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JAの活動:ウィズコロナ 命と暮らしと地域を守る農業新時代への挑戦

日本一の農事組合法人「となん」の挑戦(下)小林光浩JA十和田おいらせ理事2020年8月5日

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体験農園でのイベント風景体験農園でのイベント風景

スケールメリットを生む

こうした水田・畑作等の土地利用型農業は、「広域(大型)集落営農組織による作業毎集積による経営効率化」を進めたことで、農業所得増のスケールメリットを生み出した。それは、熊谷会長によると、「平成28年度実績では、収入額約12億円(農産物販売高6.4憶円と交付金等6.1億円)、交付金が1農家平均額で60万円以上(10a当り6万円以上)になっている」と言う。この内容は、作業ごと集積で経営コストを削減したこと。最大限の補助金を確保したこと。集落営農組織が肥料・農薬等の農業資材を集落単位にまとめて発注・配送で購買品の物流改革を実現したことで、(1)量発注による大幅な価格引き下げ、(2)農協からの肥料・農薬大口奨励金を確保したこと。付加価値を付けた商品開発と、有利販売で収入を確保したこと等である。

さらには、集落営農組織に委託した個人の小規模な農家は、水田農業経営を委託することで生み出された余剰労働力を、野菜や花き・施設園芸等の高所得型農業に専念、直売所での地産地消の農産物生産販売に専念できることも、大きな経済的メリットである。

盛岡地域営農センター盛岡地域営農センター

労働提供のルール化

2006年、最初に広域集落営農組織を作る時、農家1,000戸を対象とした「10年後の農業」のアンケート調査を実施した。その結果、「10年後に自分は農業をしている」と回答したのは、わずかに180戸の農家。残りの8割以上の農家は、「10年後は農業をやっていられない」と回答した。そこで、「10a当り3万円欲しい人は集落営農に加入してください」と座談会で伝え続け、約9割の農家が加入したのである。

しかし、これからは、受け手だけでの農地管理は難しくなるという。それは、ますます高齢化が進むことで労力不足(水管理・農道管理等)が懸念されるからである。

熊谷会長は、「都市型の集落営農では、出し手の教育・協力が必要だ」という。都市化農家は、近くに農業以外の働く場があるため、農外所得を得ている者が多い。そんな出し手の農家は、集落営農に対する関心が低い。そのため、受け手農家の労力不足(水管理・農道管理等)対策として、出し手農家に対して労働提供を求めている。都市型農業では、「農地管理料を負担しなければ成り立たない」ことを理解してもらうことが必要で、水管理・農道管理等に対する出し手農家の労働提供のルール化を実現した。

農協直売所・農協レストラン農協直売所・農協レストラン

高所得農業の産地化へ

水田・畑作等の農業土地利用型農業は、集落営農組織で、生み出された余剰労働力を生かすこと、つまりは「労働集約型の高所得農業の産地化」の確立が重要である。その取り組みを進めるのは、広域合併農協の生産部会による「市場流通の産地化」である。

岩手中央農協では、盛岡地域営農センター(都南地域)の野菜生産部会194人、リンゴ生産部会289人、西洋梨生産部会39人、ブルーベリー生産部会35人、花き生産部会35人等、多様な品目別の生産部会活動による産地化が進められいる。野菜販売額4.2億円、果実4.6億円等の合計約9.6億円(2019年度実績)である。こうして、集落営農組織による余剰労働力は、農協による「市場流通の産地化」と結びついた。

ちなみに、水稲生産部会は750人で、米の販売額6.8億円ある。

「農事組合法人となん」の事務所「農事組合法人となん」の事務所

小農家・高齢者が活躍

そして集落・地域・農村には、9割の出し手農家が活躍する場づくりが重要である。

その答えは、「農事組合法人となん」や「湯沢農業生産組合」「産直店サン・フレッシュ都南」「盛岡食材加工協同組合」等で活躍している高齢農業者等の明るい笑顔で元気な姿を見ることで分かる。こうした出し手農家の高齢者等が活躍する場の一つは、地産地消の産地化を進める農協の「産直店サン・フレッシュ都南」である。この販売額は8億7216万円(2018年度)。その中で、生産者会員408人による販売額は3億8035万円。会員1人当たりの販売額は93万円となる。こうして、集落営農組織による余剰労働力は、農協直売所による「地産地消の産地化」と結びついた。

盛岡食材加工センター

カット野菜工場施設や炊飯施設、消費者サイズへのパッキング施設は、莫大な設置費用と運営費用がかかる、とともに商品の開発・販売(売り先の発掘・営業活動)が求められるので、個人農家での付加価値化は難しい。そこで、地元の湯沢集落に「盛岡食材加工センター」を協同組合(理事長熊谷健一)として設立した。

この「盛岡食材加工センター」は、1995年、国の補助事業「フードシステム高度化対策事業」を活用し、総事業費2.5億円をかけて設置した。この事業主体の「盛岡食材加工協同組合」は、出資者であり事業構成員が、農協、全農、湯沢農業生産組合、外食産業の株式会社、商社による異業者の協同組合である。

地場食材の加工利用の流れは、(1)食材の野菜や米の生産・提供は構成員である農事組合法人と農協が行う、(2)製造は食材加工センターの炊飯ラインと野菜カットラインが行う、(3)消費者サイズや業務用のパッキングは食材加工センターで行う、(4)販売・注文は構成員の農協や外食産業の株式会社・商社が行う、(5)配送は3台の保冷車がホテル・病院・社員食堂等へ行うという。大きな販売先は、学校給食と寿司「清次郎」だと言う。

広域合併農協の役割

集落営農組織にとっての広域合併農協の役割は大きい。この役割とは、(1)集落の協同組合活動を支援・強化すること、(2)協同組合活動を強化するための最大限のサポートをすること、(3)助け合いのネットワーク力を高めることである。

支援策は、様々な取り組みを求められるのであろう。その中で5つ上げるとすれば、(1)農家手取り増の営農生産指導と有利販売、(2)集落営農組織・農協の協同組合活動目標・あるべき方向を示す、(3)資金・資本支援、(4)人的支援、(5)共同施設支援であろう。

熊谷氏は「売ることを徹底しない農協には、組合員は寄ってこない」が持論である。これまで、全国10都道府県を職員と一緒に歩いて販売営業活動した。その基本は、(1)こだわりの農産物生産、(2)農協自らが営業、(3)有利販売を実現するために行動することだと言う。1993年からの「特別栽培米」の取り組み、2003年からの「特別栽培リンゴ」の取り組み実践が、そのことを実証している。

集落営農組織と農協

今回学んだ「日本一の農事組合法人となん」の取り組みは、集落営農組織が「営農と暮らしを守る協同組合活動」を進め、その活動を岩手中央農協が「総合事業による支援」することで、協同組合力とネットワーク力を最大限に発揮しようとしている姿であった。

こうした集落営農組織と広域合併農協の取り組みは、新時代における地域農業のあり方、地域・農村のあり方、農協のあり方を示す先行実例である。

全国の広域合併農協や集落営農組織は、こうした取り組みに学んで、自分達の地域に合ったやり方を見つけ出し、実践することである。つまりは、地域・農村毎の多種・多様な取り組みが求められるとともに、多面的・総合的な協同組合活動が求められる。

そして、全国連は、全国的な協同組合ネットワーク力を高める取り組みをしなければならない。また、国・地方行政は、こうした集落中心の協同組合活動と連携・支援していくことが求められる。

今回のコロナ禍の教訓は、「一極集中から地方分散の時代への転換」の必要性・重要性を提起した。そこで、求められる地方の時代、農村の時代に向けての農協のあり方は、営農と暮らしを守る協同組合活動を集落営農組織で実現し、農協が集落営農組織への支援と総合産地化(市場流通と地産地消の産地化)・有利販売・生活インフラの総合サービスを強化する協同組合力・ネットワーク力を最大限に発揮することである。

その実現は、先ず、「農事組合法人となん」と「岩手中央農協」の取り組みから学び、真似することから始めよう。そして、自分達の集落営農組織と広域合併農協、さらには全国の目指す姿・あるべき姿を具体的に描いて実践することで確立しよう、と言いたい。

日本一の農事組合法人「となん」の挑戦(上)

日本一の農事組合法人「となん」の挑戦(中)

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