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JAの活動:挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合 女性がつくる農協運動

【提言】女性の力で世界を変える【鈴木宣弘・東京大学教授】2019年1月17日

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・生・消のネットワーク強化

 特集「女性が作る農協運動」では農業、農村の現場で奮闘している農村女性の役割がこの国の食と命を支えるうえでますます重要になっていることを訴えたい。東京大学の鈴木宣弘教授は生産者でもあり消費者でもある女性たちの思いと行動、そしてネットワークづくりが危機を救うと提言する。

農の危機は命の危機
理解醸成は女性の力

 

鈴木宣弘・東京大学教授 F35戦闘機を105機、1.3兆円とか、米国の言いなりに武器を買い増すのが安全保障ではない。武器による安全保障ばかり言って、食料の安全保障の視点が抜けているのは、安全保障の本質を理解していない。高村光太郎は「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」と言ったが、「食を握られることは国民の命を握られ、国の独立を失うこと」だ。国民が求めているのは、日米のオトモダチのために際限なく国民を犠牲にすることではない。
 TPP11(米国抜きのTPP=環太平洋連携協定)の発効、裏でそれとセットで準備されてきた日米FTA(自由貿易協定、日本名はTAG=「恥ずかしい」を通り越した稚拙な捏造語)の交渉入り、日欧EPA(経済連携協定)の発効と続く「TPPプラス」(TPP水準以上)の「自由化ドミノ」で国産の安全・安心な食材がこれ以上手に入らなくなったら、日本社会の幸せは根底から崩壊する。「農家が困るだけでしょ」と言っている消費者に、自身や子供たちの命の問題だと、コトの重大さをわかってもらわないといけない。 生産者と消費者をつないで、農業の危機は国民の命の危機だとわかってもらう-それができるのは、生産にも携わり、家事の多くも担う農村女性である。

 

◆社会をつくるのは家事の力

「ゆりかごを動かす手は世界を動かす」という諺がある。すべての人は、お母さん、つまり、女性の手で育て上げられる。良い人間に育つか悪い人間に育つかは女性次第。家事も教育も役割分担で、女性に押し付ける意味ではないが、現実には女性の力が大きい。
「毎日毎日、掃除・洗濯・炊事と追いまくられて、その価値を見失いそうにもなるが、その毎日の繰り返しこそが、世界を動かす力を育て上げている。」(東城百合子『かならず春は来るから』、サンマーク出版、2005年)。幸せな社会をつくるのは女性の家事の力。家事の中でも、安全・安心な食を提供する炊事は人を育てる一番の基本である。

 

◆危機は始まっている

 危機はもう始まっている。まず、牛乳だ。TPP11、日米FTA、日欧EPAに酪農協の共販弱体化という「クワトロパンチ」による将来不安から、夏場に牛乳が店頭から消えるリスクが高まっていたが、北海道の惨事でついに顕在化した。これは予期せぬ停電による一過性の問題だと思ったら大間違いだ。お母さんが「ごめんね。今日は牛乳が飲めないよ」と子供たちに言わないといけない日を頻発させるわけにはいかない。
 今入ってきている輸入農産物というのがいかに危ないのかについても、もっと我々は情報共有しなければいけない。検疫でどれだけの農水産物が引っかかっているかをみてみると、米国からは「アフラトキシン」、発がん性の猛毒のカビ。「イマザリル」をかけていても、ほとんどのものからこのカビ毒が出ている。それから、ベトナムなどの農産物にはE-coli(病原性大腸菌)に汚染されていたとか、あり得ない化学薬品がいっぱい検出されているが、港の検査率はわずか7%。検疫が追いつかず、93%は素通りで食べてしまっている。私の知人が現地の工場を調べに行き、驚愕したことには、かなりの割合の肉とか魚が工場搬入時点で腐敗臭がしていたという。日本の企業や商社が、日本人は安いものしか食べないからもっと安くしろと迫るので、切るコストがなくなって安全性のコストをどんどん削って、どんどん安くどんどん危なくなっている。

 

◆牛丼、豚丼が安くなっても

 札幌の医師が調べたら米国の牛肉はエストロゲン(成長ホルモン)が600倍も検出された。成長ホルモンは、消費者を守るために日本では生産には認可されていない。でも、米国が怖いから輸入はザルになっている。牛肉の自給率は4割(豚肉も5割を切った)だから、国民のために使えないようにしているのに、6割が勝手に入ってきていて国民が摂取していたら何をやっているのかわからない。
 EUは米国の牛肉、豚肉は全部ストップしている。勘違いをしているのはオージービーフ、オーストラリアの牛肉を食べればいいと言う消費者、これは駄目。オーストラリアは使い分けていて、EUは成長ホルモンが入っていたら買ってくれないので使わないが、日本に売るときはOKだから投入している。なんとEUは米国の肉をやめてから7年で、乳がんの死亡率が多い国では45%減った国もあるというデータが学会誌に出ている。
 もう一つ、ラクトパミン、餌に混ぜる成長促進剤、これは発がん性だけではなく人間が中毒症状も起こすというので、EUに加えて、中国もロシアも、生産輸入とも禁止している。日本は例によって、国産には使用できないが輸入はザルである。
 乳製品も心配。米国は、M社開発のGM牛成長ホルモン、ホルスタインへの注射1本で乳量が2~3割も増えるという「夢のような」ホルモンを、絶対安全として1994年に認可した。ところが、数年後には乳がん、前立腺がん発症率が7倍、4倍と勇気ある研究者が学会誌に発表したので、消費者が動き、今では、米国のスターバックスやウォルマートでは「うちは使っていません」と宣言せざるを得ない状況になっているのに、認可もされていない日本には素通りしてみんな食べている。日米FTAでもっと米国乳製品が増える。

 

◆命を削る食料は安くない

 このように、輸入農産物が安い、安いと言っているうちに、エストロゲンなどの成長ホルモン、ラクトパミン、遺伝子組み換え、除草剤、防カビ剤と、これだけ見てもリスク満載、食べ続けると間違いなく病気になって早死にしかねない。これは安いのではなく、こんな高いものはない。日本で安心・安全な農水産物を供給してくれている生産者の皆さんを、みんなで支えていくことこそが自分たちの命を守ること、食の安さを追求することは命を削ること、孫・子の世代に責任を持てるのかということだ。
 牛丼、豚丼、チーズが安くなって良かったと言っているうちに、気がついたら乳がん、前立腺がんが何倍にも増えて、国産の安全・安心な食料を食べたいと気づいたときに自給率1割になっていたら、もう選ぶことさえできない。今はもう、その瀬戸際まで来ていることを認識しなければいけない。

 

◆食を担う女性の声がうねりをつくる

 国民生活の危機は差し迫り、「頑張ったけどだめでした」では済まないレベルに来ている。私のセミナーに参加してくれたフランス女性が指摘してくれた。「日本人は詰めが甘い。フランスのように政府が動くまで徹底的にやらなくては意味がない。流れを変えられなければ、すべての努力は、残念ながら、結局パフォーマンス、アリバイづくりで終わってしまう。フランスなら食料の大事さをわかってもらうために、パリに通じる道路を封鎖して政府が動くまでやめない。」日本の未来を救えるか否かは女性の声の結集によるうねりが作れるか否かに依存するところ大である。女性は強い(少なくとも筆者は頭が上がらない)。今こそ、日本女性の底力に期待がかかる。

 

◆女性の高い経営力を活かす

 女性の力は農業経営面でも高く評価されている。まず、日本農業法人協会の調べで、女性活躍経営体100選(WAP100)では、2014年の平均売上額が5億2000万円で、全法人の平均(3億2000万円)を2億円も上回った。
 また、日本政策金融公庫の「平成28年上半期農業景況調査」では、女性が経営に関与しているグループは関与していないグループと比べて、3年間での経常利益増加率が71.4ポイントも高かった。中でも、「6次産業化」「営業・販売」を女性が担当しているグループは、特に増加率が高かった。
 さらには、空閑信憲「6次産業化が稲作農業経営体の生産性に与える影響について」(内閣府、2012年)でも、総農業労働時間のうち女性労働力が占める割合が1%上昇すると、生産性が1.09%上昇するという数値が推定されている。
 消費者に安全・安心な国産農産物が命・環境・地域・国土を守る重要性を認識してもらうにも、生産サイドの女性たちから消費者サイドの女性たちへの発信と双方向ネットワークの強化が極めて有効と思われる。日本の生産者、特に農村女性は、自分達こそが国民の命を守ってきたし、これからも守るとの自覚と誇りと覚悟を持ち、そのことをもっと明確に伝え、消費者との双方向ネットワークを強化して、ともに支え合って、地域を喰いものにしようとする人を跳ね返し、安くても不安な食料の侵入を排除し、自身の経営と地域の暮らしと国民の命を守らねばならない。
 今年こそ、共助・共生システム(農協・漁協や生協)の役割、生産者と消費者の役割、政府のセーフティネットの役割などを包括する食と農と暮らしを守る国家ビジョンを女性の力で確立し実践しよう。

 

 【特集】挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合 女性がつくる農協運動

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