JAの活動:ここまで落ちた食料自給率37% どうするのか この国のかたち
【座談会】飯野芳彦・増田和美・大金義昭 「農と食」守る地域の活動「積小為大」で自給率向上(1)2019年10月29日
【出席者】飯野芳彦JA全青協元会長、増田和美生活クラブ生協・東京理事長、大金義昭氏
ことは私たちの生命(いのち)に関わる食べ物の問題である。世界の先進諸国のなかで最低水準の37%という食料自給率を、生産者は、そして消費者はどうとらえているのか。生産に責任を持つJAの若手担い手組織、JA全青協の元会長・飯野芳彦氏、生産者やJAとの交流・提携による産直を活動の基本に据える生活クラブ生協・東京の理事長・増田和美氏に、進行役の文芸アナリスト・大金義昭氏が加わり、3人で意見交換した。
自分だけでなく地域全体で考えて
左から増田さん、飯野さん、大金さん
大金 食料自給率が37%にまで下がり、この国の「食と農」の将来に大きな危機感を抱いています。生産者と消費者の立場から、それぞれのお考えを聞かせていただく前に、先ずはご自身の来歴などを簡単にお話しいただけませんか。
飯野 埼玉県の川越市で畑作中心に3haの農業をやっています。一昨年、全国のJA青年部盟友5万7000人の代表として会長をさせていただきました。青年部活動を通じて、徹底したディスカッションをもとに、協同組合が原則とする一人一票のボトムアップの組織づくりに努めてきました。ボトムアップは時間がかかるという欠点はありますが、そのことは十分認識して、自助・共助・公助の順番で、協同の原理・原則に基づき、JAとともに、まず地域から県域、全国域へと範囲を広げ、地域と地域のコミュニティを維持するには何をすればいいのかを考え、活動してきました。
青年部の活動の中では、「食と農」の大切さを知ってもらう食農教育を大きな項目として掲げています。子どもや地域住民を対象にした農業体験や地産地消などの活動を行ってきました。またポリシーブックにおいても教育現場において学習指導要領等に「農業体験」の採用を目指し全青協として日々活動しています。
私たち農業者のめざすところは、日本農業をよくすることです。これは自分だけよければいいというものではなく、地域全体の問題です。したがって、ディスカッションを積み重ね、地域から全国へ、「食と農」について議論できるようにしたいと思っています。
大金 この国では、基幹となる農業従事者の大半が65歳以上の高齢者です。したがって、農業の将来はJA青年組織に結集する盟友の皆さんの双肩にかかっているといっても過言ではありません。日々の農業に励みながら、JA運動の一翼を担って頑張ってきた飯野さんたちの活動なしに、食料自給率の向上など、とても考えられないと私はかねてから大きな期待を寄せています。
食生活を大切に考える生協では、子育て世代の女性を中心に、早くから食品の安全性を意識した共同購入運動や教育活動、環境問題への取り組みなどに力を注いできましたが、増田さんが生協の活動に飛び込んだきっかけや生活クラブ生協・東京の取り組みなどをお聞かせいただけますか。
◇「教育」でなく「共育」 当事者意識をもって
増田 私たちの生活クラブ生協・東京では「教育」でなく「共育」(ともいく)と呼んでいます。教える人と教えられる人とがいるのではなく、実践を通じてお互いが共に学び合おうというものです。それまで私は、一般的に「安全」といわれる食品が本当に安全かという疑問を持っていましたが、共同購入を地域に広げたい、という知人の思いに共感して生活クラブ生協に加入し、生協の卵と豚肉とスーパーの品物の違いを実感し、活動に参加するようになりました。
それから四半世紀、26年を迎えました。現在、生活クラブ生協・東京は東京都を中心に9万人近い組合員を組織しています。かつて班単位の配送でしたが、いまは自宅への個別配送に変わりました。「デポー」という配送センター機能を兼ねた店舗があり、地域の活動の拠点になっています。かつての班は最低4人から始まりますが、こうした小さなグループの積み上げをもとに、組合員のつながりが広がった組織です。そのころは組合員の顔がよく見えていましたが、個配になって人間関係が疎遠になり、自分のことは自分でという雰囲気が強まりました。
飯野 人と人とがふれあう機会が少なくなったことは、農村のコミュニティも同じです。組合員も組合員意識より顧客意識が強くなっています。協同意識の新しいありかたが必要になっています。私たちは何のために協同しているのか、そこのところをしっかり押さえる必要があります。JA青年部として「協同」の新しいありかたの議論をつみかさねなくてはならないかもしれません。
大金 既存の地域コミュニティには、人びとの暮らしを丸ごと呑み込み、人と人との濃密な関係を培ってきた長い歴史があります。しかし今では、混住化や暮らしの多様化が進み、農村においても人間関係が疎遠になっている。その意味では、目的意識を持った小さなグループが共通の課題を解決するために活動するといった形がこれからは増えていくのではないか。だから農村でも都市でも、人為的で運動的な協同組織が力を発揮しています。例えばそのなかで、食の問題に早くから取り組んできたのが生協だったのではないですかね。
飯野 かつてのコミュニティは、みんなの不便をコミュニティの力によって便利にするために成り立っていたけれど、今のように世の中が便利になって、お金さえ出せばその不便が解消されるようになると、その必要性が小さくなった。そうなると私たちは時代の変化を的確にとらえ、協同組合のあり方や新しい組織をどのようにつくり出すかが、JA青年部としての役割だと考えています。
大金 今は、人と人とのつながりやコミュニティへの関わりを避ける傾向がありますからね。
増田 生活クラブ生協・東京ではコミュニティへの参加を勧めています。日ごろから地域でつながり、いざという時の助けあいにつながると思っています。
飯野 農業人口の減少に並行し、JA青年部の盟友は年々減っています。問題は若い人が新たに加入しないことです。一方、メリットがあれば入るのかと言うとそうでもない。そう考えると、足りないのは、どんな組織にもいえることですが、組織への帰属意識ではないか。生活が便利になり、一人でもお金を稼ぎ、生活していけないことはない。しかし、それだけでいいのか。農業でいえば、地域全体の農地を一人で維持することは、むずかしいです。ため池や水路の維持管理、草刈り等まだまだ協同のはたす役割を大きいと思います。地域と取りまくさまざまなリスクを回避するためには、地域全体でリスクを分担しなければならないけれど、帰属意識の低い若い人たちとの話し合いがなかなかできないという現状があります。
そうした人に、コミュニティや組織に参加するメリットだけを提供すると、次のメリットを必要とします。ですから組織全体で議論に巻きこみ帰属意識を高める事が大切です。
大金 JA女性組織などでも確かに「メリットは何か」と、よく話題になりますね。組織への加入を勧めると「メリットがあるのか」と尋ねられる。組織は本来、一人では解決が難しい問題や課題を解決するために生まれ、存在しているのですが。
飯野 地域のコミュニティに関わりたくない人は、JAともあまり関係したくないと思っています。地域のコミュニティが何のために存続してきたのかということへの理解がありません。
大金 地域の伝統的なコミュニティには、個人の自由な発想や行動を著しく制約してきた歴史があり、その手かせや足かせと折り合いをつけなければ生きてこられなかった長い時代ありますが、都市の生活者の中で生まれた生協は、組合員が何で結びつき、活動に参加して組織を維持するモチベーションはいったい何なのでしょうか。
増田 都会では、暮らしの中でコミュニティを実感することはあまりありませんよね。生協は、必要性を感じた人たちが自主的に参加する「手あげ方式」の組織なのです。
大金 なるほどね。かつて協同組合の支援で出かけたタイ王国でも、信用事業でお金を借りたい人たちが手を上げて組合員になっていました。JA青年・女性組織も「手あげ方式」ですが、JAの場合は事実上、地域で農業を営む人びとの網羅的な組織としてスタートした経緯があります。
飯野 しかし、その後は組合員にとって事業利用の選択肢が増えたということもあり、たとえば農産物の出荷の時だけはJAの経済事業を利用し、信用・共済については銀行や保険会社を利用するとか、その逆の発想や行動などが組合員の中に生まれています。
(写真)上から増田和美生活クラブ生協・東京理事長、飯野芳彦JA全青協元会長、大金義昭 文芸アナリスト
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