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【農業協同組合が目指すもの】中家徹JA全中会長が語る【2】共同販売は農協の原点 組合員の結集力が鍵に2019年10月14日

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全中中家会長のサムネイル画像

◆共同販売は農協の原点 組合員の結集力が鍵に

 大金 学園を経て紀南農協に入り、様々な部門を担当されたと思いますが、なかでも青年組織事務局は8年務めたそうですね。農協職員としてはどんな取り組みや経験が印象に残っていますか。

 中家 青年組織事務局時代には、たとえば、青年農業者のただ働きを解消しようという運動をしましたね。家族経営でなかなか給与制にはならなかったので、「自ら働き、自ら稼ぐ」というかたちにしたいと、思いついたのが花のハウス栽培でした。そこで稼いだお金は自分たちの分にしようと、家族と相談してもらい、青年組織を挙げて取り組みました。カスミソウ栽培でしたが、それが当たり、全国農協青年大会でも活動実績発表の機会を得ました。
 それからずっと後になりますが、平成5(1993)年、企画管理部長のときには農協と地域農業の「長期ビジョン」を立てなければいけないと、平成7(1995)年から17(2005)年までの10年計画を立てようと思い立ちました。

 大金 それがいわゆる「レインボー21プラン」ですか。

 中家 そうです。この長期計画をつくるために、組織の「強み」を徹底して生かしました。女性組織、青年組織、支店運営委員会や各生産部会などです。全国の優れたJAの現場にも彼らと一緒に視察に出掛け、10年計画を立てるために2年間議論をしました。
 その過程で、女性組織から女性の地位向上をどうするんだという意見が出てきました。その声に応えるためには、JAへの女性の運営参加・参画が不可欠ということになり、女性総代を3割にしようという目標を打ち出しました。平成5(1993)年ころでしたから、全国でももっとも早い取り組みであったと思います。JA総代会の議長も一人は男性、もう一人は女性ということにしました。そのころからずっと「女性に見捨てられたJAに未来はない」と言い続けています。

 大金 けだし名言です。様々な課題を解決していくなかで、家族農業と地域社会を守るのがJAだと私は思っているのですが、中家会長にとってJAとはどんな存在なのでしょうか。改めてお聞かせいただけますか。

 中家 JAがなかったら農業も農村ももたないし、それだけの存在価値があると私は確信しています。
 端的なのは共同販売です。組合員のみなさんにもよく申し上げるのですが、JAはあって当たり前と思っておられるかもしれないが、仮にJAの共同販売がなくなったとしたらどうなるかを考えてみてください、ということです。
 もちろん共同購入で良質な生産資材を安く買うのも協同組合運動の原点であり、信用も共済も総合事業の一環として極めて重要です。
 しかし、共同販売という取り組みはJAでしかできない。ミカンにしても梅にしても、JAが存在しないとなれば農家がいちばん困ります。JAが集荷・選別機能を持ち、卸売市場に送り出す機能を持っているからこそ大量の農産物を販売できるし、ブランド化して産地をつくることもできる。
 JAの事業について私がよく言うのは、JAに支払う事業ごとの手数料はさまざまな活動資金として間接的に組合員に戻りますが、一般事業会社との取引でそういうことがありますか、と。
 つまり、お金を自分たちのなかでどう回すかということですね。それが協同組合の協同活動の成果ということにつながるのだと思います。

◆未来に向け食の実態を発信 誰のための農業なのか?

 大金 JAはそんな協同活動を基軸に据えながら、国民への食料供給という重要な役割を果たしてきました。そしてこれからも、正組合員はもとより准組合員や地域住民のみなさんとも手を組み、農業の振興や食料の安定供給を図っていかなければならないと思うのですが、どんな抱負をお持ちですか。

 中家 いちばん大事なのは、国民のみなさんに本当に農業は大事で、農業のある農村を守らなければならないという意識を持っていただけるような関係づくりです。その切り口が「食」であると私は思っています。
 「食料・農業・農村基本計画」の見直しの議論が始まりましたが、基本法の4つの理念は食料の安定供給の確保、多面的機能の十分な発揮、農業の持続的な発展、そして農村の振興です。これらの理念が今まさに厳しい現実に晒されていて、食料の安定供給確保のリスクが非常に高まっています。
 昭和から平成になるときの担い手の平均年齢は約57歳でしたが、今は約67歳です。生産基盤が弱体化し、食料自給率は37%です。世界的に災害も頻発しています。いつ何時、日本に食料が入らなくなるか、リスクが極めて高くなっています。
 農水省は農畜産物の輸出を増やそうと強調しますが、輸入は輸出の約10倍あって、過去10年間で輸出よりもかなり増えています。ということは、日本の農業のパイが狭まっているということです。このような実態を分かっていただくことが大事で、国産の農畜産物の消費拡大に積極的に貢献していただきたい。それを徹底して言い続けなければなりません。

 大金 私は「農業はだれのものか」という世論を喚起したい。農業は農家のためだけにあるんじゃない。食べて生きている国民全員の問題です。

 中家 「地方創生」にJAグループが果たす役割も大きいです。たとえば地域の伝統文化の伝承にもJAは大きな役割を果たしてきましたし、地域のライフラインも守っています。中山間地域で移動購買車を走らせるなど、地域になくてはならない組織なのです。
 言い方を変えれば、JAが元気にならないと「地方創生」は実現できないのではないか。そのくらいの強い思いがあって、そのためにはJAの結集力が大事です。組織基盤を強化するためには2つあって、その2つとは「量」と「質」だと私は唱えています。量とは組合員の数。質とは組合員の意識ですね。この質の問題、すなわち組合員の意識を高める取り組みが大事になってきます。

 大金 JAの将来を担っていく世代には何を期待されますか。

 中家 時代が変われば考え方も変わるでしょうが、よく言われる「不易流行」が大事ですね。「不易」の部分はぜひ守ってほしい、それはJAが協同組合という組織であるということです。
 私たちの時代は「職員は協同組合運動者だ」とよく言われました。やはり協同組合運動者という意識を持ってもらい、協同活動を喚起することに注力していただきたいです。
 もちろん競争が激しくなり、金融にしても他の金融機関と同じ土俵で競争しなければならない現実があるわけですが、協同組合には独自の信用・共済・販売事業論などがあるように、原理・原則をしっかりと頭に据えて日々の業務にあたってほしいですね。

 大金 激しい競争社会のなかで、危機をチャンスに転換する協同組合としてのマネジメントも、各JAのトップリーダーには求められていますが。

 中家 この度の「自己改革」は、まさにピンチをチャンスにする機会でした。全国のJAが必死になって「自己改革」に取り組んできましたが、幸いにアンケート結果では、組合員からJAは高い評価をいただいています。それはやはり、JAがなくてはならない組織だという意識が高まってきているということであり、言い換えれば結集力が高まってきた、協同組合としての本来の姿に近付いているということです。引き続き、変えるべきところは変える改革に取り組み、組合員が必要とするJAになりきることだと思っています。
 悲観的にならず、自信とプライドを持ち、JAがなければ地域はつぶれてしまうというくらいの気持ちで取り組んでいただきたいです。今が辛抱のしどころです。その先に必ず明るい展望が開けると私は確信しています。

 大金 「元気・やる気・本気・勇気」こそが、JAの新しい時代を切り拓くということですね。ありがとうございました。


【インタビューを終えて】
 黒潮文化圏の「紀南」の人は明るく情熱的で、進取の精神や冒険心に富むと言われる。そうした気質と協同組合の運動論とがスパークして、中家さんの全身から「青い炎」が吹き出して見えた。その炎に接するうちに、国連難民高等弁務官などを歴任したJICA(国際協力機構)元理事長・緒方貞子さんの言葉を思い出した。「冷たい頭と熱い心を持て」という名言である。JAグループの未曾有の節目を担うトップリーダーとしての気概が、身近に迫ってくる会見であった。ひとえに、ご健勝を祈るのみだ。(大金)


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