JAの活動:負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして
中村純誠JA全厚連 理事長 コロナ禍でのJAの役割と使命を考える【負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして】2020年7月11日
地域の保健・医療・高齢者福祉に責任
新型コロナウイルス感染の拡大で、最も厳しい対応を迫られたのは病院および医療関係者であった。JA厚生連の病院も、公的医療機関の一つとしてコロナ対策の最前線で奮闘し、それはいまも続いている。JA全厚連の中村純誠代表理事理事長に〝コロナ禍〟への対応および協同組合組織として、地域において厚生連病院が果たしている役割について聞いた。
コロナ防止に粉骨砕身
◆医療機関の使命完遂
―新型コロナウイルス感染症の拡大をどのようにとらえていますか。
厚生事業は、1919(大正8)年にはじまり、地域のニーズに応じ、ここまで事業を拡大してきました。今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、経営面でも、また医師をはじめとする医療スタッフにとっても、100年の歴史の中で最大の困難に直面したと言えます。公的医療機関である厚生連の105病院のうち33病院が感染症指定医療機関となっており、医療スタッフの方々の懸命な対応によって、その使命を果たしております。
今回のコロナ禍では35病院で300人以上の感染者を受け入れ、帰国者・接触者外来については66病院が設置しています。PCR検査も7300件以上実施し、地域の中核病院として必要な役割を発揮してきました。半面、経営面では厳しい状況に追い込まれています。この4、5月の2か月で164億円のマイナス収支となっており、病院経営にとって痛手です。
厚生連病院は地域に不可欠な医療機関です。医療崩壊が起こると地域が崩壊してしまいます。病院を維持するため、政府に再三支援を要請しています。コロナ感染者を受け入れると、どうしても一般患者の外来・入院が減り経営が苦しくなります。第2次補正予算で国からの助成・支援を受けていますが、まだ不足している状況であるため、これからも強力に政府へ要請してまいります。
―コロナ感染者を受け入れた当初は大変だったと聞きますが。
特に資材不足が深刻な状況でした。医療スタッフによっては防護服の代わりにゴミ袋を使っていたくらいです。しかも、来院者が感染しているかどうか分からないので院内の動線を別にしなければならず、緊急性を要する患者を優先するトリアージも大変な状況でした。
―地方に多い厚生連病院は、コロナ禍への対応でどのような特徴がありますか。
厚生連は同じ公的医療機関である日赤や済生会と比べて病院数が多く、全国で105病院ありますが、その多くは地方にあり、人口減少と高齢化の影響を大きく受けます。
地域の医療に大きな役割を果たしているにもかかわらず、コロナ感染者を受け入れた病院ほど、一般の患者が減り、それによって経営が困難になっているのが現状です。これは国内の多くの病院に共通していますが、特に地方に多くの病院を持つ厚生連は深刻です。コロナ禍で、やるべきことを懸命にやるほど一般患者が減り、経営が厳しくなる。こんな理不尽なことはありません。第二次補正予算で、手当などさまざまな支援をいただくことになりますが、これからも積極的な支援をお願いしたい。日赤、済生会の病院もおかれた状況は同じなので共同で要請してまいります。
◆病院経営確立に全力
―病院経営の厳しさの原因はどこにありますか。
診療報酬改定の影響が大きいです。近年の改定により、病院の利益率が下がっています。病院は、医療の質を高めるため施設の建て替えや医療機器の整備などに大きな投資が必要ですが、その負担を埋めるためには、いまの診療報酬では厳しく、これからの投資計画を立てるのも難しいのが現状です。
患者の減少のほか、なんといっても当面する最大の課題は医師不足です。地方の病院に医師が来ないというのは病院にとっては致命的です。他の病院も構造的には同じですが、医師不足については厚生連病院が一番厳しい状況にあります。
―厚労省は、非効率だとして全国の病院の統廃合を打ち出していますが...。
厚労省が公開した検討対象病院一覧は一定時期の部分的なデータに基づいたもので十分に実態を反映しているとは言えない部分もありますが、現在のまま存続することは難しい医療機関もあると考えています。将来、地域の病院のあり様についても見直しの必要があると思います。
厚生連病院の多くは、地域で唯一の病院となっており、救急診療等を担う基幹病院でもありますが、人口の減少は、医療のみならず全ての事業において抗し切れない課題であり、今後、各地域で適切な医療体制の検討がなされるなかで、一定のダウンサイジングは避けられないと考えています。
しかしながら、農山村地域といった地理的状況によって、医療の質が低下するようなことはあってはなりません。厚生連病院は、医療機関の再編がなされるなかでも、中核的な病院として、組合員や地域住民に必要な医療を提供し、地域医療を守るという大変重要な役割を有しています。
―地域で医療体制を維持するため、具体的にはどのような対応が必要ですか。
例えば大規模な総合病院と同じエリアにある小さい病院は診療所に転換し、総合病院と連携することが考えられます。これを厚生連病院だけでなく、他の医療機関とも連携を取りながら進めていくことも必要になると考えています。
―厚生連は高齢者福祉、保健事業も展開していますが、その特徴は。
健康管理活動においては、病気にならないための健康づくりが大切ですが、それはJAのくらしの活動と密接につながっています。特に長野県の佐久総合病院ではじまった取り組みが全国の厚生連病院に広がっています。JAグループ全体で生活、健康、医療、高齢者福祉など一気通貫で事業展開することが重要です。JAグループは協同組合の理念をもって、組合員のみならず地域全体の医療・健康を包括的に支えています。そして、厚生事業はこれらの取り組みを地道に100年もやってきたのです。
◆JAの活動と連携して
―地域に不可欠な存在ということですね。JAとはどのような関係性が必要でしょうか。
JA改革においては農家の所得を向上することが1丁目1番地です。そして健康は所得を向上するための具備条件です。医療事業や健康管理活動は、JAのなかでもっと取り組まれてもよい活動だと思います。国は病院の統廃合を唱えていますが、健康診断や健康相談など、JAは数字に出ない活動を行っています。それをみないで非効率だというほど医療は単純なものではないと思います。
私たちは組合員・地域住民の健康を守り、安全・安心に暮らせるようにするため、質の高い医療を提供し続ける努力が必要です。それを組合員やJAに理解してもらうための取り組みも大切です。幸いなことに、コロナ禍では、手作りのマスクの提供など、さまざまな形で組合員やJAグループの支援をいただいております。そうした助けあいの関係ができていることが素晴らしく、組合員や医療関係者にとっても、改めて協同組合の意義を感じる機会になったと思います。
―中長期の事業計画で重点的に取り組むことは。
なんといっても厚生連の経営の健全性確保です。昨年度、厚生事業審議会を設置し、厚生連を取り巻く経営環境の変化に対応した本会の機能強化と組織のあり方等について審議いただきました。答申においては、各厚生連の経営状況を分析し、早期に収支を改善する必要がある厚生連について、経営健全化策を本会の経営管理委員会で協議し、本会会長名で該当厚生連に提言できる仕組みとし、今年度から運用していく予定です。
また、病院経営の要はいかに医師を確保できるかにかかっています。幸い厚生連病院には地元の大学の医局から多くの医師を派遣してもらっています。地域医療へ目を向ける若い医師が増えることを期待しています。
―今後の厚生事業の展望についてお聞かせください。
医療行政は厚労省が主務官庁ですが、JAグループである厚生連は農水省が監督省庁です。JAの枠組みの事業なので、JAグループが一体となって事業を進めていく必要があります。JAの事業が相互補完しながら、総合性を考えて厚生連事業を維持することが最大のメリットになることをグループのなかで位置付け、徹底していただきたいと思います。
そのためには、JAの各事業と横の連携を強化する必要があります。JAの事業の柱の一つとして、他事業と相互補完しながら、総合事業としてのメリットを追求していくことが大切になると思います。医療と他の事業の連携は難しい面もありますが、人の命と生活に関わるという点で、共済事業と医療事業は親密性のある事業です。今後共済事業等との具体的な連携についても検討してまいります。
最後に、新型コロナウイルス感染症はまだ収束の兆しが見えない状況ではありますが、私たち厚生連グループは、地域医療を守るため一丸となってこの難局に立ち向かっていく所存ですので、厚生事業への引き続きのご理解、ご支援を賜りますようよろしくお願いいたします。
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