JAの活動:飛躍する「くまもと農業」
【熊本特集(3)JAやつしろ】イ草から野菜へ転換2019年1月15日
・自給率38%どうするのか?この国のかたち-挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合
・加工契約で計算できる農業へ
八代平野は、熊本県の八代海北部沿岸に位置する沖積平野である。宇土半島を挟んで北にある熊本平野と一体となって熊本県の広大な平野部を形成している。八代平野を一望できる龍峯山自然公園展望所からみると、遙か先の八代海近くの平地には、ビニールハウスが帯状に連なる。JAやつしろは、かつてのイ草産地を全国でトップクラスのトマトを中心とする野菜産地に変え、熊本県の青果物販売のV字回復を引っ張った。
◆イ草は10分の1に
八代地域のイ草生産は、平成元年に約4300戸が5400haを栽培していた。それが急ピッチで減少し、平成10年には約2400戸で3700haとなり、中国産の輸入畳表にセーフガードがかかった平成13年にはさらに半減。平成28年には栽培農家が480戸となり、面積は500haを切った。
これに危機感を持ったJAやつしろでは、新しい品目を模索した。「イ草農家の経営をいかに安定させるか。また先の見通せる品目を導入し、引き続き農協を利用してもらうため」(営農部) 、生産推進品目選定の検討班と流通販売の検討班を設けて研究を重ねた。その結果、契約販売に余裕があり、生産を伸ばせる作目としてキャベツ、ブロッコリー、レタス、アスパラガス、バレイショを重点品目に選定した。水田を活かすとともに、大きな初期投資を必要としないことも選択の基準になった。
その他にもカリフラワーやハクサイ、ソラマメ、スナップエンドウなど16品目を対象に、イ草と複合、イ草から転換、主に女性・高齢者向き、兼業農家向きなど、それぞれ農家の状況と希望に応じ、それに合った品目と栽培体系を提案した。併せて平成19年には予冷庫や真空予冷装置、業務・加工用キャベツのストックヤードを備えた総合青果物センターを建設。レタスの一元集荷も新しく始めた。
こうした取り組みの結果が現れ、平成17年に228haだった露地野菜主要品目の作付けが28年には600haを超えた。栽培農家は398戸から838戸へと倍増した。冬のいま、かつての一面イ草だった水田は、トマトハウスのほか、キャベツ、ブロッコリー、レタスなどの露地野菜で覆われている。
こうした取り組みについて、同JAは「当初目的を達成し、一定の成果を挙げた」(営農部)と評価。いま第2次計画の検討に入っている。そのなかでは出荷に関する課題として、(1)施設の充実、(2)集荷体制の検討、(3)コールドチェーン化の必要性を挙げる。
(写真)若い担い手に期待
◆集出荷体制の構築へ
(写真)八代平野のハウス群
特にポイントとなるのは集出荷体制の構築だ。現在、同JAにはトマト選果施設が4か所、露地野菜集荷施設が5か所ある。集荷量の増加で、荷受面積や予冷設備の不足、施設の老朽化などが目立ってきた。「10年後を見据えた販売で重要なことは、消費地に信頼される産地であること。価格動向によって販売先を変更することは、目先の利益の追求であり、10年後の長期的視野における販売とは言い難い、施設の整備も含め、計画的な集荷・出荷によって安定供給が可能な体制を構築することが必要」(同)と言う。このため、次期の計画の検討課題として、集荷所の集約、庭先集荷を含めた集荷体制の整備、そしてあらたな生産者の確保を挙げる。
反収アップをめざす
トマト選果場組合・千代永組合長
八代市のトマトは熊本県の80%を占め市町村単位では全国一の生産量を誇る。JAやつしろの取扱金額は、ミニトマトの27億円を合わせ平成30年度で約136億円。全受託販売金額約254億円の半分以上を占める主力品目になっている。
「はちべえトマト」は同JAが出荷するトマトのブランド名で、八代平野の「八」と「平」をとって名付けられた。黄色蛍光灯で夜蛾類の活動を抑え、粘着板を設置しコナジラミなどの捕獲等を捕獲することで農薬の使用を減らした栽培が条件。トマトはすべて施設栽培である。
1.5haで「はちべえトマト」を栽培する同JAトマト選果場利用組合の千代永博昭組合長=写真=は「収量は人によって15tから25tくらいまであり、技術の差がある。部会員の6、7割は40代を中心にした後継者がいる。機能性がブームになって増えたトマト栽培だが、その人気も下火になっており、これから単価高は期待できない。規模拡大よりは、いかに反収を上げるかが課題になる」と将来を展望する。
(写真)トマトの品質をみる千代永組合長
【熊本特集(4)】
驚異のV字回復を成し遂げた販売戦略 ―その叡智と戦略-【今村奈良臣・東京大学名誉教授】
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