JAの活動:飛躍する「くまもと農業」
【熊本特集(1)経済連】青果物取扱高がV字回復2019年1月15日
・自給率38%どうするのか?この国のかたち-挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合
熊本県はかつてスイカ、メロン、ミカン、そしてイ草、赤牛などで知られた農業県だが、いまはその様相が変わった。イ草に替わって野菜が急増し、スイカ・メロンから首位の座はトマト、ミニトマト、イチゴが占めるようになった。バブル崩壊後、価格安に加え、生産者の減少や高齢化等で全国的に青果物の生産が減少。そのなかでJA熊本経済連の青果物取扱金額は平成17年を境にV字回復をとげた。V字回復の背景には、経済連・JAが一体となった販売・生産戦略がある。特にJAグループ熊本の青果物コントロールセンター(CC)は、県域で統一して青果物の分荷調整する機能を持ち、消費者の求めるものを必要なときに供給するとともに、消費者のニーズを産地に伝え、やはり県域で供給できる体制を確立している。
熊本県の平成29年の農業総産出額は3423億円。北海道、鹿児島、茨城、千葉、宮崎県に次いで全国第6位。このなかでトマト類、デコポン、スイカ、宿根カスミソウ、トルコギキョウは全国一を誇る。うち青果物は、29年度熊本経済連の取扱金額でみると、バブル景気の平成2年度がピークで野菜・果実合わせて約955億円だった。
(写真)青果物コントロールセンターの品目別販売対策会議
◆17年を最低に反転へ
(グラフ)果実・野菜の年度別取扱金額
バブルが崩壊し、平成2年度を境に取扱金額が急減。平成17年度には597億円と、ピーク時の6割の水準まで落ちた。金額にして358億円の減少である。ところが、この17年度を底に翌年から増加に転じ、29年度774億円まで回復した。その内容は、メロン、スイカの果実が減り、トマト、ナスなどの野菜が増えている。
同じく経済連の取扱金額でみると、ピーク時の平成2年度が、野菜の355億円に対し果実600億円だったものが逆転し、29年度で野菜の572億円に対して果実が202億円となった。つまり野菜、果実の比率が4対6から7対3へと入れ替わった。
品目構成も大きく変わった。それまで熊本経済連の取扱金額ではメロン、スイカが多く、平成2年にはこの2品目が取扱金額の約7割を占めていた。それが29年度にはトマト、ミニトマト、イチゴが増加し、この3品目が全体の6割を占めまでになった。
◆トマトが牽引力に
熊本県内主要作物マップ
29年度販売実績774億円(JA熊本経済連取扱高 ※青果物のみ)
このようなV字回復の牽引力になったのは、有明海側の熊本市、宇城、玉名、八代地区で増えたトマト類である。同じく販売額を増やしたイチゴは、ほぼ県内全域にわたって栽培が広がった。大玉トマト、ミニトマトが品目でV字回復を牽引したのだが、その販売・生産を支え、リードしたのが、熊本県の「JAグループくまもと青果物コントロールセンター」だ。
青果物コントロールセンターは、同県の青果物販売がもっとも減少した翌年の平成18年に策定した「熊本県JAグループ園芸販売事業改革プラン」をもとに平成20年に立ち上げた。その目的は、「県域機能による生産および販売力の強化とコスト低減をめざした」と同経済連園芸部の坂梨徳昭部長。具体的には、ワンフロアでの、(1)各種情報の共有化、(2)生産・販売戦略づくり、(3)JA間の物流効率化を進める。つまり、販売する農産物を県域で分荷調整することで、好条件な取引価格の実現を目指すというものだ。
長い歴史とともに、産地化が進んできた同県では、それぞれのJAが独自の取引先・販売ルートを持って対応していた。しかし大型量販店の進出や、消費のニーズが多様化するにつれ、実需者の注文に十分対応することが難しくなった。また転作で野菜産地が増え、産地間競争も激しくなった。これがセンター設置の背景の一つになった。
◆全JAが情報を共有
スタートしたときは2JAからの参加で、品目別に販売戦略の共有化、重点市場の明確化、出荷規格の統一、情報の共有化と精度向上、それに出荷情報システムづくり、JA間積み合わせなどの検討を行った。
そして翌年の平成21年度は新たに3JAが加わり、出荷情報システム、積み合わせ輸送などを実施。その後、参加JAが増え、現在11JAとなり、県域の統一ブランド戦略の実行、価格訴求体制の充実、特販での契約販売強化、消費地提案作物の検討などへと発展した。
販売は卸売市場出荷を中心に、青果物コントロールセンターでは重点店舗を明確にして生産者・JAグループ、熊本県で構成する熊本県青果物消費拡大協議会を通じて、産地情報の提供や試食宣伝など小売支援を強め、県産青果物の信頼確保、消費拡大を目指している。
坂梨部長は青果物センターの分荷調整の機能について「高く売ることよりも、安定販売の継続」と言う。つまり品質、産地情報など価格にふさわしい中身が大事で、これが伴わないと高価格を追求するだけでは卸売市場や実需者の信頼が得られず、長続きしないというわけだ。また同センターの調整によるJA間積み合わせ輸送は流通コストを削減することで、生産者の手取りを増やすことにもなる。
こうした青果物コントロールセンターの取り組みにはJA間のネットワークが重要になるが、この役割を担うのが同センターで活躍する、参加JAを代表する11人の職員だ。週単位で定期的に協議しながら、出荷時期に応じて作目ごとにグループをつくり、産地や消費の情報交換をしながら、品目ごとに週単位で1か月先の出荷量を把握し、重点市場との調整を行う。その結果は定期的に「青果物コントロールセンター活動報告」として発行し、各JAはそれを回覧したり、選果場に張り出したりしている。
同センター設置から10年以上経ち、JAの人事異動に伴い3人、4人目となる人もいる。「JAに帰って販売の責任者となって指導する人も増えており、青果物コントロールセンターに対する生産者の認識が深まってきた」と坂梨部長は話す。
◆JAの指導員が連携
もう一つ、JA間のネットワークを強めているのが「広域指導体制の取り組み」である。青果物コントロールセンターの分荷調整機能を発揮するには生産指導との連携が重要になる。このため同センターは、JAグループと県、市町村で構成する「熊本県野菜振興協会」を通じてJAの指導・販売部門や生産部会との連携を強めている。同振興協会の園芸部会長、女性部会長、専門部会の協力のもとに生産指導・販売を徹底する。
経済連はこの広域指導体制づくりで、高い生産性と革新的な技術や施設、協同組合の機能と役割、また先進的農家の農業経営などについて学ぶため「アタック21」を組織。21世紀へ挑戦という意味で、JAの若手営農指導員を対象に平成21年から3年間、毎年、オランダなどの農業先進国を視察する研修などを実施した。
このメンバーが60人ほどになり、そのネットワークが活躍している。県内外で定期的に集まり、地域農業の生産振興上の課題や施設の環境制御技術、露地野菜の振興などについて情報・技術交換するとともに、指導員不足のJAの支援、若手営農指導員の育成など、JA、地域のエリアを越えた活動を展開。このようにJAと経済連が一体となった販売体制、青果物コントロールセンターを基点とした広域の指導体制が、青果物を中心としたV字回復の原動力になっている。
「ゆうべに」パック統一
イチゴの生産量が増えている熊本県だが、これまで産地によってバラバラだったイチゴのパックを統一した=写真=。「ゆうべに」は平成27年に熊本から誕生したイチゴの新品種。県内では平成28年から本格的な生産が始まった。また、熊本経済連が進める統一ブランド戦略の一環で、県のマスコットキャラクター「くまモン」を使い、県産品のPRと売り場の拡大をはかることも青果物コントロールセンターの重要な役割だ。
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