JAの活動:負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして
長崎大学熱帯医学研究所 山本太郎教授 人間の歴史と感染症(下)【負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして】2020年6月22日
講義中の山本教授
◆感染症の出現
農耕定住社会への本格的移行は、文明を育む一方で、私たち人類に多くの試練をもたらすことになった。その一つが感染症である。
定住は、鉤虫症や回虫症といった寄生虫疾患を増加させた。鉤虫症は、糞便から排泄された虫卵が土の中で孵化、成長し、皮膚から感染することによって起こる。回虫症は、便から排泄された虫卵を経口摂取することによって起こる。増加した人口が排泄する糞便は、居住地周囲に集積される。それによって、寄生虫疾患は、感染環を確立することに成功し、糞便を肥料として再利用することによって、それはより強固なものとなった。
野生動物の家畜化は、動物に起源を持つウイルス感染症をヒト社会に持ち込んだ。天然痘はウシ、麻疹はイヌ、インフルエンザは水禽、百日咳はブタあるいはイヌに起源を持つと考えられている。いうまでもないことだが、これらの動物は、群居性の動物で、ヒトが家畜化する以前からユーラシア大陸の広大な草原で群れをなして暮らしていた。
ヒトから家畜に感染した病原体もある。たとえば、ウシ型結核菌は、ヒト型結核菌にその起源を持つ。遺伝子解析からは、ウシ型結核菌は、三万数千年前にヒト型結核菌から分岐したことが示唆される。
家畜に起源を持つ病原体は、増加した人口という格好の土壌を得て、ヒト社会へ定着していった。専門的な言葉で言えば、病原体にとって、新たな生態学的地位が出現したということになる。
以上まとめると、以下のようになる。
農耕の開始は食糧増産と定住をもたらした。食糧増産と定住は人口増加をもたらし、これが新たな感染症の流行に格好の土壌を提供した。一方、野生動物の家畜化は、耕作面積の拡大などを通して食糧増産に寄与した。同時に、本来野生動物を宿主としていた病原体は、ヒトという新たな宿主(生態学的地位)を得た。病原体は、新たな生態学的地位を得て、その多様性を一気に増加させた。
◆新興感染症と生態系破壊
農耕・家畜の開始とともに質的に、それまでと異なる規模で起こった新たな感染症の出現は、20世紀後半に入って、さらにその質と量を変えた。過去半世紀ほどの間に出現したウイルス性新興感染症としては、エボラ出血熱やエイズ、ウエストナイル熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ、中東呼吸器症候群(MERS)、ジカ熱などがある。そして、2019年、中国武漢を発生源として新型コロナウイルス感染症が出現した。そうしたウイルスは、例外なく、野生動物を自然宿主とする。
なぜか。
現在、私たち人間の活動結果として、二酸化炭素の排出が増加し、それが地球温暖化の原因となっている。温暖化した地球は、南極や北極の氷河の氷を溶かし、あるいは熱帯雨林の自然発火多発などを通して、地球環境を脅かし、生態系を破壊する。また人間は、開発を通して生態系への無秩序な進出を果たす。結果、野生動物は徐々にその住処を失い、それがウイルスと宿主の調和を乱す。自然の調和を乱されたウイルスが新たな宿主を求める。その結果が、多くの新たなウイルスの発生だとすれば、あるいはそれが、この数十年間に頻繁に見られた現象だったとすれば、それは逆に、新たな感染症の出現頻度を抑制するためには、何が必要かということを私たちに教えてくれる。
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