JAの活動:第40回農協人文化賞-わが体験と抱負
【厚生事業部門受賞】心を耕す仕事にロマンを 中澤あけみ・JA長野厚生連健康管理センター元保健師長2018年7月19日
7月5日に開催された第40回農協人文化賞で受賞された17名の方々に、これまでの農協運動の体験談と今後の抱負についてお書きいただきました。JAcomでは、その内容を数回に分けて紹介していきます。本日は厚生事業部門で受賞した中澤あけみJA長野厚生連健康管理センター元保健師長、福祉事業部門で受賞した荻野孝子・JA愛知東 助け合い組織「つくしんぼうの会」会長、特別賞を受賞した古谷義幸・前秦野市長の3名を紹介します。
小学5年生の暑い夏の日、親戚の家で遊んでいると「お父さんが大変なことになっている」という知らせを受け畑にいきました。沢山の人に囲まれて、父は「痛い、痛い」と横たわっていました。父の友人に頼まれてホップの収穫作業の手伝いに行き、針金が切れ、はしごから転落し、頸椎を骨折しました。意識はありましたが、寝たきりのまま20日間後に肺炎で亡くなりました。ホップの香は、その時のつらく悲しい思い出になっています。考えてみると私の人生は、農とのかかわりが多く、夫は農政に関係しており、嫁ぎ先も米と野菜の専業農家でした。養父母の誠実な人柄と「家族は助け合う」という家風が今でも誇りで、家族みんなに引き継がれています。
暮らしの中では、JAに学資、生命、年金共済、健診、助け合い活動、食材、資材、農機具、女性会、お葬式まで助けていただきました。私の仕事は、父の農作業事故がきっかけとなり、厚生連に38年間お世話になり、この3月に退職しました。故若月先生の「母なる農村」という言葉が大好きでした。 「厚生連保健師とは?」に悩み始めたころ、JA佐久市への出向の機会を得ることができました。介護保険事業の立ち上げやケアマネとしての在宅サービスの調整、農や健康をテーマにした子育て支援事業、生活店舗での健康相談や健康管理活動、女性会の組織活動や助け合い活動など職員の皆さんと協同で取り組みました。ここでの出会いと学びは、何十年にも相当する成果でした。この時のJA健診の受診率が最高となり、初めて健診を受診された方から「中澤保健師と巡り合って命拾いした」との声を沢山いただき、声掛けの大切さを痛感しました。農村の暮らしには、農とのつながりがあり、その健康課題を予防していくことが厚生連保健師の役割であることを実感しました。
50歳の時、色々なことが重なり、一型糖尿病を発症しました。低血糖と合併症におびえ、死と隣り合わせの生活をしているとき、農作業に救われました。養父母から受け継いだ畑に様々な果樹や花、野菜を夫とともに追加して植えました。朝の時間帯と休日はほとんど農作業でした。この体験は、農作業を理解した健康相談に役立ちました。故若月先生は「農民のために」の理念を「農民とともに」に変えられました。「ともに」には色々な想いが込められていますが、わたしは「知ろうと努力し、一緒に」と解釈しています。農業は、食料の確保や自然環境の保全、いきがいややりがいなど多くのメリットがあります。しかし、その半面、農作業によって起こる足腰等の運動器の障害、病気によって農業という生活の糧をなくすこと、農作業事故による重度障害を残すことなど労安法で守られていない仕事でもあります。生涯にわたり健康支援が必要な仕事です。そのことをまずJAグループ全体が知ることが重要です。
師長職になってから、我が家の農園を研修医等の研修の場として提供することを始めました。脚立に上ることで、転落事故の原因を知っていただき、摘果作業や収穫では、どこが一番辛くなるか意識して体験していただきます。春から初夏にかけての花盛りの楽園、秋は完熟の新鮮な本当の農作物のおいしさを体験できます。この活動は、前職場との連携により退職後も継続しています。
私の今までの人生は、農村の健康な地域づくりの仕事を通して、素晴らしい皆様とのめぐり逢いによって心を耕し、育まれました。与えていただいた多くの学びは、「母なる農村でいきる」ことのすばらしさを伝えていく志となっています。
(写真)研修医の研修に自宅の庭園を提供
今、JA、JAグループの在り方が問われています。仕事を離れ、地域から『JAグループのあり方』を考えてみると、暮らしの中にこそ、これからの仕事の使命があると感じています。暮しは、総論です。「どんな暮らしをし、これからどんな幸せな暮らしを求めていくのか?」私自身も、また組合員一人一人も職員も真剣に考えていかなければいけないことです。故若月先生が残された「農民とともに」「母なる農村」に秘められた「平和への道を切り開く」魂を次世代にJAグループとしてどのように伝えていくかが問われています。
荒れた農地を耕すことは、種を育てるために必要です。「心を耕す」鍬は「知ること」がスタートです。マザーテレサは「愛の反対は無関心」と言っています。農村の暮らしに無関心にならないことが、地域で暮らす人への思いやりを育てます。手を省かず、目の前にいる人に声をかけることは、どんな仕事でもすぐにできることです。
この5月より、みなさまの推薦を受け、JAの生産担当の理事をお受けすることになりました。今後も農業の現場や暮らしを知る努力をし、今まで培った保健師としての知恵をお返ししながら、この賞に恥じないように精進していきたいと願っています。
【略歴】
(なかざわ・あけみ)
昭和33年生まれ。
54年佐久総合病院看護専門学校卒業、富士見高原病院就職、59年佐久総合病院健康管理センターへ転籍、平成16年健康管理センター主任、21年副師長、23年師長、30年3月退職。
重要な記事
最新の記事
-
米農家(個人経営体)の「時給」63円 23年、農業経営統計調査(確報)から試算 所得補償の必要性示唆2025年4月2日
-
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(1)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
-
移植水稲の初期病害虫防除 IPM防除核に環境に優しく(2)【サステナ防除のすすめ2025】2025年4月2日
-
変革恐れずチャレンジを JA共済連入会式2025年4月2日
-
「令和の百姓一揆」と「正念場」【小松泰信・地方の眼力】2025年4月2日
-
JAみやざき 中央会、信連、経済連を統合 4月1日2025年4月2日
-
サステナブルな取組を発信「第2回みどり戦略学生チャレンジ」参加登録開始 農水省2025年4月2日
-
JA全農×不二家「ニッポンエール パレッティエ(レモンタルト)」新発売2025年4月2日
-
姿かたちは美しく味はピカイチ 砂地のやわらかさがおいしさの秘密 JAあいち中央2025年4月2日
-
県産コシヒカリとわかめ使った「非常時持出米」 防災備蓄はもちろん、キャンプやピクニックにも JAみえきた2025年4月2日
-
霊峰・早池峰の恵みが熟成 ワイン「五月長根」は神秘の味わい JA全農いわて2025年4月2日
-
JA農業機械大展示会 6月27、28日にツインメッセ静岡で開催 静岡県下農業協同組合と静岡県経済農業協同組合連合会2025年4月2日
-
【役員人事】農林中金全共連アセットマネジメント(4月1日付)2025年4月2日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年4月2日
-
【スマート農業の風】(13)ロボット農機の運用は農業を救えるのか2025年4月2日
-
外食市場調査2月度 市場規模は2939億円 2か月連続で9割台に回復2025年4月2日
-
JAグループによる起業家育成プログラム「GROW&BLOOM」第2期募集開始 あぐラボ2025年4月2日
-
「八百結びの作物」が「マタニティフード認定」取得 壌結合同会社2025年4月2日
-
全国産直食材アワードを発表 消費者の高評価を受けた生産者を選出 「産直アウル」2025年4月2日
-
九州農業ウィーク(ジェイアグリ九州)5月28~30日に開催 RXジャパン2025年4月2日