JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある
【特集:希望は農協運動にある】提言:感謝、挑戦そして希望! 下小野田寛 JA鹿児島きもつき代表理事組合長2020年10月1日
JAcom農業協同組合新聞は今年創刊90周年を迎えたことを機に「特集 希望は農協運動にある 持続可能な社会を目指して」を企画しました。その一環として農協運動の現場を牽引しているトップや識者の方から「希望は農協運動にある」をテーマにご提言をいただきました。
今日は、そのなかから、JA鹿児島きもつきの下小野田寛組合長の提言をお届けいたします。
1.困難が続く2020年代
世界的な新型コロナウィルス感染拡大が私たちの生活を、世界の様相を一変させた。いま、世界で何が起こっているのか!? 世界的に経済格差が拡がり、富の偏在が大きく進んできている。世界不平等データベースによると米国の国民所得で上位1%の富裕層が占める富の全体の割合は、1980年代11%だったものが、足元20%超と2倍以上に高まっている。富の行き過ぎた偏在が米国で起こっている。日本も同じような状況にあろう。今回のコロナ禍での貧困層の罹患(りかん)率と失業率の高さにより、そのひずみはより鮮明になった。今まさに、資本主義のあり方と民主主義体制の基盤が問われている。
日本の先行きもたいへん厳しい。人口減少が顕著だ。今年の1月1日現在、日本の人口は日本人住民が前年から50万人減少し、外国人住民が20万人増加して、1億2713万人となり、2009年をピークに日本は人口減少社会に突入している。日本人人口の減少幅が50万人を超えるのは初めて。これは極めてインパクトがあり、50万人都市が1年で一挙に消滅するようなものである。
2020年代が日本にとって困難な時代になるのは明白だ。団塊世代が80代を迎え、団塊ジュニアは50代後半に差し掛かる。いわゆる就職氷河期世代は40~50代を迎える。生産人口の減少と老年人口の増加で、30年には約1.8人で1人を扶養せねばならない。生産年齢人口の減少が経済成長の足かせとなり、社会保障費の増加率が経済成長率を上回る。政府債務の増大に歯止めがきかず、毎年の政府予算で歳入の3分の1を新規国債で賄う。歳出の5分の1は負債の返済だ。これが長くもたないことは、容易に想像がつく。次世代へのつけ回しができなくなる、それが実感となる10年間が20年代だ。
2.私たちは前に進むしかない
日本にとってたいへん厳しい20年代を私たちはどう乗り越えていくのか。今こそ、私たちJAの出番だ。91年前の昭和4年(1929年)に田中豊稔が世界恐慌にあえいでいた農村に心を痛めて農村の経済更生運動に身を投じて「経済更生新聞」が生まれたように、いま、協同組合が、農業協同組合がその本来の力を発揮して、「困難な時代をみんなで前に進む」新しい歩みを始める時が来た。
そのためにまず私たちは、先人のこれまでの取組みに感謝したい。いま、あたりまえのように生活できていることに感謝したい。自分を取りまく回りの人々に感謝したい。農家が生産した農畜産物をおいしく食べていただく消費者に感謝したい。そして次の世代が育ってきていることにも感謝したい。
まず、私たちは感謝から始める。そうでなければ、前に進むことはできない。
3.挑戦を始めよう
私たちは感謝しながら前に進み、私たちの前に立ちはだかる大きな課題に挑戦したい。困難な20年代を乗り越えるために私たちがまず挑戦しなければならないのは、農村の活性化である。多くの農村は東京から遠く離れた地方にある。まさに農村の活性化は、地方創生であり、国の大きな課題である。私たちは農村の活性化に全力で取り組む。地域の自然を守り、地域の資源を活かして日本国民に安心安全でおいしい農畜産物を安定的に届ける役目が農村にある。その使命を果たすためには、農村に住む農業従事者および関係者だけでなく、消費者をはじめとするいろいろな方々のご理解とご協力が不可欠である。今回の新型コロナウィルス感染拡大の中で困っている生産者を応援しようと、困っている生産者の食材を買いたいという消費者の想いがびっくりするほど強いことがわかってきた。
私たちは、あらためて「お金があるから肉や野菜、コメが食べられるのではない。土と水が豊かな農村があり、技を持つ農家と集出荷や物流、加工、販売に携わる人がいるからこそ、食べ物が手に入る。」ということを皆さんにわかっていただくように努力していきたい。
産地と消費地が農畜産物でつながり、生産者と消費者が想いでつながる。そうするとお互いの交流が始まり、産地と消費地でそれぞれ人が育っていく。消費地に農村の想いと取り組みを受け入れてくれる人がいないと農村の活性化にはつながらない。産地に消費地の想いと悩み・課題を受け入れてくれる人がいないと消費地との絆をつくることができず。農村の活性化にはつながらない。そのことをしっかりと肝に銘じてこれからも私たちは挑戦していく。
4.そして未来へつなぐ希望!
私たちのJAでは、今年度国の事業を活用して「スマート農業・さつまいもイノベーション」に取り組み、無人トラクター・ドローン等の導入により、さつまいも生産を飛躍的に活性化したいと考えている。
さつまいもは江戸時代に中国から伝わり、庶民の食料として鹿児島県でも多く生産されてきた。今日でも鹿児島県が生産量は全国一であり、用途として青果用で使われるだけでなく、焼酎用・でんぷん用原料、お菓子用として多く使われている。近年、高齢化で農家数・生産面積とも減少傾向にあり、まさにいま、活性化・イノベーションが求められている。
こういう一つひとつの活性化を積み重ねて、農村全体の活性化をはかっていく、それが、私たちが掲げている『ネクスト10(10年構想)』である。ちょっと先の3年先ではなく、もっともっと遠くを見つめて進んでいきたい、そして希望と呼べるような光がほしいという想いで平成30年の総代会に議案として提案し、承認をいただいた。「10年後、私たちは、組合員は、地域は、こんなふうに豊かになっていく、そのためにこの10年間、様々な未来投資をやっていきたい」という想いがこめられたものであり、様々な挑戦をするためには、希望の光が必要であり、私たちはネクスト10を希望の光としてこれから前に進んでいきたい。
5.辺塚だいだい氷結と万羽鶴プロジェクト
今回、私たちの挑戦が希望の光につながるプロジェクトが実現した。私どもJAとキリンビールとのコラボ商品として10月に缶酎ハイ「氷結」シリーズで「辺塚だいだい氷結」を全国発売する。生産量が小さいこともあり、2年がかりのプロジェクトとなった。
肝付町と南大隅町に太平洋の青い海と深い山々に囲まれた小さな集落、辺塚がある。その地で昔むかしから自生していた辺塚だいだい。青い空とまぶしい太陽の下で緑色にたわわに実った辺塚だいだいは爽やかな香りが特徴で、現在45名の生産者が年間50トン程度生産している。地元では、あの源平合戦の後、平家の落武者がたどり着き、その時辺塚だいだいが持ち込まれたのではないかとも言われている。まさに悠久の歴史とロマンを感じさせる辺塚だいだいであり、今回キリンビールの氷結シリーズで限定発売していただくことは、小さきものへ光を、大自然に囲まれた小さき農村に光を当てていただくことであり、生産者も地域もたいへん元気が出ている。今回の氷結発売が全国の小さきもの(産地、農産物、地域)への希望の光となれるように地元も大いに盛り上がっていきたい。
そして新型コロナウィルスの収束を祈願して万羽鶴プロジェクトを発足させた。全国で緊急事態宣言が発出されていた4月24日にオープンした直売所「どっ菜市場」に来場される皆様をはじめ、JAグループ鹿児島、組合員、地域住民の皆様など多くの方々にご協力をいただき、折り鶴を折って新型コロナウィルスが収束に向かうことをみんなで祈願するプロジェクトであり、5万羽の折り鶴を目標にスタートした。おかげさま多くのご厚意により、目標の5万羽を大きく上回る10万羽に迫る折り鶴をご協力いただいた。私たちにできることには限りがあるが、お互い意識を高めることにより感染拡大を抑えることに貢献できると思い、始めたプロジェクトであったが、想像以上の反響をいただいた。9月19日に収束祈願の神事を行なった後、直売所「どっ菜市場」に大きく飾らせていただいた。
私たちは農村の活性化に全力で取り組んでいくが、活性化とは、結局何なんだろう?!
いま、私が感じている活性化とは、人の心と体が大きく、そしてより早く動くということだと思う。みんなの心と体を動かすためには、希望の光が必要であり、お互いに感謝しなければ動く心も動かない。挑戦とは、結局自分の心と体を前に動かすことだ。つまり、私たちが進める農村の活性化は、「感謝、挑戦そして希望!」でみんなの心と体を動かすことであり、必ず私たちにはできると信じる。
さあ、皆さん、困難な時代、20年代をともに挑戦していきましょう!
最後に水泳選手の池江璃花子さんが先日、来年開催予定の東京オリンピック・パラリンピックに向けて発したメッセージを紹介したい。
「逆境からはい上がっていく時には、どうしても、希望の力が必要だということです。希望が、遠くに輝いているからこそ、前を向いて頑張れる。1年後、希望の炎が、輝いていてほしいと思います。」
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