JAの活動:負けるな! コロナ禍 今始まる! 持続可能な社会をめざして
横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授 田代洋一 組合員の安全守り必死に対面活動【「新型コロナJA緊急アンケート」を読む】2020年7月20日
本紙が全国のJAを対象に実施した「新型コロナウイルス感染症に関するJA緊急アンケート」の結果をどうみるか。横浜国立大学名誉教授の田代洋一氏にコメントしてもらった。同氏は「新型コロナウイルス感染症は、有効なワクチンが開発され集団免疫を獲得するまでは収束しない。緊急事態宣言を経た今日、その経験を総括し、次のステップに活かしていくことが喫緊の課題。アンケート調査は時の要請に応えるものだ」と評価する。
集計は6月末までの中間集計と最終集計の2次にわたり行われたが、1次と2次で回答分布に大差はない。ということは、JAの経験がかなり正確に反映されていると見ることができる。アンケートは複数回答や自由記入欄や記述式の回答も多い。数字も大切だが、記述回答も重要だ。以下ではポイントを紹介しつつ、コメントする。
大切なアフターケア
コロナは「人と人との結合」という協同組合の根幹を直撃した。外出自粛や三密回避のなかでJAと組合員はどう動いたか。
JAにとって最も重要な意見反映、意思決定の場としての総会・集落座談会・部会等は、書面議決が4分の3を占め、延期・中止も5割になった。延期・中止が多いのは、集落座談会、事業懇談会、地区別懇談会、支部総会、生産部会、地区別総代協議等であり、青年・女性組織、各種セミナー等は延期・中止が9割を超えた。
以上は、第1にJAがあくまで組合員の安全第一を考えて運営したことを示す。第2に組合員・基礎組織からの意見反映が例年に比べ不十分になった。「組合員が営農・生活で最も困っていること」の問いに対して、「農協の情報が入らない」が4割もあった。第3に、とくに階層別や地区別の会合が開けなかった。これらに対するアフターケアを強化することが大切だ。広報活動にも一層力を入れる必要がある。
農産物価格が低迷
組合員が最も困っていることは、「消費減退で農産物が売れず、価格低迷している」が5割、「自粛で農協の施設(冠婚葬祭、各種イベント)が利用できない」と、先の「農協の情報が入らない」が各4割、「雇用労働力が確保できない」が3割弱だった。組合員にとって、JAは、とくに販路確保、生活インフラ、情報の3点で不可欠の存在であることが確認される。
作目別にみた影響について、<問題点を指摘したJA数/調査参加JA数>の割合でみたのが表1である。繁殖・肥育牛の問題点(価格下落など)を指摘した農協が最多、次いで花き(イベント縮小など)、さらに酪農(需要減少など)、露地野菜(外食・業務用・加工の減少)となる。
留意すべきは、第1にJAの立地条件によって影響を受ける作目が異なり、単純な比較はできない。第2に各JAがとった対策の記述が重要だ。第3に例えば稲作は割合が低いが、これから出来秋に向けて価格などに影響が出てくる。農作物は長期的な影響に注意する必要がある。
施設等は通常を維持
支所支店・集出荷施設等の運営については、「従来通り」の農協が3/4、営業時間短縮が3割で、閉店・休業等は8%にとどまる。組合員との事業面での接点である拠点型施設のオープンはほぼ確保された。直売所は様々な工夫を凝らしてオープンし続けた。コロナ危機のなか、地域にとって直売所が生活インフラであり、安心安全の確保の場であることが確認された。
広報誌も「従来通り」に職員が持参したのが6割で、郵送に全面切り替えたのは8%と少ない。ここでも組合員との接点を保つ努力がなされた。
頑張った対面事業
回答JAで、前年同期に対して事業高・回数が減った農協数を見たのが表2である。
本店・支店への来客数や、営農指導・TAC・LA等の「出向く回数が減った」JAは各4分の3にのぼった。しかし、例えば本支店への来客数の減少は1割以下が多く、窓口は確保されたといえる。この点は本店・支店を分けて聴くべきだった。
介護・デイケアの利用者数は、3分の2のJAが「減った」が、ここでも10%以下の減少が3割と多かった。
対面事業や出向く体制は意外に頑張った。減りはしたが、減り方は少なかった。しかし共済推進等は「訪問回数を減らした」が5割、新規契約数・契約高は7割のJAが減らした。とくに共済は、人と人との対面での信頼関係に基づくことが改めて確認された。
頼りになる直売所
同じく表2で、まず事業量の変化をみると、4分の3のJAで減らしている。なかには事業量が増えた農協もあり、増えた部門としては、直売所、移動販売、直売、共済、貯金、貸出、Aコープ店、グリーンセンターなど、要する生活インフラ関連である。貯金・貸出の項目を立てなかったのは残念だ。
直売所の販売額は、減ったJAが5割弱にのぼるが、減少幅を2割以内に抑えているJAが3分の1を占める。冠婚葬祭事業額は84%のJAで減り、旅行事業の利用者に至っては9割のJAが減っている。減額割合も大きい。他方で、「葬儀が大幅に簡素化され、今後もこれでよいのではないかといった声をよく耳にする」というコメントもあった。コロナの一時的な影響か、それとも、これを契機に人々の暮らし方が変わっていくのか、見極めが必要である。
デジタル化と直販で
コロナ禍の長期化への備えでは、7割のJAが「組織・事業のあり方、仕組み、進め方を見直す」、3分1が「プロパー資金等、組合員への資金面に支援体制を確立する必要」を挙げている。
先に組合員への影響では資金繰り、運転資金の問題は2割以下にとどまった。しかし影響が長期化するなかで、資金繰りが厳しくなる。困った時に役立つ地域金融機関、セーフティーネットの役割は、これからの農協がめざすべき一つの方向であり、JAバンクシステム全体で取り組む課題である。
組織・事業のあり方では、オンライン化・デジタル化が主流だ。しかし実際のデジタル化の取り組みについては、「必要と思うが今は考えていない」43%、「検討を始めたばかりで、これから取り組む」36%、「具体的に取り組み始めている」17%で、「ほぼ達成」は0%。JAのウイーク面が直撃された。
業務面で思い切ってオンライン化を図りつつ、そこで浮いたマンパワーを高齢農家などオンライン弱者への対面活動に注力する。これが「地域に根ざした協同組合」としてのJAが進む方向だろう。
農産物の需要変化に対しては、「国内消費拡大のため、安全・安心な農産物を生産」が8割、「直接販売・直売所販売・ネット販売等の強化」が5割、「安定した輸出先、販売先の確保」は2割以下だった。
オンライン化と対面強化の両面追求、内需重視というJAの進路がはっきりした。
政府・農政への要望は、「適時適切な情報発信」、「経済活動とバランスの取れた感染症対策」、自給率向上、休業補償の明確化などである。今の国に最も必要なのは、「国民の信頼を得る」ことである。それが無ければ思い切ったことはできない。
安全安心の提供を
コロナから得た教訓、農協の役割については、5割強のJAが考えを寄せている。まとめれば、海外に依存しきった生活スタイルからの脱却、余暇や在宅を楽しむ生活への商品サービス、内食が増えたことに対応した安全・安心な食材の提供、就農希望者の定住促進、安心を提供する存在へ、である。
他方で「今後、どのような問題に直面するか分からない段階で、教訓を得るのは時期尚早」という指摘もあった。もっともな意見だが、その都度の確認も大切だ。とにかく流されないこと。
地域・未来にアンテナ
コロナ危機のなかで、JAは組合員・地域住民の安全を守りつつ、必死に窓口を開け続け、対面活動の継続をはかってきた。そのことを通じてJAのポジションと進路が再確認された。すなわちJAは、危機に直面した地域にとって、欠けがえのないセーフティーネットであり、ポイントは販路、生活インフラ、情報の3点だ。
農協の進路もはっきりした。内需志向、安心安全な国内農産物志向に応える、困っている人々の資金需要に応えられる地域金融機関化を図る、それらのためには業務のオンライン化・デジタル化を果敢に果たしつつ、「人と人との結合」を強めることだ。
残る課題は二つ。第1に、今回のアンケートに回答を寄せられたJA、今回は見送ったJAともに、アンケートに映し出された仲間の姿をみつめ、今後を考える手掛かりにして欲しい。とくに記述部分にはヒントがたくさん詰まっている。
第2に、今回のアンケートは、JAがコロナ危機をどうみるかであった。しかしもっと大切なのは組合員、地域住民がライフスタイル変えつつ、JAに対してどんな注文、期待を寄せるかだ。地域と未來にどれだけ鋭いアンテナを張れるかがJAの勝負である。
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