JAの活動:農協改革を乗り越えて -農業協同組合に生きる 明日への挑戦―
【JAふくしま未来】震災を乗り越え、農業を続ける想いを実現(後編)2017年10月27日
・・・「私たちロートルがもう一回汗をかいて土台をつくる。10年から20年後には戻ってくる人が増えると思う」と山田さんは話す。
◆営農再開へ若手が法人
福島県では震災・原発事故発生からの6年間で人口は12万9000人減少したが、世帯数は2万2000も増えている(29年2月1日現在)。それまで同居していた家族が避難生活のなかで別々に暮らすことを余儀なくされたことを物語っている。
300戸ほどの住民が暮らしていた川俣町山木屋地区にも避難指示解除で100戸ほどが戻った。ただ、帰ってきたのは親世代ばかりで60歳未満は10人以下だという。「消防団が組めない」状態だ。
本田勝信さん(62)は震災前、水稲と葉たばこ、小菊と30頭の酪農経営をしていた。しかし、原発事故で牛を処分して避難。酪農経営はあきらめ、水稲と小菊で営農を再開した。
水田面積は5ha。表土の除染が終わった震災翌年から避難先から通いながら60aの実証栽培を行ってきた。2年目の平成25年からは安全性も確認され仮設住宅などへ配布し、28年産からは販売もできるようになった。
(写真)水稲と小菊で営農再開の本田勝信さん
6年ぶりに自宅に戻ることができた29年産はひとめぼれともち米などを130aで作付けた。ただ、残りの水田約3.7haは水を引けないためにまだ作付けができない。米の作付け拡大が本田さんの当面の課題だが、娘夫婦が花き栽培を志して本格的に準備を始めたという、地域にとって心強い話も出てきた。
同様に若手農業者たちが営農再開組合を法人化し、地域農業の全体像を描こうとしている。40代と50代の6人が中心となって大型機械などを導入。行政とも連携し地域内の農地を無償で借り受け、デントコーンや飼料用米の生産を中心に、県内の酪農家などに供給、地域外の畜産と連携し地域の農地の維持と生産再建を図っていこうとしている。
◆作らなければ課題は出ない
原発事故の被害が明らかになった6年前、地域の多くの生産者が話し合って到達した結論をJAふくしま未来の菅野孝志代表理事組合長は「作付けしなければ課題も出ない」だったと振り返る。 生産者は放射能汚染の被害者であるにもかかわらず、この地域で農産物を作ることが許されるのかという思いを持った。しかし、作らなければ、課題も、その解決策も分からないままではないか。「放射能対策にも取り組みながら、やはり作り続けることだと。次の世代に間違いなくつないでいくんだという思いを農家が持っていました」。
営農再開した3人の生産者の話はまさにそれを表していた。JAは避難解除地区が広がったことを受けて5月に復興対策室を新設し専任職員3人を設置した。
(写真)菅野孝志組合長
◇ ◇
震災からの地域復興をめざし、JAふくしま未来は28年3月に県北部の4JAが合併して誕生した。「かけがえのない『農』を守り、はぐくみ、住みよい地域社会を築くため、新たな創造へ挑戦します」のもとに経営理念、スローガンを「未来への心をつなぐパートナー」に掲げた。
これらの実現に向けて「いかに組合員とともに改革を進めるか」がJAふくしま未来の創造的自己改革だとの位置づけでスピード感をもった取り組みを進めている。
◆農業所得増大へ「2・5・10運動」
農業所得の増大では「10%アップ」を目標に掲げた。そのためにJAの販売力の強化を通じて農業生産を2%拡大する。一方で生産コストを5%削減することで販売金額に占める手取り部分を増やし10%アップを実現する取り組みだ。
合併初年度である28年度の具体的な成果は水稲の複数年契約(3年)で503haを取りまとめたほか、直売所の販売高は前年比106%、震災前より130%となる30億2500万円を達成した。
販売品販売高277.6億円で前年比103%、直売事業も強化して米では25億円の販売額を達成した。
6次産業化ではJAで自己完結するのではなく管内の製パン企業と平成28年1月に包括的業務提携し、地元の小麦や野菜、果物、米を材料に加工品製造販売を行っている。菅野組合長は「ともに培ってきた技術を活かし、地域の農業が食を支えているということを加工品を通して地域住民に発信していきたい」と提携事業の意義を話す。
一方、生産コストの削減ではJAオリジナル肥料を8品目製造し平均で約16%の価格低下を実現したほか、農薬では入札(買い取り)を実施し約29%の価格引き下げを実現した。
農業所得の増大とともにJAグループが最重点事項として掲げた「農業生産の拡大」は個々の生産者の生産拡大はもちろんだが、新規就農者支援など担い手育成も重要になる。そのためJAふくしま未来として1戸あたり年間50万円を支援する担い手育成積立金を創設、運用するとともに、中核農家16名(9品目)を若手をはじめとする地域の農家に技術指導を行ってもらう「作物営農技術員」、"農の達人"として委嘱する制度も発足させた。
◆教育文化活動と人づくり
今回のJA自己改革では組合員の参加が重要だと強調されている。合併によってJAでは女性理事が9名(16.3%)、女性総代は147名(14.7%)となった。
菅野組合長は新生JAとして活動していくには新しい目線に立つことが大切だとして、生産と暮らしの両方を担っている女性がより参画できることが大事だと強調する。女性参画の比率は全国でみても決して低くはないが今後は女性理事、総代の比率を最低でも30%に引き上げることを目標にしたいという。
また合併して組織が大きくなったからこそ、改めて農協の原点である協同活動、教育文化活動にも力を入れる。
旧JA時代から職員の提案で子どもたちと農業者のふれあいによる食農教育に取り組んできたが、震災を乗り越えて継続し、農業、食、生け花体験など平成14年度からの参加児童数は2万6000名を超え、今後もJAとして継続できる体制を整えている。 同時にJAの職員教育、人づくりも重要で年代別の職員協同組合アカデミーも実践している。このアカデミーでは協同組合理念を理解し使命感を持って事業や組織活動を企画、実行することを学ぶ。「一人ですべてをやるのではなく自分の思いを発信し協力体制をつくる」などが強調されている。
震災・原発事故を乗り越えて、JAがめざすのは市民とともに農業を育み地域の景観を維持していくことだという。そのために組合員ともに食と農を作り、地域住民の参加でJAの活動を持続させる。「こんな故郷にしたい。こんなJAにしたいという想いに本気で取り組めば絶対に人々が助けてくれると考えています」と菅野組合長は話す。
◎JAふくしま未来の概要(28年度)
■組合員:9万4760人(うち正組合員4万6877人)
■販売品販売高:277億円
■購買品供給高:166億円
■貯金残高:7086億円
■長期共済保有高:2兆7366億円
■職員数:1929人
※前編へのリンクはコチラ
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