JAの活動:農協改革を乗り越えて -農業協同組合に生きる 明日への挑戦―
【インタビュー高木剛・日本労働組合総連合会(連合)顧問(元会長)】国民の負託に応え、食と農から日本のリードを(前半)2017年11月1日
聞き手谷口信和東京農大教授
日本の労働組合運動をリードした日本労働組合総連合会(連合)の会長(2005~09年)を務めた髙木剛氏(現 「連合」顧問、(一財)全国勤労者福祉・共済振興協会=全労済協会=顧問)に農協・農業についての考えを聞いた。同氏は、国民に食料を安定供給することの重要さを強調するとともに、労働組合と協同組合は運動論で共通するところがあるとして、新自由主義に対峙する農協にエールを送る。※高木氏の「高」の字は正式には異体字です。
――先ごろ、高速道路における「あおり」行為で死亡事故がありましたが、人々の心がすさみ、日本の古いよきものがなくなり、社会がずたずたになっているように感じます。グローバリゼーションによる貧富の格差拡大と関係があるように思いますが。いかがでしょうか。
グローバル化の進展とともに資本主義はもう終わりにきているとも言われますが、その見方には共感するところもあります。新自由主義は経済をフローでしか見ません。小島慶三氏がその著書『文明と農業』でも指摘していますが、農業をフローの視点だけで見たら、農家の皆さんは農地や水、環境などの社会資本ストックを維持・再生産というストックの面も見てくれと言うでしょう。
グローバル化した資本主義は新しい価値を生み出す土俵がなくなると成長が止まります。新たに価値を生む地域がなくなって架空の空間、つまり架空の市場で競い合い、利潤を生み出そうとします。金利を生むのが資本主義で、現在の日本のようにマイナス金利になっても資本主義だといえるのでしょうか。
アベノミクスの〝3本の矢〟は、いまやどの矢も効果が小さくなりました。第1の矢である異次元の金融緩和は、思うように金が民間に回らず、日銀が国債を買いまくっており、これではバブルを再生することにしかなりません。飽くことなき規制緩和の後始末の処方箋はあるのでしょうか。成長、成長と言いますが、架空の市場では経済成長のための本当の効果は期待できません。
新自由主義は農業においてもそうで、農水省もその影響を受け、いわゆる「農協改革」を推進する事務次官には、小島慶三氏の考えをどう思うか聞いてみたいものです。農協は新しいあり方を探すことを求めていますが、このような考えの農水省のもとでは、農協や農家の皆さんもたまらないでしょう。
一方、政治の世界ではポピュリズムが浸透し、日本も例外でなく、アメリカのトランプ大統領やイギリスのEU離脱なども同じ流れのなかにあります。新自由主義、ポピュリズムで経済も社会もおかしくなりました。日本のかつての家庭の躾(しつけ)はどうなったでしょうか。
最近、「成長」の概念は捨てたらどうかと言う主張があります。幸い日本には、さまざまな面で先輩たちがつくってきたストックがあります。それを食いつなぎながらでも、次の時代へ対応の仕方をじっくり考える必要があると思います。
◆ゼロ金利に見る資本主義の限界
―農業や教育は重要なストックですが、近年の日本はそれにあまり金をかけてきませんでした。他方で、意外なことに小麦の土地生産性などはアメリカやオーストラリアよりも高いという現実があります。このように農業を含む多方面で日本には高い技術の蓄積があります。
農業については、アメリカの広大な規模の農業が本当にうまくいっているのか、再検討の時期に来ているのではないでしょうか。乱暴な農地の使い方はいずれ限界がくるでしょう。そのときアメリカの食料、その穀物を輸入している日本はどうなるのでしょうか。その悪しき例を、工業製品輸出のために、全世界から農産物を輸入して国内農業を衰退させたイギリスに見ることができます。こうした経験を踏まえて西欧の大陸国家は自国の農業を国策として守ってきているのです。
農業がだめになると国もだめになります。私も若いころは、なぜ国は農協の言い分ばかり聞くのかと思ったこともありますが、少し世の中を広く見ることができるようになると、農業の価値がわかるようになりました。労働組合の仕事を50年やらせてもらいましたが、組合員はそれぞれ農との関わりを持っていました。農家で躾けられた次・三男が、都市の勤勉な労働力となり日本の経済成長を支えてきました。それだけでなく、みんな毎日、農家の皆さんが作ったものを食べて生きています。だから、かつて農協の米価闘争の盛んなころは、労働組合の会議などでも、賃上げの話と絡めて米価の話も出ていました。
日本の農業の技術・技能レベルが高いことは日本人の知恵の所産だと思います。ヨーロッパは2度の世界大戦で国土が戦場となり、食べ物の大切さを嫌と言うほど味わいました。日本も第2次大戦後、ハイパーインフレのもとで、特に都市住民は買い出しなどで食べ物に苦労した経験があります。労働者にとっても農業は大切な産業です。
―近年の地球温暖化による異常気象などの自然災害は深刻です。それは産業のあり方まで影響していますが、グローバリゼーションとも無関係ではないと思いますが。
ご指摘の通りです。化石燃料の利用による温度の上昇は限度を超える恐れがあります。では原子力でと言うことでしたが、日本では深刻な原発事故が起きました。日本では米や果樹の栽培北限がさらに北に進むなどの変化が生じ、どこかで制御しなければなりません。太平洋の島が浸水する・・・(後半へ)
重要な記事
最新の記事
-
宮崎県で鳥インフル 今シーズン国内12例目2024年12月3日
-
【特殊報】キウイフルーツにキクビスカシバ 県内で初めて確認 和歌山県2024年12月3日
-
パックご飯の原料米にハイブリッド米契約栽培推進【熊野孝文・米マーケット情報】2024年12月3日
-
第49回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクール 各賞が決定 JA全中2024年12月3日
-
大気から直接回収した二酸化炭素を農業に活用 JA全農などが実証実験開始2024年12月3日
-
江藤農相 「農相として必要な予算は確保」 財政審建議「意見として承っておく」2024年12月3日
-
鳥インフル ポーランド4県からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月3日
-
鳥インフル ニュージーランドからの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月3日
-
【田代洋一・協同の現場を歩く】JAみやざき 地域密着と総合力追求 産地県が県域JA実現2024年12月3日
-
今ならお得なチャンス!はじめようスマート農業キャンペーン Z-GISが4カ月無料 JA全農2024年12月3日
-
全農日本ミックスダブルスカーリング選手権「ニッポンの食」で応援 JA全農2024年12月3日
-
JAグループの起業家育成プログラム「GROW& BLOOM」最終発表会を開催 あぐラボ2024年12月3日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」クイズキャンペーン開始 JA全中2024年12月3日
-
日本の酪農家 1万戸割れ 半数の酪農家が離農を検討 中央酪農会議2024年12月3日
-
全国427種類からNO.1決定「〆おにぎり&おつまみおにぎりグランプリ」結果発表 JA全農2024年12月3日
-
JA全農 卓球日本代表を「ニッポンの食」で応援 中国で混合団体W杯2024開幕2024年12月3日
-
「全国農業高校 お米甲子園2024」に特別協賛 JA全農2024年12月3日
-
【農協時論】協同組合の価値観 現代的課題学び行動をする糧に JA全中教育部部長・田村政司氏2024年12月3日
-
「上昇した米価が下がらない要因」などPOPデータを無料配布中 小売店で活用へ アサヒパック2024年12月3日
-
料理キット「コープデリミールキット」累計販売食数が2億食を突破2024年12月3日