JAの活動:挑戦・地域と暮らしと命を守る農業協同組合 女性がつくる農協運動
なぜか「ほっ」とする子ども食堂 JA高知県(旧JA南国市)女性部2019年1月18日
・地域みんなの居場所に
子ども食堂を運営するJAが増えている。孤食が増えるなか、みんなで食事を共にすることは食べ物の大切さ、コミュニケーションの楽しさを知るよい機会になる。JA高知県(旧JA南国市)女性部大篠支部の子ども食堂もその一つで、子どもだけでなく、その家族や近隣住民も利用し、地域のみんなが、ほっとできる居場所になっている。
◆支所の会議室を利用
「大篠子ども食堂オープンです!」。JA南国市(2019年1月1日よりJA高知県)大篠支部長窪田理佳さんの元気な声を合図に、入り口で待っていたたくさんの子どもたちや地域の人たちが続々と会場に入ってくる。「わーすごい!」「おいしそう!」目の前に並んだ彩り豊かな料理の数々に賞賛の声が挙がる。
(写真)会場に集まったたくさんの子どもたち
「大篠子ども食堂」は、高知空港にほど近いJA南国市大篠支所2階の調理室兼会議室を会場に、毎月第2土曜日に開催されている。運営するのはJA女性部大篠支部のメンバーだ。2018年5月にスタートして以来、開催は8回を数え、毎回コンスタントに150名以上の参加者が集まる人気の子ども食堂として、地域に根付きつつある。
取り組みのきっかけは、民政委員も務めるJA女性部員からもたらされた情報から。支所の裏手にある大篠小学校は、児童数が800人近くの県内一のマンモス校だが、夏休み明けに痩せた体で登校してくる子どもがいるという。そんな地域の現状を知り、問題意識を女性部員で共有するなかから、子ども食堂に取り組もう、という方向性が導き出された。
その背景として、高知県が「子どもの居場所づくり推進事業」と銘打ち、子ども食堂への支援を積極的に行っていることに加え、JA南国市女性部大篠支部で、手料理を楽しむ「二四六九女士会(にしむくじょしかい)」などの目的別グループ活動を活発に行ってきたことが挙げられる。これまで実践してきたことを、自分たちが楽しむだけではなく、何か地域に役立つこととして活かせないか、とメンバーたちが考えたことが、子ども食堂取り組みへの下地となった。
◆食材は地域で集める
小中学校の「学校だより」や市の広報誌などに掲載されたほか、JAの広報担当者が『日本農業新聞』や『高知新聞』、地元のテレビ局などに働き掛けたことにより、JA女性部員が手掛ける子ども食堂の情報は、瞬く間に地域全体に滲透していった。その結果、参加者が多く集まったことはもとより、「自分も食材を提供したい」と協力を申し出る個人の農家や、県の施策を受けて全支店でサポート体制をとるスーパーなどが現れた。一方女性部のメンバーも、積極的に生産者や企業に食材提供を呼び掛けた。毎回300個以上提供される卵は、JA女性部の役員たちが、一か八かで鶏卵業者に寄付を願い出て実現したことだ。
市の広報誌で子ども食堂の存在を知り、初回から継続して大根などの野菜を提供している農家の男性は、子ども食堂開催日には必ず会場を訪れている。自分が育てた野菜を、子どもたちがおいしそうに食べる姿を見るのが楽しみだという。
メンバーたちは二四六九女士会などでの経験から、一度にたくさんの料理を作ることはお手の物。そこでこのスキルを活かし、地域の素材を使った多種類の家庭料理を好きなだけ食べてもらおうと、バイキング形式を選択した。おにぎり、唐揚げ、煮もの、色とりどりのサラダ、汁物、デザートにいたるまで、1回に作る料理の種類はざっと14~16種類。すべて女性たちの心のこもった手作りで、負担も大きいがその分参加者の満足度もグッと高まる。
準備は前日の昼に開始するが、衛生上の配慮から、肉などの生ものについては必ず当日に調理する。また季節ごとの花やオーナメントを飾るなど、会場のあちこちに女性らしい優しさが溢れている。
開催当日は早朝8時半から作業開始。今回のメンバーは16名で、誰が何をやるかは事前に決まっているわけではなく、長年の付き合いから自然と役割分担ができているそうだ。すばらしい手際の良さで次々と料理が仕上がっていく。開始時刻の11時半、入り口にはすでに長蛇の列。さあ、子ども食堂のスタートだ。
(写真)バイキング形式でたくさんの料理が楽しめる
◆子どもも大人も参加
会場を見渡すと、子ども数人のグループ、赤ちゃん連れの若い夫婦、祖父母も含めた3世代一家、お年寄りの集まりなど、参加者は多種多様。子どもだけでなく、地域みんなの居場所にという思いから、参加者を子どもや母親には限っていない。参加費は、小学生以下は無料、中高生は100円、大人でもたったの300円だ。
今日が2度目の参加だという若い母親は、「家では食べない野菜も、ここに来るとなぜか食べてくれる。調理方法の参考にさせてもらっています」と笑顔。サッカーチームの仲間で来ている小学4年生の少年たちは、何度もお代わりしてとても楽しそうだ。おばあちゃん6人のグループは「子どもたちが喜ぶ顔を見ながらみんなで食べるご飯は本当においしい」と顔をほころばせる。
(写真)3世代で訪れていた親子づれ
会場には大篠小学校をはじめとした近隣の学校の教員も顔を出し、子どもたちの様子をさりげなく見守っている。大篠小学校の教頭先生は「大篠小の児童のうち4人に1人は、一度はここに来ており、不登校の子どもや家庭に問題がある子どもが参加しているのも確認しています。学校では人間関係がうまくいっていない子ども同士が、ここでは仲良く一緒に食卓を囲んでいたりする。子ども食堂は、給食とは違ったコミュニケーションツールになっていて、不思議な力があるようですね」と話す。
毎回参加している近所に住む男性は「この子ども食堂は、子どものため、母親のため、高齢者のため、そして運営するJA女性部員のためなど、数え切れない意味を持っています。なぜかほっとする地域の救いの場。継続して活動できるよう、地域全体で支えたい」と涙ぐんだ。
◆開かれた子ども食堂
「"子ども食堂は貧しい子どものもの"というレッテルを貼れば、本当に困っている子どもが参加しづらくなってしまう。だから間口を広げて、いろんな子ども、いろんな年齢の人たちが気軽に集い、わいわいと地産地消を楽しむ場所にしたい。そんな自由な雰囲気のなかで、貧困にあえいでいたり、食生活が乏しかったりする子どもたちが、気負うことなく自然に参加してくれればいいと思っています」。窪田支部長は活動にかける思いをそう話す。だから自分たちはあえて「鈍感に」なるのだという。
取材日の参加者は、全部で179人。そのうち100人近くが子どもだが、あとは、子どもを連れてきた親御さんや近隣住民などの大人だ。「ここは、一人暮らしのお年寄りなどが、月に1度、地域の人たちと一緒に楽しくご飯を食べられる場でもあります。これからも、地域みんなの居場所であり続けたい」
(写真)さすがJA女性部 手際抜群!
◆多くの可能性を秘め
開設から8か月以上がたち、大篠子ども食堂は、高知県一規模の大きな子ども食堂へと成長した。子ども食堂をJA女性部が運営することの意味を問うと、窪田支部長からは2つの答えが返ってきた。1つは、ここを利用した子どもたちは、必ずやきちんと食と向き合える大人に成長してくれるだろうということだ。なぜなら、大篠子ども食堂を運営するのは、食に一番近い立場にいる、自分たちJA女性部員だからだ。
そしてもう1つは、この活動を通して、地域の人々がJAを身近に感じるきっかけになっていることだという。「普段は立ち入ることがまずないJA支所の2階に、こんなにたくさんの地域住民が集う、それだけでもすごいことだと思います」
(写真)野菜を提供してくれた農家の方と窪田女性部長
2019年1月1日に、JA南国市を含む高知県内12JAが合併し、JA高知県が誕生した。大篠子ども食堂は、JA女性部大篠支部の活動として、今後も継続して開催する予定だ。「私たちの活動を、他のJA女性部にも知ってもらい、子ども食堂の活動がどんどん広がっていったら嬉しい。JA女性部が結集すれば、もっと多くの子どもたち、そして地域の人たちの居場所づくりができるのですから」。窪田支部長の声が力強く響く。夢に満ちた可能性を秘めている、それがJA女性部だ。
(日本協同組合連携機構 小川理恵)
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