JAの活動:女性に見放されたJAに未来はない JA全国女性大会
現地レポート:JA愛知東女性部 心豊かに暮らしていこう2020年1月29日
仲間と共に拠点づくり
JA女性部のさまざまな活動が今、地域で暮らしていくための大切な柱となっている。JA愛知東では助け合い組織や朝市活動などが地域に欠かせない存在だ。「自分たちで問題意識を持ち、どんどん進んでいく女性たち」(JA愛知東・海野文貴代表理事組合長)と、その自発的なパワーが活気を生み出している。駒澤大学の姉歯曉教授と現地を訪ねた。
左から和田たづ子女性部長、伊藤愛子・つくしんぼうの会副代表、姉歯教授、伊藤美代子さん
◆つくしんぼうの会
JA愛知東の助け合い組織「つくしんぼうの会」は平成10年にホームヘルパー資格を取得した女性たちが高齢者支援活動をしようと結成した。活動は家事援助、ミニデイサービスから始まり、弁当づくり、農産物加工事業にまで広がっている。
代表の荻野孝子さんから会結成の話を持ちかけられた副代表の伊藤愛子さんは最初は「自分たちにできるのか...」ととまどったという。
ただ、原点となったホームヘルパー資格は、仕事というより家族ためであり、いずれは自分もサービスを受けることだってある、と考えた。つまり、「つくしんぼうの会」は人々の暮らしの支援活動を、結局は自分たちに関わることだと捉えたことからスタートしたのである。荻野さんの考えは「やればできる」。会員で地域内を徹底的に歩いて自分たちの活動についての思いを伝えた。仲間も利用者もこうして広がっていったのだという。
弁当づくりや農産加工も地域から頼りにされている主要な事業になったが、これらはミニデイサービスから始まった。最初は市販の弁当を利用してデイサービスをしていたが、食べ残しが多いので「これはもったない」と利用者に寄り添った弁当を自分たちでつくろうと始めた。
あるいは利用者である高齢者から、自分の畑には収穫ができなくなった果樹や野菜などあると聞くと、これも「もったいない精神」で引き取り、ジャムやドレッシングなどに加工した。こうして誕生した加工品はいくつもある。つまり、この会は地域の人々が困っていることを解決すること通じて、多くの人が喜ぶ活動に広げてきた歩みだといえる。
JAはそれを支援し遊休施設を「つくしんぼうルーム」として提供。弁当や加工品づくり、ミニデイサービスなどが軌道に乗った。
現在の女性部長の和田たづ子さんは、この会のメンバーに10年以上前になった。自ら予防介護の資格を取得した後、JAを通じて地域活動ができないかと相談に行ったところ、会を紹介されて加わった。和田さんは非農家で、それまでJAとも女性部とも関わりはなかった。それが今ではJA女性部長としてリーダーシップを発揮しているのである。同じく伊藤さんも非農家だがJA理事を務めている。
(写真:海野文貴組合長)
海野文貴組合長は「JAの組織活動を非農家が盛り上げることは考えていませんでした」と話す。それはJAや女性部が地域の人々の暮らしになくてはならない存在であることの表れでもあろう。和田部長は「そこに行けば仲間がいる。仲間がいれば地域とつながりができる」と話す。
◆やなマルシェ
加藤久美子さんは、平成29年4月に朝市からスタートした「やなマルシェ」の代表を務める。活動のきっかけは八名地区のAコープ店が閉店されると聞いたこと。高齢化と子どもの減少に地域の将来を案じていた加藤さんら八名地区の女性部員5人は危機感を募らせた。
「Aコープはみんなの拠りどころ」、「賑わいが途切れないよう何とかせにゃ」と話し合うなか、軒下を借りて朝市を開くことを思いつく。出すものは野菜に限らず家庭にある不用品でもいい「何でも朝市」を呼びかけた。3月末の閉店から2週間後に開催、その後、ここを「JAプラザやな」と呼ぶ「やなマルシェ」の活動がスタートした。
「やなマルシェ」の代表、加藤久美子さん
朝市への出荷者には対面販売するよう求めた。棚に商品を並べ、閉店したAコープの代替をしようというのではない。地域のみんなが集まって楽しく過ごせる場づくりが目的だ。朝市は毎週土曜日の午前。5人だった仲間が29名となり、フレミズ世代も6名が活動するようになった。
訪れる人のなかには、買い物せずに話にくるだけの人も。そのうち椅子を持ち寄ったり、「寒いね」と誰かがストーブを持ってきたり。そんな活動が積み重なり、1年近くが過ぎたころ「店内も使えるといいね」と相談するとJAは活動のために提供、広いスペースで1年目の感謝祭を開いたことをきっかけにテーブルなどを持ち寄り地域の人々が集まる拠点として再生した。
さらにゆっくり過ごせる地域食堂という目標を実現するため、昨年4月にはJAが水道、ガスや厨房を整備した。地域のために遊休施設を有効活用してくれているとの考えからだ。
Aコープ閉店後、JAは地域住民のために移動購買車を導入することは決めていたが施設の扱いについては未定だった。そこに加藤さんたちの活動が起きる。「地域で独自に活動が始まり、どんどん進んでいく。予想外のことでJAとして心強い」と海野組合長は話す。今では朝市のほか、弁当づくりやうどんの販売、喫茶、フリーマーケットなど新しいメンバーも加わってそれぞれが得意な分野で力を発揮している。
この活動は地域に店舗が必要なのではなく、人々の居場所が必要なのだと教えている。地元の中学校が総合学習の時間で「やなマルシェ」の活性化をテーマにレイアウトや弁当などのアイデアを考案したという。子どもたちもどんな場所にしたいか関心を持つようになっている。
「ここは未完成だからいいんです。地域の課題を解決するために自分たちでずっと試行錯誤を続けていけばいいと思っています」と加藤さんは話す。
つくしんぼうルームでの調理の様子
◇ ◇ ◇
◆川上に住む誇り
姉歯曉 駒澤大学経済学部教授
JA愛知東は山間地のJAで、正組合員8000人、准組合員6500人の組織である。正組合員は管内の世帯の約6割を占める。天竜川、豊川、天作川の3本の一級河川が上流の豊かな栄養を海まで運ぶ。下流の住民や自然のことを考えながら水を管理するのが上流にいる自分たちの責任であると2018年12月まで14年間にわたり組合長を務めた河合勝正・現JA愛知東会長、そして2019年1月に就任した海野文貴組合長は口を揃える。
同JAは「自主、自立、互助」を掲げ、地域と組合員が真に望むこと、必要としていることを洗い出し、事業として包摂していく取り組みを続けている。「JAの理念を押し付けることはしないが、みんなで同じ基本理念を共有していきたい。それは豊かさについての価値観だ」と河合会長は言う。
◆自分ごととして
このJA愛知東が取り組んでいる活動の中でも、特に全国的に有名な活動が、JA女性部の力強い活動である。その中心にあるのが助け合い組織「つくしんぼうの会」である。発足から23年を経て、今ではデイサービス、地元の食材を豊富に使った手作り弁当、市民病院内のボランティアや商品開発など、多彩な地域活動の中核を形成している。
多岐にわたるこの活動は一本の明確な軸で貫かれている。それは、代表の荻野さんや副代表の伊藤愛子さんの言葉を借りれば「いずれは自分が世話になるのだから」つまり、すべては「他人事」ではなく「自分ごと」で考えることだという。
◆地域の拠点づくり
(写真:河合勝正会長)
今回、閉店したAコープを借り受けて地域の拠点作りを行っている「やなマルシェ」の代表、加藤久美子さんの活動も見せていただいた。加藤さんは地元のパン屋さんに集まって地域の心配事を話し合っていた女性部の仲間5人で、地域自治区制度導入に伴って設立された新城市の地域協議会に加わった。地域協議会では、自分たちが漠然と感じていた少子高齢化の現状を数字という形で突きつけられ、自分たちが住むこの地域の将来を考えざるを得なくなったと言う。
加藤さんは閉店したAコープの店舗を借り受け、最初は軒先で朝市を開催、そのうち、店舗内部を全面的に活用して様々な活動を展開している。そこでもJAは全面的に支援を行なっている。今や、「やなマルシェ」は地域住民が持ち寄った不用品や手作り品の交換、講習会やイベントなど、年齢を超えた住民同士の交流の場として重要な位置を占めている。加藤さんと仲間たちの頭の中ではさらにたくさんの「やってみよう」が出番を待っているようだ。
JA愛知東では、こうした自発的な活動を全面的に支援してきた。「JA愛知東では、職員は現場の集まりにできるだけ顔を出し、現場に寄り添いながら要望を実現できるよう共に考えていこうと考えています。JAが事業を計画して参加者を募集する、いわゆる『この指とまれ』方式ではなく、地域に根ざした自主的な活動を見守り、支援する、それが私たちの仕事です」と海野組合長は言う。
しかも、こうした女性たちの活動は、一方的にJAの援助を得て行われているのではない。女性たちは企画を立て、収支や効果を示しながら支援を得るのである。両者にあるのは、活動主体が自主的に取り組み、JAができるだけ支援を行うと言う関係性の確認であり、共に「JAの経営母体が揺らげば地域のインフラが揺らぐ」という現実の共有である。
身の丈を知り、そこから逸脱させないことで継続的な取り組みを可能にすること、それがこのJA愛知東の取り組みの斬新なところでもある。新しいことを始めようとして多額の資金を投入して新しい施設を建設するのではなく、JAが抱える遊休施設を有効活用しながら活動にあった設備を少しづつ無理のない範囲で計画的に更新し、または加えていくというやり方は、遊休施設を抱えるJAと、JAの施設が地域の大切なインフラ生活の一部である地域住民と、そして何かを始めようと動き出す市民たちにとって経済的価値を超えた利益をもたらす。
このような女性たちの活動とJA愛知東の関わり方から教えられるものはとても多い。入れ物の新しさではなく活動を受け止め持続させるための入れ物こそ重要なのだと言う考え方、そしてJAも活動主体もお互いのことを認め合うという姿勢である。
◆内発的発展の姿
暮らしの中から自ら気づき、それが本当に地域住民にとっても必要なものなのかを自らに問い、勉強会や議論を通じて検証していく組合員たちの姿勢、そして組織の力を活用してこうした活動を支えるJA愛知東の姿はまさに内発的発展の好例である。(内発的発展とは、地域外から企業や有名ホテルを呼び込むといった方法ではなく、地域の住民が自ら決定権を持ち、自分たちで地域をどうしていくのかを考え、行動することで経済成長優先ではない多様な「発展」を志向すること)
JA愛知東の実践は、農協が今「改革」で何を取り戻すべきかを教えてくれる。それはJA愛知東が宣言するように、「人々の暮らし、命を守る」活動であり、「本当に必要な事業を洗い出す」ことであり、そのために組合員の一人一人に寄り添うことができるJAの体制づくりである。
信用業務が攻撃の対象となり、JAの経営基盤の中心を占めていた金融業務切り離しの危機に直面して、JAは一方でそのような信用事業や販売事業に覆い隠されていた協同組合としての性格が見直されるにあたり、今まさにJAの協同組合としての本来の姿である「助け合い」がクローズアップされていることは、農協つぶしを進めたい勢力からすれば不本意な結果かもしれない。しかし、それこそは、今、JAが協同組合の真の姿を再び、組合員はもちろん地域住民に示すことができる好機でもあることをJA愛知東の事例は教えてくれる。
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