JAの活動:JA新時代を我らの手で JA全国青年大会
現地レポート 熊本県・前本勝氏 地域とJA 我らが拓く(1)2020年2月18日
消費者理解を広げる情報発信し青年の力結集
熊本県農協青壮年部協議会委員長前本勝さん
地域農業の担い手として期待される青年農業者は、試行錯誤をしながらも、仲間とともに挑戦し、地域を元気にし雇用を生み出し、JAへの結集力を高めている。今回は熊本県と島根県の県JA青年組織の代表を現地に訪ねたが、共通して強調したのは消費者へ食と農への理解を広める活動だ。全国への広がりが期待される。島根県の草野拓志会長は次回掲載予定。
妻の典子さんとともに
熊本県農協青壮年部協議会の盟友は3001人。前本勝さん(49)は委員長として盟友たちをリードしてきた。もともとはJAに反発があったが、「自分の目で見て確かめて、どう感じるか」と青年部活動へ。JA役職員とディスカッションし、JA側にももっと現場へ、もっと情報発信を、と働きかけてきた。青年農業者として消費者に向け当たり前のようにある食べ物の大切さをさらに訴えていくことが必要だと強調する。
江戸時代から干拓が始まった菊池川下流域の玉名市。前本さんはこの干拓地の農家の三代目になる。父の時代から地域で施設園芸が盛んになり、スイカ、かぼちゃ、メロンなどからスタートした。
高校卒業後は国の農業試験場が開設していた研修コースに入り、野菜、果樹などの栽培を2年間学んだ。その後、農薬メーカーに就職、営業マンとして九州全域を回る生活へ。自宅にあまり戻れないような多忙な営業マンの日々を続けるなか、ときに生産者宅に上がり込んでお茶を飲みながら話を聞くと、農家の姿に「ゆとりがあるな」と感じた。忙しく苦労の多い農業というイメージはなく、退社して親の農業を手伝うことした。
「ストレスもなく、一日があっという間に過ぎた、と感じたことを覚えています」と、21歳のときに親元就農する。当時、すでにミニトマト栽培に専念していた。その後、地域のなかで離農するという農家からハウスを譲り受ける機会があり、自分で手直しして、親のミニトマト栽培も手伝いながら、大玉トマトの栽培を始めたのが自らの経営の一歩となった。
干拓地のため塩害もあるが、それが一部の苗からは高糖度トマトを生んだ。それを選別し道の駅などで直売もした。
干拓地に広がるハウス
31歳で経営を継承。現在はミニトマトを80アール、水稲を2ha。これまでに台風でマルチは剥がれ苗も飛び、何とか傾いた骨組みだけ守ったという経験もしたが、今は台風に強い施設。ハウス内の温度や炭酸ガス量などをスマホでモニタリングし、ハウスの開閉や灌水を指示できる最新の設備を導入している。
湿度や気温など、栽培中のデータを蓄積することで病害との関連を把握して、次年度の栽培に反映させることも可能になってきた。また、積算温度から出荷量の予測もできるため、JAも集出荷センターにあらかじめ伝えておくこともできるようになった。かつて単収は10アール8トンだったが、現在は17トンを超えるという。
妻と実弟、外国人実習生、パートの計8人で経営している。
ハウス内の温度やCO2量がスマホに表示
◇ ◇
ミニトマトを専業にして規模拡大してきたのはJAの施設を利用すれば選別作業が不要となり、4人いる子どもや家族と向き合える時間ができると考えたからだという。営業マン時代に九州各地で見たゆとりある農家の暮らしだ。
栽培技術や経営のヒントなどはJAの青年部に参加して先輩や仲間たちの話から得られた。情報収集にも役立てている。
ただ、前本さんは「もともとはJAに反発していた」という。周囲にもJAを評価しない農家もいたが、違ったのは「自分の目で見て確かめて、どう感じるかを知ろう」と考えてJA青年部に入ったことだ。
JAの事業について説明を受け疑問をぶつけ議論するうちに、農家がまとまって利用していくことから生まれる産地としての強みや、逆にJA側がメリットをもっと発信していく必要性なども感じるようになった。
「農政の方向が競争を強調するから、地域のなかでも個人プレーでという風潮もある。まとまればもっとJAはよくなるということを若い世代に理解してもらう。自分はパイプ役にならなければと思っています」。地元JAたまなの青壮年部は240人。親元就農やUターンが多い。「先輩や同級生の元気な姿をみれば、自分も農業やるか、となる。この地域は可能性を秘めていると思います」と強調する。JAの将来にとっても地域の農家の3割を占める今の青年層の結集力をどう生み出すかが大事で職員と一緒になってJAの役割を発信していく必要があるという。
◇ ◇
経営の高度化の一方で地域の農地活用も課題になっている。
水稲はもとは80アールほどだった。それが2haまでになったのは高齢化にともなって周囲から作業委託が増えてきたからだ。水稲は集落営農に委託するかたちをとっている。JAは業務用の多収米や輸出米の生産に力を入れており、前本さんの集落も多収米の生産の拡大に取り組んでいて、周囲から委託された水田では多収品種を作付けしている。
販売先は輸出向けのほか国内では外食産業向けにJAが契約している。つまり、前本さんのように農地管理を委託されて規模拡大しながら、施設園芸との複合経営を図っていくには、JAや地域の農業戦略が欠かせないということだ。
そうした取り組みのなかで今後の新たな品目も検討していきたいという。たとえば水稲の後作としてブロッコリーなどの野菜や、あるいは畜産も盛んなことから子実用トウモロコシなどの栽培も考えている。
その一方でJAや青年組織として取り組まなければならないのは「消費者理解をどう進めるか」。たとえば、働き方改革が叫ばれ効率的な働き方が強調されても、作物を育てる自然相手の農業ではそう簡単なことではない。こうした流れは農業への理解をかえって遠ざけてしまいかねず、食べ物の大切さや生命産業としての農業についてより強く発信する必要が出てきていると前本さんは危機感を持つ。農産品の輸送も人手不足で厳しくなっているのは自分たち農業者は肌で感じているが、消費者は食べ物が当たり前のように並んでいることは当たり前だと感じているのではないか、という。
地元のJAでは食農教育などで農業に対するファンづくりなどに力を入れているが、それとは別に大消費地の消費者に理解を広める運動が今こそ必要ではないかという。農産物価格が低迷し玉名など条件のいいところで厳しくなれば、中山間地域の農業はもっと厳しくなるはずだ。そうした産地の現状を「ひとつひとつ発信していくしかない」と力を込める。
JA青年組織に関わることによって、農業者としての自分の経営にとっても仲間でできたことは大きな励みになる。そして、何よりも農業への社会の理解を広げ、同時に農業の現場を次世代に引き継ぐためにも青年組織の役割はいっそう重要になると前本さんは考えている。
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