JAの活動:農協改革を乗り越えて -農業協同組合に生きる 明日への挑戦―
【JA菊池】「農協改革」は販売事業の強化(前編)2017年10月20日
「きくちのまんま」で地域が一つに
熊本県菊池地域は、県の北東部に位置し、東部と北部は阿蘇外輪山系を有する中山間地、西部と南部は菊池川・白川流域に広がる台地・平野部という自然豊かな地域だ。菊池川流域を中心とする菊池・七城(菊池市)は水田地帯、同じ菊池市の旭志・泗水を中心とする地域は畜産地帯、菊池・旭志そして大津町の中山間地では特産品を、大津・菊陽町は露地野菜、そして合志、西合志(合志市)を中心とする施設園芸と多様で多彩な農畜産物が生産されているのがここの大きな特色だ。
その実態をJA菊池の28年度販売事業実績でみると、総額287億200万円の内、耕種部門が58億500万円、畜産部門が228億9700万円だ。耕種部門の主な農産物は表のようにお米、ごぼう、すいか、人参、日本一のカスミ草、いちご、甘藷だが、この他、メロン、キュウリ、オクラ、アスパラガス、ダイコン、ネギ、タケノコ、シイタケ、茶、栗、生姜など多彩な農産物が生産されている。
一方、JAの販売事業を支える重要な部門が畜産だ。内訳をみると表のように肉牛と生乳が圧倒的な比重を占めている。とくに乳用牛の飼養頭数は熊本県内の約42%を占める西日本有数の酪農地帯だ。
また、全国で初めて飼料用米を牛に給餌し、輸入飼料を減らし水田を守る地球環境に優しい「えこめ牛」の取組みも高く評価されている。
(写真)店は小さいが坪当り売上高は全国トップクラスの農産物市場・菊陽店
◆生産活動に集中できる 体制をつくる
JAは、今年の8月に、地域の子牛生産拠点、地域の総合的な肉用牛振興推進の核となる施設として、飼養頭数常時850頭という「JA菊池 キャトルブリーディングステーション」を開設した。この施設は、肉用牛の定量出荷の安定供給体制と、酪農家の規模拡大などによる乳用牛育成の労働力負担軽減、さらに乳用育成牛に黒毛和種の受精卵を移植し、受託者管内への肉用素牛の供給体制を確立し、乳用牛・肉用牛の生産拠点とすることが目的だ。
(写真)ここは西日本有数の酪農地帯だ(泗水町の金子農場で)
菊池市泗水町で酪農経営する金子紀之さん(42歳)は、昨年6月にクラスター事業で搾乳ロボットを導入し、搾乳作業を効率化・省力化できたことを受けて、現在までに北海道産初妊牛を20頭導入し、搾乳頭数52頭、育成頭数43頭、合計95頭に規模拡大した。金子さんは「搾乳ロボットで仕事が省力化でき、規模を拡大できる」と喜んでいる。
金子さんは泗水町乳牛改良同志会副会長と熊本県乳牛改良同志会副会長を兼務、規模拡大と乳牛の改良に励んでいる若手の酪農経営者だが「JAが全面的にバックアップしてくれている」とJAへの信頼を語ってくれた。
菊池市旭志で黒毛和種220頭の肥育経営を営む大塚慶英さん(44歳)は、熊本地震で80頭入っていた畜舎が倒壊した時に、まだ生きている牛を倒壊畜舎の隙間から救出しようと、JAの担当者が自分の家の始末より優先して「生きている牛がいるなら、助けたい」と手伝ってくれたことに「心から感謝している」という。
今年の2月、大塚さんの農場には、熊本地震規模でも倒壊しない新しい畜舎ができ、元気な黒毛和種が出荷を待っている。生産者とそれを親身になり支えるJA職員の信頼関係がこの地の畜産を支えていると実感した。
畜産中心の地域を回っていると、多くの田畑で飼料用トウモロコシが栽培されていることに気付く。昔から畜産農家が自家用飼料として栽培しているが、近年は労働力確保が難しくなっているので、JAが事業主体となり作業機械を導入、管理運営を3つのコントラクター利用組合(旭志・泗水・七城)が行い、飼料用トウモロコシ2期作体系を実現。酪農家のコストと労力を軽減し、質の良いサイレージを確保できるようになっている。
生産者の生産活動が効率的に省力化され、生産活動にさらに集中できるような環境をJAが作りバックアップする。そこにJAと生産者の強い信頼関係が作られていく姿があると気付いた。
◆耕種部門でも若くて 元気な生産者が
耕種部門でも若手生産者が増えている。
合志市でスイカを中心に家族経営を営む三山容宏(まさひろ)さんは、34歳だ。関西の商社に就職した後、平成17年に就農。反収を重視しスイカは4番果まで収穫を実践し、高い秀品率を実現して、栽培マニュアル作成に貢献し、西瓜部会青年部を立ち上げ、現在その部長(部員21名)として活躍。ホウレン草でも、畝間に次に収穫するための種を蒔き、1シーズンに3回収穫。平成26年には熊本県農業コンクール「新人王部門」秀賞を受賞するなど、若手農業者のリーダー的存在だ。
菊池地域には、全国的に見ても優れた農作物が多い。いまやイチゴを栽培していないところはないともいえるが、菊池でも通常の市販イチゴを産出するほか、糖蜜使用の「こだわりいちご」を生産。量が少ないことと味の良さから、店頭では1粒500円を超えて売られるという高級イチゴの産地でもある。
菊池市の水田地帯を走っていると不思議な光景に出合った。それは稲の刈取が終わった水田に緑の葉が整然と連なり秋の陽を目いっぱい浴びている風景だ。しかも、若芽がでてきたばかりの田の隣の田には、かなり成長した若葉が広がっている。
菊池の「水田ごぼう」だ。50年ほど前から水田の裏作として栽培が始まったという。普通のゴボウと異なり、表皮が白く、身は柔らかく香りがよいことから、いまではこの地の代表的な農産物となっている。
ゴボウ部会の部会長・川上悦史さん(52歳)は、「いまはどちらが"裏"だかわからない」と話す。稲を刈り取った田から播種するので、12月から3月上旬まで収穫できる。
現在、県版GAPのモデル部会として取組みを始めると同時に、産地ブランド表示(GI)の取得に向けて積極的に部会活動を進めている。
◆女性だけが出荷できる 農産物市場
JA菊池の元気の素がもう一つある。それは農産物市場「きくちのまんま」だ。「きくちのまんま」というブランドがスタートするのは別掲のように平成13年のことだ。
統一ブランドを立ち上げ、新しいロゴを段ボールに入れようとしてもスムーズには進まない恐れがある。そんな時に上村幸男副組合長(当時)は今村奈良臣東京大学名誉教授から「これからは女性部が大事だし、6次産業化だ」という話を聞き、女性しか出荷会員(農産物市場出荷協議会)になれない仕組みのJA菊池農産物市場「きくちのまんま」合志店を13年に立ち上げる。この当時「女性参画の時代」といわれており、マスコミが次々と取材に訪れ毎日のように報道し評判となり多くの来店客が連日訪れるようになる。そして15年に2号店を菊池に、16年に菊陽に3号店を出店。
現在、出荷会員は422名、年間売上高(28年度実績)は合志店2億5787万円、菊池店1億8074万円、菊陽店5億7175万円、合計10億1037万円だ。この3店をみて驚くのは、他JAの直売所に比べて売場面積が狭いことだ。一番広い菊池店で205平方m、売上げの一番多い菊陽店では150平方m(45坪強)だ。
上村さんは「直売所」ではなく「農産物市場」とした理由を次のように語る。出荷会員は3店のどこにでも出荷できる。どこからでもどこの店にでも出荷できると「競争になり、良いものを出さないと恥ずかしいと思い、質が良くなり消費者もそれを買いに来る」。「余ったから、店に持っていくでは、ダメ」なのだ。
今村教授は、当時は「街道筋にいろいろな直売所があり、質もばらばらで観光帰りに1回買う人にはいいが、毎日繰り返し買う人を対象にするなら、毎日来ても"味がいい"と確認できるものでなければ」と指摘した。
熊本県の阿蘇くまもと空港から、JA菊池(正式名は、菊池地域農業協同組合)の最初の町・菊陽町に入りしばらく車を走らせると、左右に豊かな緑の葉を茂らせたニンジン畑が広がる。その遥か向こうに阿蘇の外輪山の山並みが見えるが、さえぎるものはなく広々と広がるここ菊池地域は、自然豊かな農業の輝く地域だ。その農業を支える農業者の組織である農業協同組合が、地域の経済と人々のくらしを支え続けている地域でもある。
しかし、ここまでの道のりは平坦ではなかった。
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