JAの活動:今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で
【歴史が証言する農協の戦い】原発事故と戦った福島の協同組合間連携【3】2019年10月11日
協同組合をベースに新しい産地づくりを
小山良太福島大学食農学類農業経営学コース教授
協同組合をベースに新しい産地づくりを
◆期待が高まる大学「農」学部
菅野会長は、新しい産地づくりの重要性を指摘している。本年4月に開設した福島大学食農学類への期待もこの新しい産地づくり戦略の一環である。JAグループ福島からは食農学類設置にあたり3億円の寄付を頂いた。北海道大学農学部に続いて全国2つ目の協同組合学研究室も開設した。
国立大学において「農」学部の新設は、実に47年ぶりである。福島大学の前は琉球大学農学部(1972年本土復帰とともに国立大学)とのことである。原子力災害によりダメージを受けた福島県農業の再生の要として、次世代の食農人材の養成が目的である。
菅野会長が指摘するポイントは二つある。一つは「食」「農」学類という名称である。これからの農業は、生産、加工、流通、消費までをも包含したフードシステムとしての視点が重要である。フードシステムとは、食料品の生産から流通・消費までの一連の領域・産業の相互関係を一つの体系として捉える概念であり、震災後の風評問題など生産現場と消費現場、都市と農村をつなぐ体系性の再構築こそが重要と考えた。
そこで、食農学類では、「川上」の農業・農家・農村による生産を対象とした農学から、加工・流通を含む「川中」、小売・消費の「川下」までも視野に入れたフードシステム全体を農学の対象として捉え直している。食育や地域の食文化なども研究・教育の対象となる。
原発事故、放射能汚染、風評被害を踏まえて、食と農の現場の乖離こそが最大の課題であること再認識させられた。それは、農協も行政も大学も同様である。福島だからこそできる食と農に関わる研究と農学教育の成果を福島から世界に発信していくことが我々の使命だと考えている。
◆後世に伝える震災10年史を
菅野会長は10年の節目を目途に、原子力災害、放射能汚染対策を総括する記録史の必要性について言及した。福島県では何が達成されて何が課題として残っているのか整理する上でも、後世に事故の記録とそこで行われたさまざまな取り組みを検証してもらうためにも記録を残す必要がある。
原発事故に関しては、問題点も指摘されているが、国会、政府、民間による事故調査委員会の報告書が出されている。しかし、原子力災害、放射能汚染問題に関しては、福島県、復興庁、各研究機関など各主体がそれぞれの課題・テーマで報告を行っている状況である。
一方、旧ソ連、ベラルーシ、ウクライナにおけるチェルノブイリ事故の報告では、健康、避難、食品検査などに関する総合的な報告書が提出され、原子力災害に関する国際的な総括資料となっている。日本では8年が経過した現在、国による総合的な原子力災害の総括が正式な報告資料として発表されていない。国際的にも日本のどの報告書を基に放射能汚染問題、原子力災害の8年間の結果を判断したらいいのか分かりづらく、それがさまざまな不安を増長させる一因となっているといえる。
福島県独自の米の全量全袋検査の実施主体は地域の協議会であり、その中心は農協組織である。これを全県的に標準化し、情報共有していく機能は行政機関である福島県と県中央会に他ならない。3300億円に迫ろうとしている農産物の損害賠償の窓口は「JAグループ東京電力原発事故農畜産物損害賠償対策福島県協議会(2011年4月26日設立)」であり、その事務局は県中央会である。
被災自治体や立地協同組合組織がこれだけの取り組みを進める中で、国・政府は果たすべき役割を果たしてきたのであろうか。現状に落胆していても事態は進まない。協同組合間協同をベースとした新しい産地づくりと取り組みの検証を進めていきたい。
本特集の記事一覧はこちらからご覧いただけます
【今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で】
重要な記事
最新の記事
-
【人事異動】JA全農(2025年1月1日付)2024年11月21日
-
【地域を診る】調査なくして政策なし 統計数字の落とし穴 京都橘大学教授 岡田知弘氏2024年11月21日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】国家戦略の欠如2024年11月21日
-
加藤一二三さんの詰め将棋連載がギネス世界記録に認定 『家の光』に65年62日掲載2024年11月21日
-
地域の活性化で「酪農危機」突破を 全農酪農経営体験発表会2024年11月21日
-
全農いわて 24年産米仮渡金(JA概算金)、追加支払い2000円 「販売環境好転、生産者に還元」2024年11月21日
-
鳥インフル ポーランドからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
鳥インフル カナダからの生きた家きん、家きん肉等の輸入を一時停止 農水省2024年11月21日
-
JAあつぎとJAいちかわが連携協定 都市近郊農協同士 特産物販売や人的交流でタッグ2024年11月21日
-
どぶろくから酒、ビールへ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第317回2024年11月21日
-
JA三井ストラテジックパートナーズが営業開始 パートナー戦略を加速 JA三井リース2024年11月21日
-
【役員人事】協友アグリ(1月29日付)2024年11月21日
-
畜産から生まれる電気 発電所からリアルタイム配信 パルシステム東京2024年11月21日
-
積寒地でもスニーカーの歩きやすさ 防寒ブーツ「モントレ MB-799」発売 アキレス2024年11月21日
-
滋賀県「女性農業者学びのミニ講座」刈払機の使い方とメンテナンスを伝授 農機具王2024年11月21日
-
オーガニック日本茶を増やす「Ochanowa」有機JAS認証を取得 マイファーム2024年11月21日
-
11月29日「いい肉を当てよう 近江牛ガチャ」初開催 ここ滋賀2024年11月21日
-
「紅まどんな」解禁 愛媛県産かんきつ3品種「紅コレクション」各地でコラボ開始2024年11月21日
-
ベトナム南部における販売協力 トーモク2024年11月21日
-
有機EL発光材料の量産体制構築へ Kyuluxと資本業務提携契約を締結 日本曹達2024年11月21日