JAの活動:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―
【第39回農協人文化賞記念シンポジウムより】受賞者の経験活かそう2017年7月21日
・「なくてはならぬ」JAへ
・改革に王道なし当り前を実践
今日の農協が発足し、今年で70年になる。戦後の混乱期、農協の発展に苦労した先輩は、その多くが鬼門に入り、今の農協のリーダーは2代目、3代目になる。社会、経済情勢が大きく変わるなかで、「改革」に名を借りた〝農協解体〟とも見える政府の農協攻撃が顕著になっている。われわれは、先輩から何を引き継ぎ、これからどの方向を目指すべきか。7月5日、農協運動の仲間達が贈る第39回農協人文化賞受賞者のシンポジウムは、参加者に多くの示唆を与えた。その経験・体験を学び、さらに次世代へとつなげたい。(全員に、5日の表彰式で披露いただいた色紙の言葉への思いを聞いた)
【経済事業部門】
多様な農家を結集させて
片寄利剛氏
(福島県JAいわき市・前代表理事常務)
◆前例にとらわれず
色紙は「虚心坦懐」としました。旧習・前例にとらわれず、常に「無」の状態で、人の話をよく聞き、新しいものに挑戦するということです。そして決定したら速やかに行動するよう心がけています。
JAとして3つの目標を掲げました。第1に農業所得の向上で、それには生産コストの低減と販売高のアップがあります。単価を上げることは難しいので、収量を増やすことにしました。そこでJAでは種子の改良、地力の向上、それによる連作障害の防止をめざし、その研究をしています。
2つ目は小さな農家を守ることです。管内は95%が兼業農家です。規模の大きい米作農家にとって農地や水路の維持が難しくなっています。他人の農地を預かっても法(のり)面や畦の草刈りができません。それをフォローするのが兼業の小規模農家です。助け合って共同で草刈りをするためにも、意欲のある兼業農家の存在が欠かせません。その小さな農家の結集体が農協ではないでしょうか。3つ目は耕作放棄地を減らすことです。これは国の農政の役目でもあり、JAグループとして政策提言するべきです。
◆ ◇
中村直己氏
(佐賀県JAさが・代表理事副組合長)
◆果断にチャレンジ
色紙は「自己改革・改善へ果断にチャレンジ」としました。高齢化、消費地に遠いことから、農家の所得増大には県内のJA一本化が必要です。そこで平成19年、11JAのうち8JAが合併しました。その後、県経済連の事業を包括継承し、県域機能を備えました。また県域を越え、長崎とPB肥料や有機配合肥料で相互乗り入れするなどで連携しています。またAコープも福岡、大分と3県で一体化する計画で、農薬も福岡、長崎と連携し物流を集約しました。経済連のグループ会社は15ありますが、9社をホールディング化する予定です。このように事業・組織改革に果断にチャレンジしています。
【営農事業部門】
組合員のため「人」を育てる
中川治美氏
(茨城県JAなめがた・前代表理事組合長)
◆事業に野心持って
色紙は「有言実行」としました。農協歴は浅く9年、組合長は2期6年でした。農協は本当に農家のためになっているのか、組合のためではないかという声を聞いていました。農家は、儲からなければ農協を相手にしません。この点、農協は、儲けて組合員に還元しようという野心もなかったように思います。儲けるには職員の資質向上が第一で、そのための教育に邁進しました。
次に農家の高齢化という問題に直面しました。5年、10年先は必ず後継者不足になります。また、農協は本当に付加価値をつけて出荷しているとは思えません。そこで大学芋やお菓子用ペーストなど6次産業化に取り組みました。
特にカンショは年間出荷のためのキュアリング貯蔵、東京スカイツリーの麓にある商業施設に「おいも畑」の開園などに取り組みました。「売る」のではなく、喜んで「買ってもらう」へ、意識の切り替えが必要です。
◆ ◇
平林悦朗氏
(京都府JA京都やましろ・常務理事)
◆茶・ネギで所得増大
JAは農家のためになにができるか。それには農家所得の増大、有利販売しかない。ネギ部会30人、40未満の平均年齢。営農を継続するには儲けもうけてもらうしかありません。パックセンター 洗浄・調整・包装の施設整備で支援し、販売額は2億円が6億円になりました。毎年10~15ha増えています。
ネギ、青ネギは東京の築地市場に出荷しています。そして宇治茶です。700名の生産者がいます。その多くは茶商に売っていましたがそこにJAが介入し、相場を引き上げました。12、13億円だった販売額が40億円になりました。色紙にも書きましたが、「有言実行」で農業にチャレンジしていきます。
◆ ◇
三角修氏
(熊本県JAきくち・代表理事組合長)
◆創造型職員を育成
JAきくちは経済事業型JAです。先輩たちが、農家所得の確保、JAの健全経営に対していろいろな仕掛けを残してくれたことに感心しているところです。平成元年合併当時303億円あった販売額はその後低迷しましたが、28年度合併前の300億円あった水準に達しました。この水準をキープする使命があります。管内の菊池地域は人口が、横ばいないしは増加傾向にあります。これも農業が元気だからこそと考えています。
JAの運営では小集団活動を重視しています。トップダウンでは職員の能力が発揮できません。創造型職員が必要です。地域とともに人が育つ。やはり重要なのは「人」です。それには教育文化活動によって理念を刷り込ませることです。色紙の「創挑育」の「育」はその思いを込めました。
◆ ◇
山口恒朗氏
(愛媛県JAひがしうわ・前代表理事組合長)
◆「人と自然」で夢を
非農家の准組合員で、民間企業を経てJAに入りました。JAの仕事は面白いと思っています。管内は標高ゼロmから1400mまであり、小規模で多彩な農業が営まれている中山間地域です。愛媛大学などと共同研究プロジェクトを立ち上げ、農業の振興計画を立てました。特に畜産では、子牛育成施設を新築移転し、愛媛県の開発したブランド牛「あかね和牛」の普及に力を入れています。
JAの自己改革が唱えられるなかで、28年度から第2期農業振興計画「地域の特性を活かした生命(いのち)を育む西予ブランドづくり」の策定によって、「力強い販売戦略の構築」を全役職員全体の意思として取り組んでいます。色紙の「夢」はJAひがしうわの「人と自然の夢づくり」の「夢」です。
【共済・信用事業部門】
協同活動と総合事業が基盤
井上信一氏
(石川県JA石川かほく・代表理事組合長)
◆共済あってのJA
地域に根ざした共済活動がモットーです。平成5年JAの理事になり、組合長の19年、20か所の支店を5つにする大きな改革を行ないました。支店廃止後、福祉事業にも力を入れ、地域助け合い組織「にっこり百彩会」で介護予防、「24時間対応型訪問介護事業に取り組み、本年4月から通所介護事業で「ほのぼのサービス」をスタートさせました。
共済事業の3Q訪問活動を通じて全戸訪問を行い、安心チェックによる契約者フォロー活動を徹底することで、組合員、利用者のJAへの信頼を高めています。当JAの事業総利益に対する共済事業の総利益は40%を超えており、こうした福祉活動は、共済事業の収益に負うところが大きく、JA経営にとって大変重要な位置にあります。
◆ ◇
芳坂榮一氏
(長野県JA信州うえだ・前代表理事組合長)
◆地域を守る〝原資〟
色紙にも書きましたが、組合員、地域に「感謝」です。JA信州うえだの資金量は県内トップを維持しています。販売事業が減っても、貯金が維持できたのは、くらしの活動を中心とする生活・営農指導などの総合事業の基盤があったからだと考えています。総合事業あっての信用事業です。
相続対策、相談機能、組織基盤の確立、この3つに力を入れてきました。こうした活動を通じて、役職員が一体となって協同活動をしっかりやり、地域を守る気持ちがあれは、国から何を言われても心配ありません。そのための柱が信用事業です。原資無くして営農事業も地域活動もできません。
◆ ◇
吉田康弘氏
(兵庫県JA兵庫六甲・代表理事組合長)
◆感動を呼ぶ事業を
少し長くなりましたが、色紙には「わたしたちは創造します 人 感動 緑のまち」としました。感動とはJAの事業活動を通じて組合員や地域の人の琴線にふれるような活動をしようと言うことで、合併後のJA兵庫六甲の経営理念でもあります。管内の農地は市街化区域が2割あり、不動産の有効活用による手取りの拡大や、農と住のバランスのとれたまちづくりに取り組もうというものです。
当JAには信用部とか共済部という部署がありません。組合員目線でという観点から、信用、共済、生活文化活動を含めた組合員の生活すべてに関わる「生活文化事業部」がその機能を果たします。営農経済事業による農業の活性化、市街化区域の資産管理で農業に代わる所得確保、生活文化事業で豊かな生活の維持・向上などで地域貢献すれば信用事業は伸びます。
【厚生事業部門】
油田幸子氏
(JA鹿児島県厚生連栄養管理科指導主幹)
◆こころゆたかに
「心ゆたか」は、からだの栄養が満ち足りていることです。心の大切さ、つまり食の原点に戻ることだと思います。色紙の「こころゆたかに」は私の思いです。その原点である食をつくるのは農であり、それを農協が担っているのです。おいしいをおいしいと感じない、宇宙人のようなお母さんが増えています。本当においしいとはどういうことか、改めて見直していただきたい。
【一般文化部門】
「全体をよくする」に挑戦
菅野孝志氏
(福島県JAふくしま未来・代表理事組合長)
◆声なき声を聞いて
宮沢賢治の思想や、賀川豊彦、ライファイゼンの協同組合論、農協就職までの研修先だった淡路島の北浜農協など、協同組合の可能性はすごいなと感じて農協に入り45年。色紙の「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」は賢治の言葉です。それが農協のめざすことだと思います。
農協は意外と男性社会です。しかし営農とくらし面で、実質は六分四分で女性の組織です。しかし、なかなか女性の声が聞かれません。その思いをもって農協を運営してきました。
協同組合は何でもできます。それには資本が必要ですが、それは農家の節約金です。それによって将来を担う人を育ててきます。農協はそうした組織です。合併して畜産・園芸団地、新たな営農組織の育成など懸命に取り組んでいます。「全体がよくなれば...」の核に農協がなるよう、声なき声を聞きながら努めていきます。
◆ ◇
菊井健次氏
(JA大阪中央会・専務理事)
◆都市農業のPRを
私の願いは、出向く中央会職員であってほしいということです。JAの職員にもそうです。いま地産地消といわれていますが「知産知消」、お互いを知ることが大事です。都市農業の持つ多面的機能の大切さを、国民にもっと知ってもらう必要があります。組合員や地域に貢献するJAです。職場、家庭、地域で、JAの役職員が一層の力を発揮するよう期待します。
◆ ◇
小林光浩氏
(青森県JA十和田おいらせ・常務理事)
◆お互い相手のため
色紙には「協同は利他心」と書きました。競争は利己心です。他人の利益守るのがJAだと、常に確認する必要があります。JAの共済でも、最後まで自分が保障を受けなかったから損したというのではなく、自分が使わなかったのが、他人のためになるのならいいではないかと思う。それが利他心で、まさに共存共栄の思想です。
◆ ◇
髙山拓郎氏
(長野県JA松本ハイランド・前代表理事専務理事)
◆組合員組織に聞け
色紙は「人づくり」です。人がどう動いているか。これが組織を運営していく上で最も大切なことです。その人をきちんと評価し、経営の継続性を保たなければなりません。JAの運営では、リスクを定量化、見える化して組合員や地域に示し、組合員の主体性を高めることです。
地域でうまくいっているところをモデルに、他の地域に広げると同時に、そうした思いをもった職員を、長い目で育てることがJAにとって重要で、そうしたサイクルのシステムをつくる必要があります。JAでなにか困ったときは組合員組織に聞くことです。その中に解決のヒントがあります。それをきちんとモニタリングできる仕組みがないと、政府の「改革」に取り込まれてしまいます。
【フリートーキング】
組合員の要望に即対応
職員の対話能力向上を
「農協改革」で、准組合員の事業利用規制について、政府が組合員を対象にアンケート調査を行なっている。その結論がどう出るか分からないが、JAにとって、組合員から「なくてはならないJA」「JAはよくやっている」という評価を得るには何がポイントか。また、「人づくり」に関して、特に新人、中堅職員の教育はどうすべきかが、フリートーキングで焦点になった。(司会は石田正昭・龍谷大学教授)
◆ ◇ ◆
都市農協の性格の強いJA兵庫六甲の吉田氏は、准組合員を対象にした「食べ物協同組合」であるべきだと指摘する。同JAは正組合員3万人強に対して、准組合員は9万人あまり。貯金の約6割を占める。正組合員ゼロの市街地に農産物の直売所をつくり喜ばれている。「専業農家も、近くに消費者がいることで生き残れる」と、都市における農協のあり方を探っている。石田教授も「都市農家はJAに比較的好意的だ。特に販売に困るわけではなく、JAの共販である必要はない」とその可能性を示唆する。
出席者からは「反農協派とみられるグループの相談に積極的に応え、味方にすることが大事だ」、「身近な自己改革として、1支店1協同活動で花の栽培を勧めたい。次に店頭で野菜をプランター栽培し、訪れる人に勧めると、野菜を通じた親子のふれあいにもなる」など、地域を意識した発言があった。
(写真)受賞者の発表に聞き入る出席者
また「人づくり」では、若い職員のコミュニケーション不足が焦点になった。菅野組合長は「話す能力はあるのだが、それが弱い。それをどう高めるかだ」と問題提起する
JA改革については、JAの事業システムづくりの重要性が指摘された。小林氏(JAおいらせ)は、「JAの良い点は、利用によって協同のメリットが得られることだ」として、(1)総合サービスできるか、(2)それを利用できる場所が近くにあるか、(3)全国のネットワークがあるか、の3つのポイントがあると言う。それを実現している例としてコンビニエンスストアを挙げ、「JAの全国連組織が事業別に独立しているところに問題がある。総合事業ネットワークの構築が必要だ」と話した。
三角氏(JAきくち)は「かつて教育専門の役員がいた。その役員に学んだ40、50歳代の職員の厚い層がいまのJAを支えている。後継世代の教育が大事で、若い人には創造力をつけていただきたい」として、若い職員の自主性を育てるため、JAきくちで行なっている小集団活動を紹介。
さらに髙山氏(JA松本ハイランド)は「人が育っていないことをなげくより、いまうまくいっていることをまとめた方が良い。JA改革に王道はない。あたりまえに、やるべきことをきちんとやること、そしてコミュニケーションの取り方がうまい女性を使うことだ。組合員をマスでみると浸透しない。個別全面的な対応が求められる」と指摘した。
(写真)経験を述べる受賞者
准組合員の問題では「協同組合は運動体でもある。正・准どう結集させるかの視点が重要。だが、実際は正組合員が減少し、世代替わりしている。農協に対して次世代がどういう意識を持っているかを分析しないと運動が空回りしてしまう」と、正組合員の農協への帰属意識の低下を懸念する声があった。
さらに、「わがままを言える組合員が接着剤になる」「JAを辞める若い人が多い。勤めて10年も経つと仕事に追われて考えなくなる」「中堅職員が辞めるのはJAの仕事の将来が見えないからだ。役員はこのことを真剣に受け止めなければならない。問題はトップにある」など、職員の教育について厳しい指摘があった。
最後に司会の石田氏は、「シンポジウムでは、反省の弁が多かったように感じるが、それだけ自己改革への認識が浸透してきたとみるべきではないか。役職員の意識や行動を改革する際には、一般の株式会社との違いを認識しておきたい。株式会社と違い、JAは親切、親近感、地域を大切にすることが優位性になっている。その上で専門性、商品性の向上に努めている。この優位性を捨てて、株式会社の方向に走るのは危険」と、協同組合の視点を持つことの重要性を強調した。
また管理職の役目の重要性を挙げ、「トップと現場を繋ぐのは管理職である。そうした管理職がいるかが重要。新人職員の帰属意識を高めるには6、7年かかる。早期退職を防ぐには、みずみずしい気持の時、相談、指導のできる先輩や管理職がいるかがポイントになる。それに新人を一部署に張り付けず、いろいろ経験させることが重要だ」とまとめた。
(写真)活発に意見交換
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