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JAの活動:ウィズコロナ 命と暮らしと地域を守る農業新時代への挑戦

【インタビュー】FMCケミカルズ 平井康弘社長 機動力発揮し農業活性化へ【ウィズコロナ 命と暮らしと地域を守る農業新時代への挑戦】2020年8月7日

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新型コロナウイルス感染の拡大のなかでも食料生産をとめることはできない。安定した農業生産を支えるための農薬など生産資材の供給も同様であり、また、ウィズコロナの時代をみすえた新たなテクノロジーも期待される。農業新時代にどう臨むか。エフエムシーケミカルズ(株)の平井康弘代表取締社長に聞いた。

平井康弘代表取締社長平井康弘代表取締社長

第二の創業期

--コロナ禍のような大きな社会的変動では、企業の寄って立つ理念や目指しているものが「誰のために」「どんな世界のために」と問い直しを迫られているように思います。改めて御社事業の紹介と企業理念などをお聞かせください。

FMCは旧米国デュポンが有していた農薬事業の主要な部分を3年前に取得する幸運に恵まれました。これは主要な農薬製品だけでなく研究開発能力そのものを丸ごと取得したということです。「丸ごと」とは、新規化合物のパイプラインだけでなく、研究開発を行っている研究者といった人はもちろん、組織、研究施設まで含めてすべてという意味です。

FMCには今、デュポンから引き継いだ化合物のライブラリーが180万以上、年間スクリーニングする化合物が6万以上あります。そのなかで日本ではパートナーのみなさまのおかげでジアミド系水稲箱粒剤市場で50%以上のシェアを持つに至っておりますし、多くの新剤が眠っているパイプラインのなかには、日本に役立つ期待の大型新剤もあり、将来世に出るのを待っています。

一方、FMCは140年近い歴史を持つ会社で、変革を重ね、強みはマーケティングや、アジリティと言っていますが機動力、変化に対応できるしなやかさを持っていることです。

このようにデュポンから引き継いだイノベーションエンジンとFMCが持つ機動力、マーケティング力を合わせることでまったく新しいFMCに生まれ変わりました。「第2の創業」とも言え、日本だけでなく世界の農業が変革期を迎えているなか、とても大きな可能性を秘めた会社です。

多様な人材を重視

私たちは6つのコアバリューを持って事業を展開しています。それは(1)インテグリティー(誠実さ)(2)セーフティー(安全)、(3)サステナビリティ(持続可能性)、(4)アジリティ(機動力)、(5)リスペクトフォーピープル(他者への思いやり)、(6)カスタマーセントリシティ(顧客志向)です。このうちもっとも大切にしているのが先ほども触れた「アジリティ」です。もちろん、お客様や安全、環境が大事なのは当然ですが、変化する世の中に対応できる「機動力」を持っていることが大きな強みです。

また、これ以外に重視しているのが「ダイバーシティ(多様性)」です。画一的な考え方で集まっていると変化の時代、みんなで同じ間違いを犯しかねません。考え方の違いや出自の違いをむしろ歓迎しており、業界内外を問わず、まったく違う考え方をする優秀な方々にどんどん合流していただきながら新しい多様な会社づくりを進めています。

そのなかでもっと魅力ある会社になっていくにはどうすればよいかを考え、取り組みを始めたのがプラントヘルス事業です。FMCは日本のなかでも数少ない原体メーカーですが、農薬だけではなく私たちの強みをもっと活かせないかと考えたときに、世界でベストセラーとなっている高付加価値肥料を日本でも広めようということで昨年から取り組みを始めました。私たちは創薬能力には自信があり今後も継続していきますが、一方、気候変動で植物が日照りや寒さといった強いストレスを受けている現実があります。少しでも植物に活力が与えられるものをということで取り組みを始めたわけですが、これもアジリティの一例で失敗を恐れないということでもあります。

情報発信に力入れる

--さて、今回のコロナ禍で事業の現場で浮き彫りになった課題はありますか?

私どもはメーカーですからグローバルのサプライを維持することが非常に大きなチャレンジでした。世界中が「ステイホーム」になりましたが、世界中の工場を止めるわけにはいきません。我々の社内でエッセンシャルワーカーと呼ぶ工場で働く方々の支えでそうした状況下でも生産を継続できました。おかげで大きな混乱もなく製品を届けることができました。

もう1つ大きな課題は事業展開です。「巣ごもり」ですからお客様の所へは行けません。そこでどうすればお客様と効果的にお話できるか、どうやってお客様に情報を届けるかということに本当に悩みました。どこも同じでしょうが、私たちも「デジタル」の力を借りて頑張りました。

ホームページも重要で、まずは突貫工事で内容を拡充し、プロの情報をしっかり届けることにしました。殺虫剤に強い会社ですので、薬剤の抵抗性管理の情報などをいち早く揃えています。それからリモートでも製品説明会ができるようなコンテンツを整えてそれを活用していただくようにしています。

「見える化」で社内結束

--社員のみなさんの働き方も大きく変わったと思いますがどうでしょう?

今回のコロナ禍は社内の結束をむしろ強めました。ソーシャルディスタンスは2024年まで続くというハーバード大の発表や、WHOの事務局長はこの影響は数十年続くと先日指摘しましたが、テレワークや新しい働き方は緊急避難的、一時的な話としてではなく今後ずっと考えていかなければならない問題としてとらえないと将来大きな差がでてくるのではと思います。

そのなかで分かったのは「相互の信頼関係」がテレワークの基本プラットフォームであるということと、「コミュニケーション」の大切さです。この2つが非常に重要だと思っています。そのうえで振り返ってみると業務の「みえる化」がむしろ進んだと感じています。具体的には目標の明確化、アウトプットの明確化、プロセスの管理が求められ、ここは嘘をつけませんから逆にチームや社員が強くなったと感じています。

未来志向でニーズに対応

--日本の農業の現状と課題、特にコロナで明らかになった今後の日本の農業の方向についてはどのようにお考えですか。

コロナ前から持っていた日本農業の課題があると思います。生産者には生産の課題だけではなく、バリューチェーンからの要求、消費者、環境からの要求、あるいは規制などにも応えていかなければなりませんし、それが年々複雑多岐にわたるようになっています。そこに当然、産地間や輸入との競争、自然災害との闘いといった課題もありますから、生産者は本当に大変だと思います。

そこにコロナ禍となり、とくに外食向けに食料を生産されている方々は本当に大変だと思います。ただ、耐えているだけではだめでどうやって新しいことを始められるかが大事だと思っています。コロナの先にどういう消費者ニーズがあり、社会がどういうふうに変わっていくかを考えて夢を描いてそこに向かっていく。「元に戻る」の発想ではなく、「未来の姿」に向けて挑戦していくことが大事だと思います。

「食料」は人間にとって必要不可欠なものですし、日本の農産物は安心安全で非常に求められているものですから、そこは明るい要素だと思います。そういう意味では今、輸入農産物をもっと国産に切り替えるいいチャンスかもしれないですね。今外食は厳しいですが、「内食」「中食」ではこれからいろいろなチャンスが出てくるかもしれませんし、やはり「健康ニーズ」にもチャンスがあると思います。

そしてコロナで人は動けませんが、「地元回帰」「地産地消」のニーズも今以上に出てくるのではないでしょうか。高付加価値の農産物でそうしたニーズをいかに満たしていけるか、そこに可能性があるように思います。

農家が抱える課題はコロナ前は「複雑に多岐にわたる」でしたが、これからは「複雑で多岐にわたり、かつ未来志向のニーズに対応できるか」となり、そのなかで「テクノロジーが果たす役割」はますます大きくなると思います。

パートナーシップ重視

--そのテクノロジーという点から、今後の日本の農業へどう貢献しようとお考えでしょうか。

私たちはアグロサイエンス企業ですから、当然、科学技術を通じて日本の農業に貢献していくことが大事です。その意味では私どもには世界トップクラスの創薬能力がありますが、それだけではなくて、一番大切なのは「パートナーシップ=協業」だと考えています。とくにコロナにおいては「力を合わせる」ことが非常に大切で、食のバリューチェーンにはいろいろな強みを持った方がたくさん存在すると思います。自分一人ではできなかったことも、違う強みを持たれている方と一緒に手を組むことでいろいろな可能性が出てくる。これから予期しない環境の変化にも対応できる新しいサービス、新しい価値を提案していけると思います。

その意味では今まで以上に協業、パートナーシップが必要だと痛感しており、失敗を恐れずさまざまなことにリスクをとって挑戦できればと思います。

JAは地域社会そのもの

--JAやJAグループに期待することをお聞かせ願えませんか。

今回は農協組織のおかげで、コロナ禍のなかでも安心安全な農産物をいただくことができたと心から感謝しなければならないと思っております。協同組合は世界中にありますが、日本の総合農協は、経済だけでなく金融や共済も扱う「世界でも類を見ない」組織で、生産者をあらゆる面でサポートできるというだけでなく、消費者にとっても、今回のような事態のなかで食料供給を考えるとなくてはならない、頼りになるものです。農業は経済原則だけでは語れない側面がありますが、今回はその面の重要性が広く再認識されました。

私は農協は地域社会そのものではないかと思っています。とくにコロナ禍では、力を合わせないと食料は作れないし流通もできない。「ともに支え、ともに生きる」という農協の精神が今ほど求められている時はないと思います。

たとえば、今回観光業が打撃を受けるなか、一方で人手不足となった農業現場にJAが人をマッチングさせていますが、まさにJAは地域社会のインフラそのものだということを表わす好事例だと思います。地元の力を再集結する、ネットワークを活かすことに農業のチャンスがあり、コロナ克服のチャンスがあるように思います。JAグループのますますのリーダーシップを期待しています。コロナは本当に大変ですが、私たちも皆さんとともに活路を拓いていきたいと思います。

――ありがとうございました。

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