JAの活動:今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で
【提言:農業協同組合の目指すもの】JAおきなわ・普天間朝重理事長 恐れずに「ピンチをチャンスに」2019年10月7日
10月1日、全国農協中央会は一般社団法人に都道府県中央会は連合会への新たな組織に移行した。これを農業とJAにとって新しい時代を拓く契機としたい。そんな思いから今回の特集では「今始まるJA新時代 拓こう協同の力で」をテーマとした。
その第1回として、JAが新たな時代を切り拓いていくためにいま堅持しなければならない基本的な視点は何か、普天間朝重JAおきなわ理事長が提言する。
離島の農業を支えるサトウキビ畑
◆試されるJAの力量
難しい時代になってきた。TPP、日EU・EPA、日米貿易交渉など"かつてない規模"の貿易自由化、"かつて経験したことのない"マイナス金利、"観測史上最大"の気象災害、という具合だ。「想定外」という言葉はもはや意味を持たない。
加えて国際情勢は、米中の貿易摩擦や日韓関係の悪化、英国のEUからの離脱など混迷の度を増しており、こうした中での食料自給率37%に危機感を感じないわけにはいかない。今起きている国際紛争がいずれも貿易問題に結び付いているからだ。サウジアラビアの石油関連施設が攻撃を受けて1日当たりの原油供給量が半減したという。当然原油価格は急騰する。輸送ルートとしてのホルムズ海峡も不安定だ。これが原油でなく食料だったら。世界の食料輸出国の生産量が何らかの理由で半減したら(地球温暖化は気にならないのか?)。輸送ルートが遮断されたら。2008年、世界的な不作による食料不足で食料輸出国が輸出の制限または禁止に踏み切ったため、国内では食料不足を来すとともに価格が高騰したことを思い出すべきだろう。食料自給率の観点から今、JAの力量が試されている。
こうした国際情勢の不安定化を背景に世界経済は停滞色を強めており、世界の金融当局は政策金利を一斉に下げ始めている。マイナス金利からの出口を探る日銀にとっては金利の引き上げ(正常化)を探るどころか、さらなる金融緩和(異常状態の深化)に追い込まれそうな状況だ。少なくとも現在のマイナス金利はさらに長期化するだろう。そうなるとすべての金融機関の経営は一層悪化することが予想され、JAグループにとっても経営をどう維持し、健全性を確保していくのか、ここでもJAの力量が試される。
◆増産をみんなで喜べる農業を
沖縄県では現在、3年後の令和4年3月の沖縄振興特別措置法に基づく「沖縄21世紀ビジョン」の期限到来を見据えて、次期振興計画策定に向けた議論を活発化している。沖縄振興審議会がそれでJAグループもその中での農林水産部会で向こう10年の沖縄県の農林水産業の方向性をまとめる作業に加わっている。
本県の農業産出額は平成28年に21年ぶりに1000億円の大台を突破し(1025億円)、29年も1005億円と2年連続の1000億円台と好調に推移している。現在の振興計画基準年(平成22年)と比較すると、さとうきびが187億円から168億円と台風の影響等で19億円減少しているものの、肉用牛が134億円から228億円、野菜が128億円から153億円と大きく増加している。ただし農業産出額の太宗をなすさとうきびの8割、肉用牛の7割は離島であり、農業産出額のさらなる拡大に向けては各離島に支店・製糖工場・家畜市場を置くJAの役割が一層重要性を増してくるだろう。
こうした中、JAでは農家所得の安定に向けて買取販売を平成27年度の15億円から30年度には倍の30億円に拡大し、さらなる販路拡大に向けて一昨年、関西営業所を開設した。また、海外輸出については、昨年度から始めたクルーズ船への農産物販売が初年度は6000万円の売上げをあげており、さらに今年度から海外輸出用の泡盛の原料としての長粒種米(インディカ米)の生産を始めている。従来タイ米を原料としてきた泡盛を輸出するためには原料も地元産米を使おうということで、行政、酒造組合、JAが連携して離島の伊平屋島で長粒種米の作付を行っている。生産基盤の観点からは台風等の災害時の資金手当・生産資材の支援、人材不足解消に向けての外国人研修生の農家への派遣などを行っており、農村部での移動購買車の展開なども順次拡充している。"JAだからこそできる"という意識と誇りで役職員が日々懸命に取り組んでいる。
課題もある。黒糖の過剰在庫問題だ。黒糖工場は県内に8か所あり、3工場が民間企業で5工場がJAの運営。すべて小さな離島である。県内産黒糖の需要量は7000トンと見込まれているが、ここ3年間は連続して9000トンの増産となり、すべての製糖工場が在庫を抱えて苦しんでいる。需給バランスが崩れているともいえるが、離島農家の生産や生活を守るためには需要量に関わらず原料のさとうきびを全量買い取らなければならないため、製糖工場の経営安定に向けた抜本的対策が急務である。離島では産業(農業)政策と地域政策は不離一体であり、ましてや生産調整などできようもない。
「増産をみんなで喜べる農業」を合言葉に今、沖縄農業の未来を創る作業が進められている。
◆駅伝にも似た組織運営
金融機関は今、マイナス金利のもとで苦しんでおり、店舗統廃合や要員削減を進めながら周辺他行との合併を模索しているようである。JAでも貸出金利回りが急激に低下しており、貸出金利息が毎年度減少している。貸出金残高は維持しても、高い利回りの既往貸出金の償還と低い利回りの新規実行額との差がそのまま貸出金利息の減少となる。有価証券運用も厳しい状況が続いている。
上部団体である農林中央金庫(農中)も同様で、その影響は下部組織である信連や単協にのしかかる。農中の奨励施設は、従来の余裕金基準から貯金基準(それも個人貯金に限定)に変更され、さらに毎年度奨励率が0.05%ずつ、4年間で0.20%引き下げることになっており、今年度から開始している。状況次第ではさらなる見直しもあるかもしれない。何にせよ対応しなければ。
組織の運営は駅伝に似ている。単にタスキを次の走者に渡せばいいというものではなく、少しでもいいポジションで繋げようと選手は考える。一人でも多くを抜いて順位を上げ、少しでも後続との距離を広げる。JAの役員も同様で、与えられた区間(任期)懸命に走り(改革を実践し)、できるだけ良いポジション(経営改善)でタスキ(役職)を渡さなければならない(ただしコースはクロスカントリー並みだが)。
◆組合員・利用者のためになるのか
創業100年を超えるいわゆる「100年企業」の数は日本が世界第1位で2万6000社あり、2位のドイツでも数千社しかないというほど日本には長寿の企業が多い。タスキをうまく繋げているようだ。その原点はおそらく近江商人だろう。近江商人とは、江戸から明治にかけて現在の滋賀県から日本各地を巡って畳表や蚊帳、薬などを売り歩いた行商で、出向いた先に定着した。その経営理念は「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」。つまり、売り手の都合だけで商いをするのではなく、買い手が心の底から満足し、さらに商いを通じて地域社会の発展や福利の増進に貢献しなければならないということ。
近江商人は行動指針としてこうも言っている。「商売とは世のため、人のために奉仕することである。そうすれば"利益はきちんと後からついてくる"」、「商品を無理やりに売りつけることは決してしてはいけない。お客さんの"好むもの"を売るのも本当の商人ではない。本当の商人とはお客さんの"ためになるもの"を売るものである」、「資金の少ないことを嘆くのではなく、信用の足りないことを嘆くべきである。信用のない商人は、絶対に繁盛することはない」、「店の大小は問題ではない。商売をする場所が良い悪い、という問題でもない。いい商品を、お客さんのために提供できれば、おのずから商売は繁盛する」。
示唆に富んでいる。我々は常日頃、どういうスタンスで組合員や利用者に接しているだろうか。
◇ ◇ ◇
JAおきなわではこの10月、機構改革を行った。
機構改革の基本理念として「原点回帰」、基本方針として総合事業機能発揮、期待効果として事業横断を掲げている。従来の機構は、本店の本部を農業事業本部、生活事業本部、信用事業本部、共済事業本部というように事業ごとに区分していたが、今回の機構では、「農業振興本部」と「暮らし丸ごと応援本部」に分け、農業部門と信用・共済・生活が合体した生活部門という区分にした。すなわち、従来の事業ごとの考えでは多業態との競争や競合を意識するあまり、事業縦割りのなかでの「推進」という意識になりがちだったが、もう一度原点に帰って、農業を振興する(農業事業の推進ではなく)、農家や地域の組合員の生活を支える(事業量の拡大ではなく)、という意識を形にした。
まずは原点に帰り、推進による"量"を求めるのではなく、本当に組合員の"ためになる"事業・サービスの在り方を追求する。「利益は後からついてくる」という近江商人から学ぶべきことは多い。
◇ ◇ ◇
「今、恐れるべきものは、恐れという感情そのものだ」。ニューディール政策でも知られる第32代アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトは、世界恐慌のときそう言って国民を鼓舞した。つまり、恐れることこそが恐れなのだと。3つの危機も「ピンチをチャンスに」と考えて乗り切ろう。恐れずに。
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