JAの活動:ウィズコロナ 命と暮らしと地域を守る農業新時代への挑戦
【対談】農水省・青山総括審議官×JA全農・平野スマート農業推進室長 農業新時代を拓くスマート農業(上)【特集:ウィズコロナ】2020年8月20日
作業の自動化や、気象データの解析によって農作物の生育を予測するなど生産現場での省力化と高度な農業経営を可能とするスマート農業は、新時代を拓く技術として期待されている。国も実証事業などで現場実装を推進しており、JA全農も力を入れる。今回は農水省のスマート農業プロジェクトリーダーを務め、8月から大臣官房総括審議官に就任した青山豊久氏とJA全農スマート農業推進室長の平野幸教氏に現状と今後の課題などを話し合ってもらった。
先端技術活用し現場の課題を解決
実証事業でメリット検証
--最初に農政のなかでスマート農業がどういう位置づけになっているのか、また、改めてスマート農業とは何かについて審議官からお話いただけたらと思います。
青山 3月に閣議決定した、食料・農業・農村基本計画では食料・農業・農村に関わるさまざまな分野について網羅的に政策の方向性を出しておりますが、そのなかで力を入れていこうとしているのは、農林水産物輸出とスマート農業の推進、それから生産者のコスト削減、農村の活性化だと思います。農業のあり方を変えるという意味ではスマート農業は力を入れていかねばならない分野だと思っています。
スマート農業とは、ロボット、AI、IoTといった先端技術を使って生産現場の課題を解決していくことです。
いちばん象徴的なのは衛星からの位置情報を使って無人で作業ができる、機械を自動運転にして作業を手助けするといった水田農業におけるスマート農業ですが、そういうものだけでなく経営管理ソフトを導入してJAの生産部会などで生産者の皆さんがデータを共有し、仲間のデータを見ることによって「自分は肥料が足りなかったんだ」とか「温度が高すぎた」といった気づきを得るということもスマート農業だと思っています。
--国としてはどのように推進していくのですか。
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青山 導入を加速化しなければなりませんが、みなさんスマート農業に効果があることは分かっていても、どのくらい効果があってそれに対するコストがどのくらいかかるかが分かっていないため投資に踏み出せないということがあると思います。
そこで令和元年度から始めたスマート農業実証プロジェクトでは、スマート農機を導入して実際に経営したとき、どのくらいの効果があるのか、つまり、どのくらい収量が上がり、どのくらい労働時間や人手が減らせるのかといった効果を見極め、それを農家の皆さんが参考にできるよう提示することを計画しました。
実証事業は昨年69か所で始めて、今年も採択して合計で148か所で行っています。コロナの影響で人が移動できないなどの問題があり検証作業が難しくなっていますが、まずは実際に使ってみてコストとメリットを比較することが第1の課題です。
2つ目が、高いと言われるスマート農機導入のコストをどう下げるかという課題です。これにはシェアリングといったかたちで機械を共有することによってコストを下げることができないかということにこれからチャレンジしていきたいと考えています。
3つ目は環境整備です。実際に無人機が走ることができるとしても、農地の形状がそれに対応していなければ難しいので、土地改良事業などを進める際には、無人機が入りやすいような形状に整備したり、カーブや傾斜などもスマート農機の規格に合わせたかたちにしていくということです。
4つ目は若い人たちへの教育です。今年度の補正予算では、コロナの影響による労働力不足への対応として、1年間限りでスマート農業を24か所で実証を始めましたが、そこでは農業高校や農業大学校と連携して「若い人たちに見せる」ことを条件として事業を展開しています。ロボット収穫機などを現場で若い人たちに見てもらい興味を持ってもらうことで携わる人を増やしていこうという取り組みです。
営農管理システムの普及を推進
--それでは平野室長に全農のスマート農業の現状や取り組みについてお話いただければ思います。
平野 全農は農家の経営実態に合わせ、生産の効率化やコスト低減が見込める生産資材を普及することでスマート農業を広めていこうと考えております。一方で農業のデジタル化も進めていきたいと考えています。
それがZーGISというクラウド型の営農管理システムで地図情報と農家がエクセル上で管理するほ場情報を結びつけて自分のほ場の様子をデジタル化しようというごくシンプルなシステムです。これを核にして農薬散布などの栽培履歴やセンシングによる気象データなどさまざまなデータを取り込んでいこうと取り組んでいます。
青山 どのくらいの農家が導入されているのですか?
平野 約930ですが、そのうち1割はJAが導入していますから、JAとしてZ―GISで管理している農家数を含めればかなりの農家が使っていることになると思います。
青山 先ほども話しましたが、私たちも実際に現場をみてスマート農業としていちばん導入しなければいけないのはこうした経営管理ソフトだと思いました。
平野 さまざまな経営管理ソフトがありますがJAが使うと管理するほ場の数が万単位になってきますし、一方で小規模な農家もあれば、ほ場が1000を超える経営体もあると思います。いずれにも対応できるソフトウェアということでこのZ―GISの普及に取り組んでいます。
このほかにも全農ではスマート農業にいろいろな部署で取り組んでいます。その1つに「ゆめファーム全農」という取り組みがあり、これは施設園芸を高度化し農家の手取り最大化をめざすもので、全農自ら栃木、高知、佐賀に大規模な施設を作っておもに果菜類の施設装備や生産技術を実証しています。そこから将来は面的に広げていこうということです。
また、生産者の要望を知るために資材事業研究会という場を設けていて、JA全青協と日本農業法人協会、4Hクラブから20人ほどの生産者に来てもらって意見を聞いています。これまでの成果としては、大型トラクターの共同購入があります。「生産者が必要とする機能に絞り込んだトラクターをできる限り安くほしい」という農家の要望を反映するかたちで全農が企画し、生産者に結集を呼びかけて価格引き下げを実現しました。共同購入の受注台数は7月末累計で1800台を超えています。
このように農家の声を聞いて資材開発に結びつけるという取り組みをしており、そのなかで「スマート農業分科会」も立ち上げて意見を聞いていますが、やはりコストがいちばんの要望です。導入コストを回収するには収量と品質を上げてカバーするしかない、やってみたいが悩ましい、と。そこで最先端の技術ではなく既存技術を組み合わせてスマート化していくのも重要ではないかとの意見もあります。
青山 今まさに現場で課題になっていることを解決できる技術をまず導入していくという方向で政策も考えなければならないと思います。
平野 そこはまさに我々もお願いしたいところです。それから共同利用を進めてほしいという意見もありますがなかなかうまく進みません。
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