JAの活動:JA新時代を我らの手で JA全国青年大会
【提言】黒田栄継 青年農業者の手で農業新時代を2020年2月10日
情熱とは「熱き青年の心」黒田栄継・JA全青協元会長
JA全青協は2月18日、19日の2日間、東京都内で第66回JA全国青年大会を拓く。JAcomは大会に合わせた特集号として「持続可能な世界を拓く JA新時代を我らの手で」を企画、そのなかで全国の青年部盟友に向け元JA全青協会長の黒田栄継氏に提言していただいた。黒田氏は「情熱とは『熱き青年の心』と書く。青年農業者の熱き思いこそが、未来を支えるという使命を果たす『農業新時代』への扉を開くのだ」と青年農業者の奮起を呼び掛けた。
黒田栄継氏
◆生きることは食べること
いつの時代も日本の農業は「変革」を迫られてきた。戦後の食糧難を解消するための急激な増産体制の確立にはじまり、食の多様化に対応するための望まぬ減反政策受け入れ、そして押し寄せる国際競争の荒波などなど。次から次へと変化する外部環境に翻弄されながら、農業者は、それでも国民の生命と健康に貢献すべく、さらに大きな壁とも言える、自然という名の驚異に立ち向かい、大地を踏みしめてきたのだ。
だがこの間、少しも変わらないものが一つだけある。人間にとっての「食の価値」だ。どれだけの月日が流れようとも、それだけは普遍である。生きるということは、食べるということと同義なのだ。
人間は食べなければ生きてはいけない、この宿命を一身に背負っているのが一次産業であり、一次産業の安定こそ国民の幸福の根底を支える土台に他ならない。現にある国のリーダーの中には、「十分な食料を生産できない自国の姿など考えられない」と農業者を鼓舞しながら、農産物の輸出を推し進めている。
我が国においても、食の重要性は多くの国民が理解しているはずだ。その時代その時代の農業政策を考えてきた人も、当然真剣にこのことを考えてきたのだと思いたい。
しかし、経済の成長こそ、豊かな国民生活につながるといった価値観が横行する現代、人が人らしく豊かに生き続けるための社会のあるべき姿が、さほど重要視されなくなっている。誰しも、貧しい生活は望まない。お金だってないよりはあった方がうれしいに決まっている。それは理解する。だが国は、農協改革においても、経済性の改革や取り組みに重点を置き、農村維持に貢献してきた役割や、社会の本質である「支えあう」やさしさを育んできた実績を、評価しなかった。
その結果はどうだったのであろうか。
◆本質先送りの「対策」
食料自給率が37%に下がり、耕作放棄地の増加は止まらない。根拠のあいまいな農産品の輸出目標は達成されず、人口が減り野菜自体の全体的な需要は落ち込んでいるにもかかわらず、輸入野菜は増え続けている。何一つと言っていいほど、日本の「食」にとって「農業」にとって、改善の方向に向かっているものがないように思えてならない。効率化の名のもとに、すべてを形作ることが、本当の明るい未来につながるわけではないのだ。経済の豊かさと並行して、「心の豊かさ」を併せ持つことができなければ、真の意味で持続可能な社会は訪れない。
この事実を、我々はどう受け止めなければならないのか、そして、どう未来を描いていけばいいのか、まさに岐路に立たされていると感じるのは私だけではないはずだ。
「賢者は歴史に学び、凡人は経験に学ぶ」という言葉がある。うまくいかなかった現実を真摯に受け止め、反省し、課題の本質を見極めたうえで、それに必要な対応が用意され、ようやく成功につながる未来を手に入れることができる。目まぐるしく変わる環境に、場当たり的に対応しているだけでは、本質的な解決は決して見いだせない。
それを如実に表している一番の例が、「対策」と名の付く政策があまりにも多いことだ。災害対応などは別として、一時的には「対策」でもいいだろうが、読んで字のごとく、目の前の課題に対する応急処置的な意味合いのものが多く、本質的な課題の解決を先送りにしてしまう。
◆農業は国民幸福の根底
今必要なのは、前述したように、一次産業の安定こそ国民の幸福の根底を支える土台に他ならないという本質をとらえ、いかにして実現させるかということ。わかりやすく言い換えれば、「持続可能な農業」を確立するということに尽きる。
SDGsに象徴される、持続可能な社会の構築は、今や世界的な風潮であり、各国がそれぞれの立場で、何らかの責任を果たさなければならない。先進国と位置付けられる我が国において、農業という分野でも果たすべき役割について早急に見直すことが必要なのだと思う。増え続ける世界の人口を考えるとき、日本がこのまま、食糧の輸入を増やし続けることが、はたしてあるべき姿であるのか、国民全体で考え直す時期にきているのだ。
農村を維持し、食を維持するのは簡単なことではない。さらに言えば、増え続ける社会保障費を、少しでも互いの支えあいの中で減らしていくことも、個人の負担の増大につながるのかもしれない。それでも、今、持続可能な社会に向けた取り組みを始めなければ、いつかこの国は、この世界は破綻してしまうのである。これが、今を生きる我々が直面している課題の本質なのである。
日本の農業は、本来、世界的に見ても有数の持続可能なシステムを誇る。豊かな土と水の恩恵を最大限に生かした水田を中心とした農業は、持続性という意味においては、他を寄せ付けないほどの技術である。欧米のような大規模化には適さないため、非効率とのそしりを受けることが少なくないが、毎年同じところに同じものを育て続けることができるという一点のみに注目しても、計り知れない優位性を持っているのである。
「いまさら欧米化した日本の食生活をかつてのようなコメ中心の食生活に戻すのは難しい」、「そもそも自給率を上げること自体にそれほどの意味はない」-。言い訳を言っている暇はない。目標を掲げたのであれば、それに向かって懸命に汗を流す、石にかじりついてでも前進し続ける。どれほどの人がこれまで貫いてきたのであろうか。待ったなしの現実を、政府が、国民が、そして生産者一人一人が再認識することから始めなければならない。そのうえで、持続可能な社会の構築に向けた着実な前進を実現させていかなくてはならないのだ。
◆未来への使命を果たす
これまでもうまくいっていたわけではない歴史を思うと、決して平たんな道のりではない。だが、だからこそ、その先頭を切って、声がかれるまで叫び続け、困難に立ち向かいながら、多くの国民を導き、歩みを進めていくのは、やはり農協青年部であってほしいと思う。
農村の現場において、日本の食卓を守るため、うそ偽りのない農産物を生産し、さらには自らの地域の課題と真剣に向き合い、政策を提言し続ける青年部の声と行動こそが、国民の心を動かすことができるのである。
今の青年部の強みは、なんといっても、その責任感にあると思う。ポリシーブックの取り組みを始めたころから、誰かに何かを依頼するだけではなく、自らの行動を自らに強制する強さを併せ持つ組織に進化するべく、取り組んできた。その真摯な姿勢が、組織自体の存在価値を高め、自らの声に力を宿してきたのだ。
国民全体の意識を変えるのは、生半可なことではない。時にはうまくいかずに心が折れてしまうこともあるだろう。だが、決してあきらめないでほしい。自らの存在意義とこれまでの取り組みを信じて、情熱をもって前進し続けてほしい。
自らが動き、仲間とともに力を合わせ、国民の幸福につながる食の安定供給を実現する。自らが声を上げ、国民とともに食の、そして農業の価値を共有する食農教育を推進する。自らが関わり、農協を運営することにより、互いに支えあう理念を未来につなげていく。農村に生き、命と向き合い続けてきた者だからこそ知る幸福の本質を、次代へ紡いでいくのは、農業青年の使命なのだ。
その情熱の込められた本気の声は、行動は、必ず国民に届くはずであり、国を動かす力になると確信している。情熱とは「熱き青年の心」と書く。青年農業者の熱き思いこそが、未来を支えるという使命を果たす「農業新時代」への扉を開くのだ。
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