JAの活動:今、始まるJA新時代 拓こう 協同の力で
【歴史が証言する農協の戦い】共販の歴史 高知園芸の原動力2019年10月23日
生産者の結集力地域発展の礎JA高知県
高知県では県内で生産されるミョウガ、ナス、キュウリなど多彩な園芸作物を100年近く前から県域の連合会が一元集荷し全国の市場に出荷、販売する体制をつくりあげることによって地域の農業を維持、発展させてきた。その主体であった高知県園芸農業協同組合連合会(高知県園芸連)は今年1月のJA高知県の発足とともにその役割をJAが担うことになったが、これまでの歴史は共同販売が地域の生産者の営農と暮らしを守る礎となってきたことを示す。JA新時代を考えるために改めて高知県の農協の取り組みを取材した。
◆「統制出荷」の意味
ハウスが広がる安芸郡安田町の農地
高知県園芸連は平成30年に記念誌「高知県園芸連九十五年の歩み」を発行した。それによると高知県園芸連の創立は大正11年(1922年)であり、JA合併によって閉じたその歴史は97年に及んだ。
記念誌にある高知県の「野菜栽培の起源」は、寛政11年(1799年)に藩船の船頭が大阪でキュウリの栽培方法を学んで持ち帰り、現在の高知市種崎で栽培したことから、その地が促成園芸発祥の地とされていることが記されている。その後、和歌山県からナスの種子が入ったことや、明治から大正にかけて先人たちが現在のハウス生産の元になる栽培方法を研究した歴史が記されている。たとえば、寒い時期の保温に不可欠な防寒資材として長く使われてきたのが油障子であったこと、そしてビニールフィルムが昭和27年に導入されると5年で県全域に普及し、栽培の大きな変革をもたらしたとある。
栽培技術の変遷とともに記されているのが生産者組合の歴史だ。明治26年(1893年)には県下で初めて園芸組合ができた。昭和47年に発行された「組合と五十年」誌には「高知市池字吹井に吹井土佐園芸組合ができる」と農家組合結成の最初の記録がある。産業組合法の施行が明治33年(1900年)のことだから、農家が集まって生産者組合を作っていた歴史はそれ以前から高知県にはあることを示す。
「五十年」誌には、高知県で園芸が盛んになり、大阪市場にも出荷されるようになったが、「中間商人の意のなすがままの不利な取引が多くなってきた」とあり、「心ある生産者は...有利販売をなすには団結の力より他に道なしと組合ができはじめ」とある。大正時代になると県としてもその結成を促進したが、県内各地にできた組合間の出荷などの調整が問題になったことが記されている。たとえば一市場に出荷が集中しお互いに不利益な取引になったり、代金回収のトラブルになったりした。
こうしたなか、同記念誌には「統制出荷」の用語が県連創立以前から出てくる。九十五年誌ではそれを今日の系統共同販売の起こりだとして「組合員の生産する青果物の全てを組合に集出荷し、組合は県連の統一規格に準じ共選をもって選果選別を行い、その全量を県連の指示する指定市場に出荷販売すること」と記述されていることや、これについて「お互いが協調、自主的に規制した制度」であることを紹介している。
「統制」という言葉が使われているものの、実態は自主的な共同販売の始まりであったことが記されている。
◆生産の協同で平準化
現在の高知県の農業生産額は平成30年度で1195億円となっている。このうち野菜と果樹、花きで約8割を占める。かつてその割合は3割ほどでまだまだ米麦が中心だったが、森林が多く農地が水田面積で2万haと少ない高知県では、狭い面積で付加価値の高い農産物づくりが県の農業振興の柱になっていた。
施設園芸は冬場も日照が多い温暖な気候を生かした農業でもあるが、共同販売の仕組みでそれを発展させてきたといえる。理由は消費地から遠い遠隔地であることもある。関西に向けて出航する1日1回の商船に間に合わせるため生産組合では夜間に荷造り作業をしたという記録もある。
JA高知県の武政盛博代表理事組合長は「農家の経営がどんなに大きくなっても流通にコストがかかる消費地と遠隔な地域。県全体がまとまって有利に販売していく。先人たちが知恵を出して一元集荷のメリットを出してきた」と話す。その体制をつくるなかで生産者は進取の気概で他産地に先駆けて栽培に取り組んだ。ピーマン、ナス、ししとう、オクラ、ミョウガなど、野菜の出荷品目は現在110品目。果樹は30品目、切り花は120品目ある。
それらの品目の栽培を支えてきたのは、歴史ある各地の農家組合だという。
武政組合長の地元、四万十町にも興津生産組合がある。そこも県園芸連の創立よりも前に結成され100年ほどの歴史がある。県全体のハウス栽培面積は1300haと15年ほど前にくらべて300haほど減り後継者確保も課題だが、Uターンで農業を継ぐ人も出てきた。
それには栽培技術を指導する生産組合の歴史も大きい。武政組合長によるとその地元の生産組合では集落に戻ってきた人にリーダー格の農家が栽培技術を教え、高い収量を上げて農家としてデビューするなどの取り組みがあり、それを自分の家族のように喜ぶ感覚が集落にあるという。
(写真)武政盛博組合長
こうした生産組合の取り組みが「教え、学び合う、まとまりのある産地づくり」という県の政策になった。
高知県園芸連で参事を務め現在、JA高知県の青木厚林代表理事専務は高知県園芸連にとって各JAのもとで生産・出荷している生産者組合は「まとまった一つの生産者」として捉えてきたという。現在に至る県の共同計算方式も、県下各農協はもちろん生産組合と、そこに結集する生産者の「合意の積み重ね」で実現したことと振り返り、「この一体感が崩れることはなかった」と話す。
高知県園芸連として、輸送コストまで含めて県全体を共同計算としてスタートした品目はピーマンで昭和43年のことだった。その後、ナスなどに拡大し現在は9品目で実施しており、51年の歴史がある。高知県内の生産品目が東京や大阪の市場でバッティングしないよう園芸連が分荷権を持ち調整する。生産者の出荷日、すべての等級と荷姿、市場など取引先への運賃もすべてプール計算とすることに、生産者が合意し実現してきた。そのために園芸流通センターなど集出荷施設の整備も行ってきた。輸送コストを下げるだけなく、農産物の温度管理の実現によって取引先からの評価も高めた。
この方式は必然的に生産物の規格を高い水準で平準化することにも結びつく。高品質なものをまとまってつくればブランド力も生まれ、農家所得の向上にも結びつく。それが先に紹介したような「教え、学び合う、まとまりのある産地づくり」になっていく。
高知県の青果物全品目の年平均卸市場価格は平成30年で1kgあたり600円台を確保した。青木専務によると通常の市場価格の3倍程度だという。
生産面での協同が共同販売の強みを発揮している。たとえば、県内各地でそれぞれ特色あるナスの栽培が実施されたきたが、3年前に、よりまとまって有利な地位を確立しようと「高知エコなす」と9規格に集約したところ、市場価格が上昇したという成果も上げている。
今後は、生産面では収穫ロボットを導入するなどの農家の栽培支援とともに、東京、名古屋、大阪に加えて仙台、金沢、広島にも販売拠点を増やした、よりきめ細かな販売の実践、新たな流通体制の整備などに取り組んでいくことが課題となっている。
(写真)青木厚林専務
◆組合員目線で組織化
かつての選果の風景。きゅうりを木箱に詰める作業「高知県園芸連九十五年の歩み」誌より
JA高知県の理事で安芸地区本部園芸運営委員会の齊藤仁信会長は高知県で歴史ある生産組合のひとつ、安芸郡安田町にある中芸集出荷場の委員長も務める。もとは大正15年に結成された東島園芸組合から始まり、平成17年に4市町村の集出荷場が統合して現在の出荷場となった。かつての集出荷場は齊藤会長の自宅のすぐ近くで、子どものころはそこで遊んだ記憶があるだけでなく、キュウリを出荷するための木箱を作る手伝いもしたという。収穫したものをその箱に詰めて集出荷場に運び、筵(むしろ)に並べて選別し、出荷用の段ボールに詰めて県外にトラックで運ばれた。ピーマンでは県下一の販売高を誇った。その後、ナス、ししとうなどが主力となっている。
地域の生産組合が合併し現在の中芸集出荷場に統合されるとき、そこから遠い生産者からの出荷が課題になった。齊藤さんは「遠くなるから出荷しない、ではいけない。遠くないかたちにしなければならない」と考えたという。地域に出向き生産者たちと話し合って、集出荷場の作業員がその地域にある旧集出荷場まで集荷することを決めた。職員の作業時間内のひとつの仕事に位置づけることで業者委託の横持ち集荷料などを不要とする方式とした。「組合員が事業に参加できるよう工夫することがもっとも大事」といい、それは共同販売が地域の生産者にとってリスクがないからだと強調する。
齊藤仁信安芸地区本部園芸運営委・会長
このように生産組合はそれぞれの事業方式を自主的に決めてきた歴史がある。栽培技術も「組合員全員が会員」の研究会で研鑽し、作物も自分たちで選択し産地を確立してきた。齋藤会長自身は20年前からナスから切り替えトマトの周年栽培に取り組み7人で部会も組織している。また、市場関係者と生産者との懇談会、勉強会などを通じて知識を深める取り組みも長年続けてきた。
「農協は自分たちのいちばん身近な存在。いかに農家が結集する組織にするか、組合員の目線で考える。それが強い農協になる」と話す。
現在のナスの選果。安田町の中芸集出荷場
高知県の園芸振興は県政の柱でもあり、昭和20年代に他県に先駆けて行政としての販売振興拠点として東京に事務所を出している。行政とともに力を入れてきた歴史もある。
武政組合長は生産部会、青年部、女性部などが樹木の枝葉となってたくましく茂っている姿をJAのイメージとして描く。その幹となっているのがJAの事業であり、豊かに茂った葉の下には、地域の大勢の人々が集まってくる絵も描く。
今後も園芸の拡充が柱となるが、「食と農を基軸とした参加型の事業を展開、組合員以外にも広く働きかけて地域を守っていく」と話す。
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