JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代
【比嘉政浩JA全中専務理事に聞く】使命と経済性を両立 JAの"魅力"を磨く2019年7月19日
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◆事業進め地域貢献
―新時代に向けて今後のJAにはどのような取り組みが求められるのでしょうか。
協同組合は組合員の共通の利益のための事業を展開していますが、その延長で公益にも貢献しています。現にJAは農業振興と地域活性化に貢献しており、今後も継続する意思を持っています。
しかし、意義ある事業を展開しているからと言っても、天からお金が降ってくるわけではなく、自ら収支を確保する必要があります。したがって、協同組合の魅力は、使命と経済性を両立させる事業モデルをどれだけ持っているか、それを新たに見出し続けられるか、磨き続けられるかにあると思っています。
近年でいちばん典型的なのがファーマーズ・マーケットでしょう。大規模から小規模まで、様々な規模の農家の出荷場所であり、地域住民に新鮮な農産物を提供するという事業です。農家の所得向上にも貢献するほか、JAとしても経営が黒字というファーマーズ・マーケットはいくつもあり、地域経済にも貢献しています。使命と経済性を両立させる事業モデルの典型だと思います。
移動購買車は、買い物弱者対策として素晴しい取り組みですが、赤字にしないノウハウがあってこそ持続可能であり、そのノウハウを持っていることが素晴しいです。中山間地域・離島のJAでは、歯科診療所を運営しているところもありますが、収支確保を前提として運営されています。営農経済事業でも、たとえば単価の低い加工向けのキャベツを大玉化したり、段ボールではなく鉄コンテナで集出荷するなどの方法で農家の所得向上につなげています。
このようにJAは協同組合の存在意義で魅力でもある、使命と経済性の両立のために努力し、具体的な事業モデルを見出してきました。これをさらに進めていかなければなりません。
生活インフラのJA直売所
JA全農も、高密度播種育苗などの低コスト生産技術や育苗ハウスを有効活用する栽培システムなど、新たな手法を現場に提案しています。農業構造の転換期だからこそ、新たな事業モデルを打ち出していく必要があるのです。
現在の金融情勢のもとではJAの経営収支悪化の懸念はありますが、これはJAバンクのみならず、わが国金融機関全体を覆うことであり、避けられません。一方で農業者の世代交代期、構造改善期という重要な時期ですから、守りに入るわけにもいきません。つまり、JAの経営改善と農業振興の取り組みを両立させるしかなく、それには事業モデルを転換し、そのモデルを磨くという発想以外にないと思っています。これは協同組合としての根源的なテーマであり、構造改善期だからこそ改めて大切になっているということです。
◆准組合員明確化へ
―准組合員の事業利用規制問題は、今後の問題として残されています。どう臨みますか。
准組合員の利用規制については「組合員の意思による決定」を貫きます。今回の参院選の与党公約に「組合員の判断に基づくものとする」旨が入ったことはとても大きいと思っています。
「組合員の意思による決定」は協同組合として正しいことですが、楽観はしていません。与党は組合員の意見について、JAグループが実施している組合員調査の結果を念頭に置いています。一方、吉川農相はこの問題について、6月の記者会見で、昨年8月の党の決議を踏まえて対応したいと発言しています。党の決議とは、組合員の意見で決めるということですから、政府もそれを踏まえるということになれば、論理的には政府自ら組合員の意見を把握するということもあり得るからです。
もとよりわれわれは、農協改革集中推進期間が終わろうとも自己改革は継続します。具体的には事業モデルを転換したうえで磨くことであり、組合員と対話をしながら進めるということです。
そういうなかで准組合員の位置づけについては、さらに明解な位置づけをする必要があり、これは組織的に協議したいと考えています。
私は協同組合として有事に臨むと言っています。それは使命と経済性を両立させる事業モデルを磨くということであり、政治的には「大切なことは組合員の意見で決めるべき」と主張していくことです。これは協同組合にふさわしい決定方法であり、貫きたいと思っています。
◆GAPを積極支援
―9月末までには全中は一般社団法人化するという節目も迎えます。全中は何に取り組みますか。
新たな事業モデルに挑戦していくのは全中も同じです。特に現場の事業モデル転換を支援する仕事をしていきます。
例えば2017年に全国4連が協力をし「JAグループGAP支援チーム」を設置しました。GAP団体認証取得の支援を本格化させています。GAPへの取り組みは増えていますが、ほとんどのJAでは専任担当者を設置できていないのが現状です。支援チームはGAP取得に関する人材育成を行っており、認証費用も全国4連の経費支援で行っています。JA全体では23県53団体が団体認証を取得しており、そのうち支援チームは16JA2全農県本部を支援しています。全中が直接支援チームをつくり各地でノウハウを共有していくという事業の1つです。また、JA営農指導実践全国大会は個々の営農指導員の実践を発表してもらう大会ですが、そこでは個人にスポットを当てて表彰し、その様子が多くの地方紙に掲載されました。現場の努力を発信していくことは、これからも力を入れなければならないことだと考えています。
JAグループGAP支援チームの活動
5月には農林中金を中心にJAグループのイノベーションラボ「アグベンチャーラボ」がオープンしました。新しい分野にチャレンジしようという人たちが持っている知見や技術というシーズと、農業現場にあるニーズが出会う場にしたいと開設しました。アグベンチャーラボには全中も職員を1名派遣しており、効果が上がるように努力していきたいと考えています。
4月の機構改革で経営基盤・県域JA支援課を新たに設置しました。この課では、負担を求めつつ個別支援をするという、これまで全中になかった方法を実践しています。沖縄、島根、香川、山口の中央会と個別に契約して一定の負担を持ってもらい、それぞれの課題について担当職員が支援しています。
◆研修の場「芋こじ」
―JA職員などの「教育」が引き続き期待されています。
いくつか具体的な改革を考えています。
まず、農協監査士試験は科目を入れ替えて「経営学概論」を科目にし、この試験をもっと人材育成のプラスになるようにしていきたいと考えています。また、今年度から大原学園と連携して、インターネット上で農協内部監査士試験に向けた学習ができる「eラーニング」の提供や、協同組合として重要である、組合員と職員の対話に必要な技術を身に着けるためのファシリテーション研修を教育部で行います。
それから最近はJAの職員に農家の子弟が少なくなったことから、全国JA職員資格認証試験のなかで、農業についての知識を問うなどの工夫をしていきたいと考えています。
JA経営マスターコースは東京都町田市のJA全国教育センターの移転にともなって令和4年度から大手町での研修に移りますが、他の企業の社員や全国連職員と一緒に学ぶ場を設置する工夫など、他流試合がしやすくなるというメリットも考えたいと思っています。寮も確保しなければなりませんが、マスターコースの研修生だけでなく他の組織の人もいる場にしたいと考えています。
「芋こじ」という言葉があります。水で芋を洗うとお互いが磨かれていく様子を、二宮尊徳が、話し合い、研鑽の場として着目したということですが、JAグループの寮や研修の場も「芋こじ」ができるようにできないかと考えています。このように教育制度を充実させていくことにより、使命と経済性を両立する事業モデルを生み出せる人材育成に取り組んでいきます。
一方で、一般社団法人化を契機に全中の年間基礎的経費の約1割、2.8億円を節約することにしています。JA全国教育センターが東京都の公園緑地として買収されることになっていますが、全中も経費の削減に努めながら、なおかつプラスになるような事業方式にしていきたいということです。
◆しっかり情報発信
情報発信はJAグループとしても重要と認識しており、グループ全体としてテレビやアプリなど多くの媒体で幅広い層にJAの取り組みについて知ってもらえるよう、発信に努めています。会長の週刊誌の連載やJAcomの全中動静によって、永田町や霞ヶ関、大手町の雰囲気を伝えたいと思っています。
同時に政府の政策決定のプロセスが変化したことに対応して、春に実施している食料・農業・農村政策確立大会は、適切に政策提案を行うことができるよう継続して開催していきます。
一般社団法人に組織変更することを3月の総会で決定しましたが、全JAが一社全中の会員になる予定です。そのことに感謝し、これからも全中はJAグループの代表機関として力を尽くしたいと考えています。全中会長はこれからも選挙で選びますし、平成27年度から実施している組合長会議も続けていきます。
最後に全中職員は全国連のなかで誰よりもJAのことを知っている職員でありたいと考えており、毎年度JAと人事交流など様々な工夫をしていますが、これからも継続していきたいと思っています。
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