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JAの活動:新世紀JA研究会第1回全国特別セミナー 国民の食を守る役割を明確に

【白石正彦・東京農業大学名誉教授】人類的な視野で挑戦 協同組合に使命と誇りを2019年9月18日

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白石正彦先生 日本の生命産業である農業は、官邸主導による農協法の改正、TPP11協定発効、日EUのEPA協定の発効、日米交渉(実質的にはFTA)大枠合意などで大きな影響を受けてます。このような市場原理を優先したグローバル化の荒波や政府の家族農業経営支援策の弱さ、アグリビジネスのグローバル化・フードシステムの川中・川下パワー拡大による公正な取引の歪み、IoT、AIなど情報・人工知能技術の開発による日本農業と農協運動をめぐる客観的な条件変化を注視すべきです。

 その上で、「農協運動の中心軸」である(1)農協の組織基盤としての正組合員・准組合員の営農面・生活面・新循環型再生エネルギーの開発面・地域インフラの保全面などのニーズと願いの実現を目指して男女共同参画による"協同活動方策の革新"、(2)農協の変えてはならない理念を堅持して"戦略面で継続すべき点と転換すべき点の重層的統合"、(3)単位農協と連合組織等の"ガバナンス・経営・事業の革新"、(4)世界の協同組合セクターの一翼を占める"JAグループの発信力の革新"の4本柱を束ねて"主体的条件"の改善・革新を図る未来志向の協同組合らしさの発揮が求められています。
 この場合に、(1)政府セクター(公共・公益の追求)、(2)営利企業セクター(株式等の投資資本に対して最大限の利潤追求)、(3)協同組合セクター(人びとがその弱さを克服するために出資し、1人1票で運営に参画し、事業利用活動を通じてメリットを追求)の3つのセクターには質的に大きな差異があり、相互に役割分担し、補完しながら取り組むことによって、今日の人類的課題である国連の2030年に向けての持続可能な開発目標(SDGs)に効果的に貢献できる。JAグループはこのような協同組合セクターの一翼を担っているという「使命」と「誇り」を明確にする必要があります。

 世界の協同組合セクターの一翼を占めるJAグループは、1995年に決定された「ICAの協同組合に関するアイデンティティ声明」を共有し、これを土台に1996年に「JA綱領」を決定している。また国連やILOもこの価値・原則を共有し、毎年7月の国際協同組合デーを国内外の12億人の組合員が祝賀している姿を市民だけでなく政府・自治体、財界にも広報し、対話を重ねる必要があります。
 そのような相互理解を拡げつつ「だれ1人取り残さない」という理念を中核に、経済・社会・環境面を包含した持続可能な開発のためのSDGsの17の目標と169のターゲットを日本の各地域から効果的に実践するためには、3つのセクターがパートナーシップを拡げ、ローカルレベルから人類的課題解決への挑戦が求められています。

 農協の組織基盤である正組合員・准組合員のメンバーシップについて、2015年8月の農協法改正の附則で、政府は准組合員の組合の利用に関する規制の在り方について、施行日から5年を経過する日(2021年3月末)までの間、正組合員及び准組合員の組合の事業の利用の状況、並びに改革の実施状況について調査を行い、検討を加えて、結論を得るものとする、と規定している。この点を直視しつつ、かつ先月の参議院選挙の与野党の正准組合員政策、全中の組合員意向調査結果、農林水産省の正・准組合員の調査の動向からも目が離せません。

 1999年制定の食料・農業・農村基本法では、「農業の持続的な発展」が主軸ですが、その基盤を形成している「農村の振興」の2つが双方向で支えあうことにより、目標とする、「食料の安定供給の確保」と「多面的機能の十分な発揮」を可能とし、国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を実現する論理構成と自給率向上を目指す基本計画の策定・実践が目玉です。
 早稲田大学教授(元総務大臣)の片山善博氏は「これまでの地方創生はこのままやってもうまくいかない。地方の人口減少は解決しない」と指摘している。農山村・地方都市では政府・自治体、営利企業、協同組合の3つのセクターが画一的デザインではなく地域のニーズを掘り起こし連携して取り組むべき危機的状況の克服が大きな課題となっています。
 「だれ1人取り残さない」という理念を中核とした2030年に向けてのSDGsを地域から効果的に実践するためには、中山間地域、平坦地域、さらに都市化地域でも正・准組合員を組織基盤とする総合農協の存在意義はますます大きくなっています。

 以上のような総合農協の位置づけを土台とすると共に、ICAの協同組合に関するアイデンティティ声明に盛り込まれている21世紀の協同組合原則である定義・価値・7つの原則を重視した協同組合らしさの発揮が問われています。
 これまで准組合員には事業利用という自益権のみ与えられていましたが、今後は4分の1程度の共益権(役員選出や議決権)を定款に明示し、准組合員のアクティブ・メンバーシップ化を促進するべき新段階を迎えています。

◇     ◆

 新世紀JA研究会は、第1に准組合員の定義を「食とJA活動を通じて農業振興に貢献する者」と位置づけ、一方で「農業振興クラブ」の組織化のモデルづくりという提案を高く評価したい。このため、JAにおける准組合員を対象とした教育学習の場づくりをめざし、JA役員・企画・教育担当職員のセミナーの開催が期待されます。
 第2に政府の大規模農業推進政策には限界があり、生命産業である農業は傾斜地を含め生態系保全とコミュニティの持続に支えられた多様な家族農業経営を中核に位置付けた支援策が効果的である。同時にJA出資型農業法人、新規就農者による家族農業経営や有機農業プラス農福連携農業経営、6次産業化志向の農業経営、市民生活と融合する都市農業などの内発的発展を、JAグループのみでなく3つのセクターが連携して取り組む方策づくりのセミナーの開催が期待されます。
 第3に信用・共済・営農経済・生活福祉など各部門の情報システムを複合化した「範囲の経済効果」を発揮するためのセミナーの開催が期待されます。
 第4に、以上のセミナーの成果を踏まえて総合JAの経営基盤の確立・強化を包含した新しいモデルを描きつつ、それを実現するプロセスとしての課題発見、要因分析、課題解決の指針づくり、それに人材づくりのための教育文化活動の実践方策などの提言をタイムリーにまとめることを期待したい。


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