JAの活動:負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして
JA全農 桑田義文代表理事専務 使命果たす事業に誇りを【負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして】2020年7月10日
消費者に安定的に食料を供給する役割の一端を担っているJAグループはコロナ禍でどう使命を果たしたか。JA全農の桑田義文専務はJAグループのマンパワーとインフラで使命を発揮できたと語る。消費者のニーズの変化を見据えた今後の全農の事業展望について聞いた。
◆食の供給責任 全力で果たす
―新型コロナウイルス感染症拡大のなか、JA全農はどのように対応しましたか。
感染の広がりによって世の中は大混乱し、今までに経験したことのない自粛や在宅ワークを強いられることとなりました。そのなかで消費者に食料を供給するという大きな仕事の一端を担っているJAグループが、期待されている仕事をきちんとすることができたかどうかを考える必要があります。私は完全に近いかたちで機能を発揮することができたと思っています。
外国人労働者の入国遅れで収穫できずに畑に放置されてしまった野菜、学校給食がなくなったことによる小松菜の廃棄といった残念なことが一部にありましたが、JAが各地に持っている選果場や一次加工場、全農のグループの施設もフル稼働して、実需者への供給責任を果たすことができました。これは誇らしいことと思います。
とくに生乳については海外では大量に廃棄されましたが、日本では学校給食向けの牛乳供給がストップするなか、ホクレンをはじめとする全国の指定団体と全農酪農部、乳業メーカー各社が協力して既存の需給調整の仕組みのなかで脱脂粉乳やバターなどへの加工を進め、1トンの生乳廃棄も発生しませんでした。
今回のコロナ禍のなかJAグループのマンパワーとインフラ、既存の仕組み機能がして、食の供給面で大きな役割を果たせたと考えています。
◆苦境のなかで新たな発見
―需要減で苦境に陥った産地のため消費拡大策にはどのように取り組みましたか。
感染拡大で和牛の需要が大きく落ち込みました。このままでは冷凍・冷蔵倉庫が一杯になってしまい、と畜が停止して農家が牛を出荷できなくなる懸念がありました。これを何としても回避しなければならないため、まずは消費拡大に取り組みました。
そこで頼りになったのがJAタウンです。これをフル活用して消費拡大に取り組みました。一般消費者に対する売り上げは4月以降、3~4倍へと飛躍的に伸びています。現在もJAグループ3連で財源措置した送料無料の産地直送企画や、新鮮野菜の詰め合わせ販売などを実施しています。こうした取り組みで和牛をはじめ野菜、果樹などの消費喚起策に取り組んできました。
この取り組みを始めていろいろな発見がありました。とくに野菜の詰め合わせ品に対する消費者の評価が非常に高い。鮮度がよく、こんなにおいしいとは思いませんでした、といった感想が多く寄せられています。こういう新たな提供の仕方があるという発見です。苦しむなかでもいろいろ工夫をしてバリエーションが出てきているということです。
◆変化は二階建て構造
―コロナ禍の収束は見通せませんが、今後の社会の変化についてはどのように考えますか。
まずは新型コロナ感染拡大以前から存在していたベースとなる変化を押さえておく必要があります。それは人口減少であり、少数世帯の増加、共働きの増加など、間違いなく大きくゆっくりと進行する変化です。
これを1階部分とすると、その上に新型コロナ感染拡大でどう変化するのかという2階建て構造で変化を考えるべきだと思っています。
まだ結論は出ていませんが、2階部分のこの変化は急激だと思います。
新型コロナ感染症の農業分野への影響は生産から流通、消費まであらゆるところに出ています。
とくに生産面で問題になったのは外国人への過度な労働力依存であり、最初に指摘したように人手不足となって収穫ができなかったこともあったということです。それから業務用野菜の過度な輸入品への依存です。武漢で感染爆発したとき、剥き玉ネギが日本に入ってこなくなったということがありました。つまり、安ければいい、あるいは剥いてあるから便利だということから業務用野菜の多くは輸入品だったということです。しかし、それが止まった。また、ロシアなどが穀物の輸出を規制しました。
要するに外国頼み、あるいは外国人頼みということに、結局、大きな警鐘が鳴らされたのだと思います。グローバリズムは内向きには規制緩和であり、外向きには自由貿易である。これを進めてきたわけですが、グローバリズム一辺倒だと、こうしたことが急激に起こるとひずみが生じるいうことがよく分かったということではないでしょうか。
流通と消費の面での影響は3つの変化に注目しています。1つは生協さんの宅配が非常に伸びていることに見て取れる、宅配やECの拡大です。巣ごもりを強いられたわけですから、自宅に届けてほしいというニーズです。JAタウンもこうした変化を捉える必要があるということです。
2つ目は保存性のある食品へのニーズです。パスタやカップ麺、冷凍食品が山ほど売れたといったことです。3つ目は非接触というニーズです。人が触ったものは買いたくないということから、包装された商品が好まれました、環境問題の視点からすればまったく真逆なのですが。
この3つがクローズアップされたと思っています。これらのニーズはこれまでも存在していましたが、コロナ禍をきっかけに一気に加速し、これからも進んでいくと捉えていますし、全農もそれに対応しなければならないと考えています。
ただ、こうした変化はまだ答えが定まっていない変化ですし、複線化、複雑化することとなりそうです。そんな変化への対応においては、協業することが大切だと考えています。一人でやろうとしないことです。生協さんとの協同組合間連携をはじめ、それ以外にもいろいろな業態のみなさんと協業することです。最適な事業上のパートナーを求めて正しい対応をしていきたいと考えています。
◆生産基盤の強化へ
―国民の間には食料自給の大切さや農村への関心が高まったという変化もあると思います。
構造的な問題として、外国頼みではとんでもないことになるということが今回はクローズアップされたと思います。われわれも国や消費者と一緒になって、少し大上段に物事を考えていく必要があります。本当に自給率はこのままでいいのかということです。今はカロリーベースで4割も自給できない、今回のことがきっかけになって、国の政策もわれわれの事業も消費者も、運動として展開していければいいと考えています。
―具体的には業務用・加工用での国産への切り替えも求められます。
生産原価だけの比較をすればどこまでいっても日本のほうが高いわけですが、単に安いという理由だけで輸入が増えているかというと、それがすべてではないわけです。日本は北から南に細長い国ですから産地は次々に移っていきますが、出荷がない時期があると、そこでは輸入が使われてしまう。
それでもできれば国産にしたいというニーズはあって、われわれも大手コンビニさんと協議して、たとえば業務用のブロッコリーを栽培して一定期間は国産に切り替えるということもできています。産地リレーの期間をいかに長くするかとか、われわれが新しい商品を提案し続けるといったことを通じて、輸入を国産に切り替えるのは不可能ではないと思っています。
―農産物輸出はどんな状況ですか。
コロナ感染拡大によって、一言でいえば牛肉は輸出が止まってしまいました。その理由は明解で牛肉は売り先がレストランだったからです。海外はロックダウンしましたから欧米を中心に牛肉輸出は完全に止まってしまいました。
しかし、悪いことばかりではなくて、アメリカでは牛肉のネット販売が倍々ゲームで伸びています。ですからそこにも力を注いでいかないといけないということです。
また日本と同じで巣ごもり需要のあった香港などでは、スーパーマーケット等でいろいろな青果物、米を買うという動きになりました。したがって、青果物と米は伸びたということです。ただ、日本の農畜産物は輸出を中心に捉えるべきではありません。日本の生産者は日本の国民、消費者に食べてもらいたいという気持ちで生産されていると思うし、そうあるべきだと思います。国内向けがしっかりと生産され、一方で海外から日本の農産物がほしいというニーズにどう応えていけばいいのかということになると思います。
◆協同組合の原点でJA支援
―JA支援事業も最重点事項のひとつとなっています。この事業の意義を聞かせてください。
JAは信用、共済事業も厳しい状況にあるのは事実ですし、経済事業も課題が多いわけです。JAも全農もどこか足らざる部分があるのだと思います。われわれは協同組合ですから、お互いが補完するということだと思います。足らざるものがお互いに補完をして足りたものになるということです。
JAは生産者に利用いただいて初めて価値がある組織であり、経済連や全農県本部はJAに利用いただいて初めて価値が出るということです。
JA支援ではいろいろなメニューを提案していますが、JA、あるいは生産者の利用を呼び起こす運動でなければいけないと私は思っています。単純にJAの経済事業のここが赤字だから改善しましょう、ということではなく、JA、連合会を利用することで生産者の経営もよくなり、JAの経営もよくなったということにならなければなりません。
ですからJA支援という取り組みとは、原点に立ち戻って協同組合の利用の運動なんだと私は捉えています。だから私たちもファイトが湧く。JAにもそのように捉えていただけたらと考えています。
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