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JAの活動:食料・農業・地域の未来を拓くJA新時代

「若手のホープ」に聞く 食と農と地域、JAへの思い (下)32019年7月22日

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◆農協批判には憧れ潜む 立ち場違う人とも交流

 飯野 黒田さんがJA全青協の会長を務めた時期は、「農協改革」の大嵐が吹いていた時で、私の時はどちらかと言えばその嵐が少し沈静化していた時期になります。その間に私は、ふと思い当たったことが1つありました。もしかしたら、農協を批判している人たちの中に、農協に対する「憧れ」のようなものが潜んでいるのではないかということでした。

 大金 そうなんですか。

 飯野 社会に激しい隙間風が吹く中で、なぜ農協だけが「性善説」で成り立っているのかというような嫉妬を含んだ「憧れ」ですね。批判の的にさらされている私たちはいささか自信を失い、疲れているけれど、冷静に逆手をとって考えてみると、批判しているサイドにも密かな「憧れ」を抱いている人間がいるのではないかと考えた。
 現場で農業に挑戦し、頑張り続けている盟友は、決して間違っていないという確信からすれば、次代の農業を継承しようとしている盟友は絶対に正しい。そうした見方を、立場の異なる人から発信してもらえれば、盟友の励ましにも自信にもつながると思ったのです。

 大金 なるほど。

 飯野 拳を振り上げていたときは、団結力で乗り切れたけど、拳が下がってくると不安や一抹の寂しさにとらわれ、力が湧いてこない。だから僕は他団体との接触を試み、JC(日本青年会議所)のトップと話し合った時の印象がよみがえった。彼は「金を食えるのは"カネゴン"だけど、人間が食えるのは"ご飯"だから、自分たちは農業を支援する。経済だ、経済だと金を稼いでも、その金はいざとなったら、何の役にも立たない。皆さんが作っている"ご飯"こそ、国民の命を守る糧なんだ」という。
 僕がずっと言い続けてきたことを、立場の違う人間が同じことを言えば、大きな力を持って注目されることを知り、驚くと同時にうれしかった。「農協改革」は、いろんな方面に強いインパクトを与えたけれど、そこには、私たちに対する「憧れ」も潜んでいることに気づかされた。これは返って自信につながる収穫の1つでした。

 大金 農業を担っている盟友が元気に結集する農協が、誇りや自信を失う必要は全くありませんね。

 飯野 黒田さんは「みんな、つながっていたいのだ」という確信を唱えています。それは、AIがおしゃべりをして「ご主人様、どういたしましょうか」という機能を持つようになった現代だからこそ、人は人との「つながり」に飢えていると言い換えることもできる。
 いまは社会に焦りのようなものがまん延し、殺伐としています。農業者は、農協をよりどころに豊かになってきた。そしてこのIT時代にも懇ろに集落座談会などを積み重ねています。「延々と時間をかけて、馬鹿じゃないの」と笑う人たちの中には、人と人との濃密な関係に対する「憧れ」もあるんじゃないか。そんなサイドから「協同組合を守りたいなら、もっと真剣に農協のことを自分たちで考えろよ」と言ってくれているのだな、と僕は受け止めたい。
 黒田さんの言葉に刺激を受け、もっと真剣に「協同」について考えてみようと思ったことがありました。「協同というのは当たり前なんだよね。当たり前だから、みんな忘れちゃうんだ」という言葉です。

 

◆僕らの言葉で情報発信 自らの意識改革も必要

 大金 それでは黒田さん、どうぞ。(笑い)

 黒田  何でも当たり前になると、忘れてしまう。そういう社会に、私たちは生きているということじゃないか。農協はいまも、人間が人間らしくあるべき理念をしっかり持っている。
 僕は、ホームステイをやっていましてね。都会の修学旅行生をこ10年くらい、毎年受け入れてきて、この子らから学ぶことが多い。
 高校生で、とんがった男の子が初めは口もきいてくれない。挨拶もロクにしてくれない。自分はこんな田舎に来たいわけじゃなかった、学校が決めたから、しょうがなくて来た、という子だった。その子と夜になってしゃべっていたら、黒田さんは何で僕らを受け入れてくれたんですかと聞いてきたので、「修学旅行がいかに楽しいかを僕も知っている。せっかく都会から来るんだから、少しでも手伝って上げようと思ってね」と答えたら、「北海道の人は優しいんですね」と言う。
 後でもらった感想文には「農村の人たちは助け合って生きているんだなと実感しました」とある。でも、どう考えても、誰かと特別に助け合ったというイメージが僕にはない。だけど、自分たちの言葉の端々に、そういう考え方があるからこそ、その子たちには驚きだったのだなと思った。
 僕たちが偉いというのではなく、厳しい自然環境の中で、その自然に立ち向かって農業に取り組んでいるから、たまたま持っているにすぎないものだと思う。

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ホームスティ中の高校生たちと黒田氏

 大金 なるほどね。

 黒田  率直に言って、農地は僕個人の財産ではなく、国や先人たちのものをたまたま今、自分が預かっているにすぎないと僕は考えています。だから、種をまいたり、収穫したりする熱量と同じ熱量で何事にも取り組みたい。
 ずいぶん悔しい思いもしてきました。TPP反対などでは鉢巻きをして誰よりも激しく、真剣に取り組んできた。しかし、僕らの思いがどこまで届けられたのか。生産者と消費者がどうして「VSモード」になってしまうのか。「食と農」の価値をみんなでなぜ共有できないのか。僕たちの何が至らないのか。お互いがお互いを「知らない」という壁を、どう突き破っていくのかなどが課題だなと思っています。

 飯野 僕らの言葉で正確な情報をしっかりつなぎ、消費者の皆さんの理解や共感を広げるために、農協はもっともっと誇りや勇気を持って、1歩も2歩も踏み出していい時代ですね。

 黒田 農家を困らせようと仕事をしている農協の役職員は、ただの1人もいない。「自己改革」は、農協や全国連などのシステムを変えれば済むというものではなく、実は農家自身が、組合員としての自らの意識改革を問われているのだと、僕は受け止めています。それに応えることが不十分だったからこそ、家族農業や農協があれだけ押し込まれてきたんだ。

 大金 最後に一言。事実上のFTAとも言える日米2国間貿易交渉の合意を、参議院議員選挙後に引き延ばしている現局面について、どんな受け止め方をしておられるのか。輸出産業のために、またぞろ農業が犠牲を強いられる懸念に対し、それぞれのお考えを聞かせていただけるとありがたいのですが。

 飯野 海外への依存度が増す食料政策をどう変えるべきか、食料・農業・農村基本計画をもう一度しっかり国民全体で考えることが必要だと思います。この課題は多岐にわたるけれど、理想をしっかり掲げ、半歩でも前に出る議論を青年部から発信できたらと思っています。

北海道の開拓に似たような歴史があるんだね。「農業は国の基(もとい)」と多くの政治家が口にします。この言葉の意味を今こそぜひ真剣に考え、実現することを期待します。

 大金 長時間、ありがとうございました。

 

座談会を終えて

 なんと魅力的な男たちだろうと思った。言葉の力を信じ、「自分の言葉」を持っている。言葉が塵芥(じんかい)のように浮薄な現代だから、そう感じるのかもしれない。お二人の魅力は、農業やJAの魅力でもある。元気でさらに見事な「言葉の花」を咲かせてほしい。(大金)

 

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