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JAの活動:新世紀JA研究会第1回全国特別セミナー 国民の食を守る役割を明確に

【法政大学大学院・連帯社会インスティテュート 栗本 昭氏】人類が共通の未来像を2019年8月23日

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試される能力と真剣さ

 新世紀JA研究会の全国特別セミナーでは、生協など同じ協同組合組織の連携について討議。特にSDGsの取り組みは、これから協同組合組織が目指すべき方向としての意味をもっていること、そしてJAがSDGsコンパスを使って事業プロセスを設計することが重要だということを栗本昭氏は強調した。

◆概念の進化

栗本氏 持続可能な開発の概念はレイチェル・カーソンが 1962 年の「沈黙の春」で農薬による環境悪化に警鐘を鳴らしたことに始まります。1972年のローマクラブの「成長の限界」や国連人間環境会議を経て、1987 年にグロー・ブルントラントは「持続可能な開発に関する私たちの共通の未来」のレポートで「未来の世代の能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす開発」と定義しました。1992年の地球サミットは持続可能な開発に関する取り組みを国連のアジェンダとして取り上げました。
 一方、国連は1960年から10年ごとに発展途上国の経済・社会開発の目標(国連開発の10年)を設定して取り組んできたが、新千年紀に入ってそれはミレニアム開発目標(MDGs)に引き継がれ、さらに環境問題を統合して持続可能な開発目標(SDGs) が設定されました。「持続可能な開発」は消費と生産、産業とインフラ、人口と輸送、農村と都市、経済と社会を含む現代の流行語となりました。


◆SDGsとは

 社会課題の拡大・複雑化を背景に、「次世代」という時間軸を加えて統合された目標がSDGsに統合されました。SDGsは持続可能な未来をめざす国連の到達点です。「我々の世界を変革する 持続可能な開発のための2030アジェンダ」は先進国も含めて変革を求めています。政府のみならず、民間セクターも含めて目標を共有し、創造性とイノベーションの発揮が期待されています。誰も単独では達成できない目標だからこそ、パートナーシップ・協働が不可欠。方向感を合わせてアクセルを踏み込むことが大事なのです。
 SDGs自体は政治宣言だが、ビジネスはそこに「機会」「リスク」「基盤確保」の必要性を見出して動き始めています。取り組み方は定まっている訳ではないが、多くの企業が参照しているものとしてSDGコンパスが参考になります。


◆協同組合の特質

 協同組合は、事業を通じて共通のニーズを満たすための人々の自律的な組織です (協同組合アイデンティティに関する ICA 声明)。協同組合は組織の次元と事業の次元で持続可能な開発に貢献することができます。組織の次元では組合員を教育し、アドボカシー活動を行います。
 事業の次元では持続可能な方法で商品やサービスを提供し、雇用を創出する責任を持ちます。協同組合の価値は、持続可能な開発を達成するためにも重要。また、協同組合の原則は価値を実践に移すための指針として有用です。


◆ICA の取り組み

 ICAは1957年のストックホルム大会で経済・社会の開発問題への取り組みを開始。1980年のモスクワ大会のレイドロー 報告では、将来の選択の第3優先分野として「保全者社会」を提起。1992年の東京大会では「協同組合のアジェンダ21」 を決議し、地球サミットの「アジェンダ21」に対応した分野別行動計画作成を提起しました。
 ICAはリオサミット (1992年) や「リオ + 20」 (2012年) でのプレゼンスを示し、2012年の協同組合の10年に向けたブループリントでは、経済、社会、環境の持続可能性において定評あるリーダーとなるという「2020年ビジョン」を掲げました。SDGsについてはCo-ops for 2030というサイトを設け、各国協同組合のコミットメントを集約しています。


◆日本の協同組合

 日本生協連 は「2020年ビジョン」として「私たちは、人と人とがつながり、笑顔があふれ、信頼が広がる新しい社会の実現を目指します」を掲げました。2007以降、社会・環境に関する取り組みの進捗状況を評価し、課題を特定するために、年次の「社会的取組み報告書」を発行。これらの取り組みをさらに推進するため、 日本生協連は2018 年6月の第68回総会で「コープSDGs行動宣言」を採択し、ホームページで「SDGs と生協」コーナーを設けて推進しています。2017年にパルシステム生協連合会、2018年に日本生協連は、日本 SDGs アワードで SDGs 推進副本部賞を受賞しました。
 貧困撲滅と子どもの支援 (目標 1)については、生協のユニセフのための組合員募金、フードバンクの活動支援、多重債務者のための生活相談・貸付事業、子供食堂を運営し、貧困問題に取り組んでいます。
 相互支援・サービス提供による健康・幸福の増進 (目標 3)については、農協厚生連による農村医療と予防活動、医療生協による保健・医療活動、低額無料医療、高齢者のニーズに対応する自主的な助け合い活動や介護保険による在宅・地域・施設サービスを提供。低価格でクリーンなエネルギー (目標 7)については、生協の「温室効果ガス削減計画」に基づく二酸化炭素削減、福島原子力発電所のメルトダウンの後、生協は省エネと再生可能エネルギーへのシフトを推進しています。
 責任ある消費と生産 (目標 12) については、CO・OP ブランドのエシカル商品の推進、有機農業や環境に優しい農業を通じて責任ある生産を奨励。また、多くの生協は、店舗や宅配トラックでリサイクル可能なカタログ、包材を回収しています。気候変動に対応する強靭なコミュニティの構築 (目標 13) については、被災地の生協は、他の地域との交流を通じて、被災者支援や経済復興を引き続きサポートしています。


◆JAはいかに取り組むか

 JAとしての重要な視点としては、JA自己改革とSDGsを同時に進めること、他の協同組合、企業(生協、イオン、キリン、日本フードエコロジーセンター等)の取り組みに学ぶこと、これまでの各分野の取り組みをSDGsの目標に沿って位置付けること、ソーラーシェアリング、食品ロス削減など新たな取り組みを進めることを提起したい。具体的な進め方としては、SDGコンパスを使って事業プロセスを設計すること、優先課題、目標を設定し、経営に統合すること、PDCAによる推進と持続可能性報告書の作成を行うことが重要です。

◇      ◆

 協同組合は持続可能な開発に対する本質的価値を持っています。協同組合は何十年もの間、様々な方法でこれに取り組んできました。これらの成功と失敗の事例から学ぶ必要があります。現在、SDGs が流行語になり、政府、企業、非営利団体を含むすべての組織が、目標へのコミットメントを宣言し、ICAをはじめ世界の協同組合がSDGsに取り組んでいます。日本の協同組合は SDGs 達成に貢献することが期待されており、この課題に対する協同組合の能力と真剣さが試されています。

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