育でたたき込まれたのは、「協同組合の職員は、組合員に代わって組織運営や組合員サポートの実務を担当する専従職員。組合員に雇用されている立場」ということだ。JAでいえば、組合員や青年部・女性部組織の会員であるみなさんが主役であり、単協、県中央会、全中はみなさんのニーズや意見を元に事業を行う立場なのだ。
もっとも、「主役」であるということは、JAの指示に従い、お膳立てされた席に座って「お客さん」扱いされるだけでなく、自分たちが主体的に考え行動する責任を問われる立場にあるということでもある。
JA女性会の歴史を振り返ると、女性たちが自らの主体性で立ち上がり、自分たちにとっても地域にとっても必要とされる事業を立ち上げてきた素晴らしい事例は少なくない。
◆ ◇
たとえば、JA直売所の草分け的存在、JAコスモスの「はちきんの店」(高知県佐川町)は、組合長をはじめ当時の男性役員たちが難色を示す中、何度も直売所の建設を求めて交渉を重ね、最終的には「すべて自分たちで運営」を条件に、JAの出資を一切受けず自ら出資金を出して86年に開店。その収益でさまざまな講座も開催して学び合い、ヘルパー資格取得を機にたすけあい組織「にこにこ会」まで結成したことで知られる。
その「はちきんの店」だが、今では佐川町にある本店だけでなく、高知市内などに4店舗のサテライト店を運営している。サテライト店の一つ、愛宕店は、高知市の商店街の空き店舗を活用している。
大規模な郊外店の林立とともに市街地の商店街がシャッター通りと化した風景は全国共通だ。高知市でも、近くのスーパーが撤退したことで車を持たない市街地の高齢者が"買い物弱者"になっていた。
実は、買い物弱者問題は、農村部より都市部のほうが多い。愛宕店は、農村部で始まった女性たちの活動が、都市部の抱える社会問題を解決する役割まで担い始めている。
JAあづみ(長野県安曇野市)の女性組織活動から生まれた「NPO法人JAあづみくらしの助け合いネットワーク"あんしん"」も、介護保険ではカバーできない小さな有償サポートを、暮らしの経験に基づく女性らしいきめ細かな配慮で実践する相互扶助組織として、社会的に高い評価を受けてきた。
さまざまなメディアで何度も取り上げられているので詳細は割愛するが、今ではJAの枠を超えて「地域支え合いセンターあんしん」という独自の活動拠点を持ち、行政とも連携しながら、地域住民全体を対象に地域社会の助け合いネットワーク構築の一翼を担うまでになった。
今回のJAグループ自己改革の3本目の柱である「地域の活性化」は、「女性が主役」というJA関係者の声を聞くことが多い。協同組合運動として最も重要な部分は、男性たちではなく女性任せにするのか...という複雑な思いも正直なところある。
ただし、たしかに営利のみを追求するのではなく、暮らしの中で自分や仲間の抱える課題、さらに地域の課題を「自分ごと」ととらえる感性と行動力、そしてつながる力(コミュニケーション能力)は女性のほうが一般的には高いとも思う。
肩肘をはるのではなく、身近なところから「子どもが安心して遊べる場所がほしいね」「子育てや介護でこんなサービスがあったら助かるね」「みんながふらっと立ち寄れるカフェがほしいね」...と、女性たちが、さまざまな「あったらいいね」を共有し、それを形にしていけないだろうか。それが結果的には地域に求められる事業になり、豊かで魅力ある地域づくりにつながっていくはずだ。
◆つながり求めて
格差の拡大や地縁の希薄化が進む都市部は、今後、高度経済成長期に大量に流入した団塊世代の高齢化が一気に進む。出生率が最も低いのも都市部で、近い将来、農村部以上に少子高齢化や貧困層の拡大が深刻になる。いずれ農村が、都市にとって学ぶべき先進モデルになる時代が来るとの指摘もある。
実際すでに、「儲ける」こと以上に地域づくりやひととひととのつながりに魅力を感じて、都市から農村に移住する若者たちが近年は増えている。「あったらいいね」を「自分ごと」としてとらえることが、きっと地域を元気に魅力的に変えていく原動力になるはずだ。
(写真)はちきんの店は買い物弱者の拠りどころ、きめ細かいサービスが評判の「あんしん」のメンバー
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