JAの活動:今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で
【鼎談・河合勝正 × 村上光雄 × 大金 義昭】JAへの思い 次世代に伝えて(3)2019年10月17日
わが「農協人生」を賭けて住みよい農村づくりへ
河合勝正 愛知県JA愛知東代表理事会長
村上光雄 広島県JA三次・元組合長(元JA全中副会長)
大金義昭 文芸アナリスト
左から村上氏、大金氏、河合氏
◆石垣に無駄な石無し 職員信頼し根気よく
大金 ところで、協同組合は人の組織ですよね。広域合併が進んだいまは、組合員と日々直接顔を合わせている支店活動が重要視されています。その現場を支える職員をどのように育てたらいいのでしょうか。
村上 支店が地域の拠点として重要であり、河合さんが言われたように、支店には地域特性があって、それに合わせた活動が必要ですから、職員がそうした取り組みにうまく対応できるかどうかですね。組合員の協同活動を自主的に組み立てることができる職員を育てることが、JAにおける人づくりのポイントではないか。
河合 若いころ管理職に命じられたとき、不安そうな私に当時の組合長が、困ったら組合員に聞け、「我以外皆我が師なり」と思えと言われたことを思い出します。常に相手の立場に立って、何を求められているか耳をかたむけること、その求めに対して応えることが大事であると、いつも思っています。要するに正直、誠実、他人への配慮が人づくりの基本だと思います。
村上 職員をどう育てるか。その見極めは普段の仕事ぶりを見ていれば分かります。職員には絶えずボールを投げるようにしてきましたね。そのボールを職員がちゃんと返すかどうかです。返球の早さや正確さで、できる職員とそうでない職員は分かるものです。
大金 職員の能力を引き出す手がかりは何でしょうか。河合さんはJAの「家計簿」をオープンにし、役職員同士で問題や課題の共有に努めてこられましたが。村上さんのお考えは著書(『明日から実践!私たちのJA自己改革 元組合長が語る現場視点の提言』家の光協会)を読むと分かりますが、職員への信頼が基本になっているように感じました。
村上 与えられている人材を育てながら、いかに有効に活用するかが役員の使命ですね。これは石垣積みにも例えられる。野面(のづら)積みでは、どんな石でもどこかに当てはまり、捨てる石はない。どんなに小さくても、また形が悪くても収まるところがちゃんとあるものです。JA愛知東に最初に伺ったときに、職員の応接が親身でオープンな雰囲気を感じました。みなさんがそれぞれの役割を自覚し、生き生きと働いている印象を受けました。
河合 人事の要諦は「疑いて用いず。用いて疑わず」ではないでしょうか。村上さんは自ら野面積みをやられるそうですが、本当に誰一人無駄にしない人事、指導力には頭が下がります。人それぞれ同じ人はいません、。その能力を十分発揮していただく職場風土をつくるのは役員の責務だと思っています。
大金 問題は、OJTなどを介して次世代に協同組合の理念や思想をどう継承するかですが、職員に限らず、いまの若い世代は組織活動になかなか馴染めない傾向がある。
河合 大変、便利な社会になりました。同時に生活や便利さはお金で買わなければ成り立たない社会構造となりました。貧乏を望む人などいないと思いますが、行き過ぎた経済優先社会によって、社会的共通資本を通じての活動に参加する機会が減り、協同の必要性が薄れつつあるように思います。つまり「協同」ということが、若い人には構造的に受け入れにくいところがあるのではないか。
お金を稼ぐことが第一となり、家族関係や集落での活動のあり方が大きく変わりつつあります。お寺、学校、お祭り、共同作業など社会的共通資本を通じて新たな協同の理念を浸透させるためには、昔からある日本のよき文化や農村の姿を、家庭のあり方、地域のあり方を通じ、根気強く伝えていくことですかね。
大金 河合さんも村上さんも「教育・文化活動」がJAのバロメーターだと考え、現場で実際に力を注いでこられました。しかし、多くのJAは事業が右肩上がりの時代から、「人づくり」といった手間や金のかかる取り組みを疎かにしてきたような感じがしてなりません。そんなことをしなくても、組織・事業・経営が回っていた時代はそれでよかったかもしれない。しかし「持続可能なJA」を考えるなら、これからは、そういうわけにいかない。格差が拡大し、分断された人びとが孤立して他人に不寛容になり、「協同」の心が失われています。
◆組合員の信頼に応え JAの結集軸明確に
村上 「今だけ、自分だけ、金だけ」の社会で、いかに助け合うべきか。みんな集まって話をしようという雰囲気が次第になくなってきた。私の地域では、約70戸で4つの集落があり、かつては集金などの目的で毎月「常会」を開いていました。しかし、だんだん人が集まらなくなり、残っているのは私のところの1集落だけです。集まるのは用事があるときだけで、なんでもないのに集まって雑談する余裕も環境もなくなりました。
集落のまとまりがよいか悪いかは、道ばたの草刈りをみれば分かる。草刈りには市が助成金を出し、それが集落の活動費になっていますが、まとまりの悪い集落は草刈りをしていないのですぐ分かります。そう考えると、みんなが小さなグループでもいいから、集まって何でもいいからやり、それをJAがお手伝いする。職員がやらなくてもよいから、やりたい集落やグループがあれば、その相談相手になるということですね。そこから始める必要があります。
それともう一つ。全国的な問題として考えてほしいのですが、農業やJAが果たしている役割ついては、JA全中が国民の理解を得る広報活動を強め、いまJAグループが何を考え、何をやろうとしているのかを明確にアピールするべきです。政府が唱える大規模農業だけではないので、国連が提唱しているような「家族農業の10年」やSDGsへの対応などにも積極的に取り組んでほしい。政府や官邸は無視していますからね。
日本の協同組合セクターは昨年、JCA(協同組合連携機構)をつくりました。JA全中の力を引き出すためにもJCAがフォローし、協同組合のナショナルセンターとしての役割を共にしっかり果たしていただきたい。
大金 少子高齢化や人口減少、格差の拡大、自然災害の頻発など社会・経済・環境の大きな変動に直面し、これからは人びとが助け合わなければ生きていけない時代ですからね。食料自給率も37%に落ち込んでいる。それにもかかわらず、食と農に対する危機感が国民の間に切迫したかたちで広がっていません。
貧困層を中心に、その日食べるのが精一杯という現状もある。農業については「生産性向上、規模拡大、競争力強化」の一辺倒で、「強きを助け、弱きを挫く」政策がまかり通っている。新しくスタートしたJA全中を中心に、JAグループはこうした動向や潮流に対する「対抗軸」を明確にし、その「対抗軸」をグループの「結集軸」にして協同組合の役割を存分に発揮してほしいと思います。
◆ ◇
大金 最後に、「持続可能な農的社会」を目ざしてきたJA三次やFEC(フード・エネルギー・ケア)の自給圏づくり」を掲げてきたJA愛知東の取り組みなどを念頭に、SDGsなどとの関連でJAの役割や使命に言及していただけたらと思うのですが。
河合 これまでJAがやってきたこと、また現にやっていることがSDGsそのものなのです。このままの経済社会が続くと、人間社会は本当に持続できなくなる。そのためにも協同組合が必要なのです。
村上 日本の農政は「周回遅れ」と言われていますが、それでもまだ気がつかない異常な体勢になっています。協同組合の原理・原則をきちんと踏まえ、協同組合セクターとしてみんなの輪を広げ、国民理解を得ながら着実に前進していくしかありません。JA全中がその中核となる機能を果たすように期待しています。ともあれ、本気で取り組みたいですね。
大金 JA全中が、グループのナショナルセンターとして果たすべき役割は山ほどあります。困難な局面ですが、JAの新時代が到来したという自信と誇りをもって挑戦していただきたい。
村上 これだけ叩かれてもつぶれないのは、JAが「協同組合組織」だからだと思います。企業だったら、大手企業でさえつぶれているでしょう。それはJAが、組合員の信頼に支えられているからです。組合員の信頼があるから、叩かれても持つ。多様な組合員の意見を聞き、組合員中心に組織を守っていけば、まだまだ新しい展開ができる。組合員が変わっているのだから、その変化に合わせてJAも変わる必要があります。
河合 協同組合の理念は「不易・不変」です。しかし、時代が急激に変化している。その変化に応じた組織・事業論を考えなければなりません。協同組合の理念をみんなで共有し、変化にマッチングして対応していかなければと考えています。
大金 率直で貴重なご意見を拝聴しました。ありがとうございました。
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