JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある
【特集:希望は農協運動にある】提言 協同組合こそ社会の希望 普天間朝重 JAおきなわ代表理事理事長2020年10月2日
農協協会創立、そして農協新聞創刊90周年おめでとうございます。
農協新聞90年の歴史は、社会の苦難な歩みと併走してきただろうが、そこには産業組合時代から常に協同組合が存在していた。ということは農協新聞90年の歩みはとりもなおさず農協の歩みそのものであったと言っていい。今回のテーマの副題は「希望」であるが、まさに協同組合こそ社会の希望だったのではないだろうか。
農業の危機とともに歩む
「昨今の農業情勢は厳しく」とか、「農業は危機的状況にある」という言葉が毎年のように聞かれるが、農業が厳しい、あるいは危機的状況でなかったことがこれまであるだろうか。戦前の小作農問題、戦後の荒廃した農地と食料不足、高度経済成長に伴う地域の過疎化(三ちゃん農業)、農産物輸入自由化など。その間には豊作もあれば凶作もある、病害虫の発生もある、台風などの自然災害もある、など厳しさは連続的に起きている。こうした厳しさの連続性に対し、常に農村には農協が存在し、農業の危機的状況を乗り越えてきた。一方では農協自身の経営も常に厳しい状況におかれてきた。終戦直後の資金不足、金融自由化、バブル崩壊、長期不況、マイナス金利などだ。そのために何度も合併を繰り返してきた。さらに節目節目で常に政府や民間からの攻撃にも晒されてきた。農協新聞は90年にわたってこうしたことを報道してきたはずだ。
実際私の方でも、農協新聞にいくつか投稿してきた。戦後の食糧難については、沖縄で起きたソテツ地獄で示した。沖縄県では戦前の世界大恐慌の影響で、住民は極度の貧困に陥り危険なソテツを食べて命をつなげた。終戦直後もある離島で食糧がほとんどない状態の中、またもソテツを食べて飢えをしのいだという苦難を農協新聞で紹介した。
農協合併については、2002年4月の沖縄県の1JA合併を取り上げ、全国で合併を協議する材料として情報を提供した。その中で、経営体力や地域性の異なる27JAから県下全域をカバーする1JAになることで「必要なもの(施設・人材)を、必要なだけ(投資)、必要な場所(地域)に」という表現でその優位性を紹介した。
政府からの攻撃については、沖縄県が米国の支配下にあった時期(終戦から1972年の27年間)に、時の米国民政府の最高権力者キャラウェイによる農協攻撃(特に琉球農連の解体)、いわゆる「キャラウェイ旋風」を例に全農の株式会社化への反論として取り上げた。信用・共済事業の分離については、米国占領下の沖縄の農協組織・形態の変遷の中で一時期行われた信共分離(農協と信協の併存)を事例として紹介しつつ、総合事業の必要性を説いた。准組合員利用規制問題では沖縄県の離島問題を取り上げた。離島では農業が中心であるとともに地域住民は農協の信用・共済・生活店舗が頼りであり、農協はライフラインとして准組合員に対して利用規制を課すわけにはいかないことを主張した。また「さとうきびは島を守り、島は国土を守る」という製糖工場の煙突に掲げられた文言を紹介しつつ、離島にあっては農業を守る産業政策と住民の生活を守る地域政策は車の両輪であることも主張した。
農協新聞は、こうした地方の取り組みや考え方を全国に発信する場として機能を発揮しており、敬意を表したい。
鼎談にも何回か参加させていただいたが、単協の役員や研究者も加わっての討論は貴重な経験になった。元プロ野球の選手であり、監督としても大きな実績を残した野村克也氏は「経験に優る財産はなし」と経験することの重要性を主張しており、ドイツの劇作家・レッシングも「自分の経験はどんなに小さくても、100万の他人がした経験より価値ある財産だ」と同様のことを言っている。確かにその通りだが、経験は自分の行動の範囲内でしかできない。時間もかかる。効率的に経験を重ねるには他人の経験から学ぶ必要があり、特にJAグループの役職員の経験を学ぶには農協新聞が一番いい。
理事長就任(昨年)以来、機構改革、店舗再編計画、店舗の営業時短、共済一斉推進のアシスト制への移行、女性職員の就業環境整備などに矢継ぎ早に取り組んできたが、決断を後押ししてくれたのが農協新聞であり、紙面を通じて全国の仲間の貴重な経験を学び、参考にさせていただいた。そういう意味では農協協会が主催する「農協人文化賞」は、全国の仲間が贈る賞として大変意義深い。
変化には直ちに対応を
コロナ後の社会はどのように変化していくのか。分断か共存か、競争か協同か、格差か相互扶助か。この問いに対する回答は明確のような気もするが、現実は逆の選択をしてきたのではないか。グローバル経済は一見世界がひとつになるようなポジティブなイメージを連想させるが、現実はリーマンショックが一瞬で世界を恐怖に陥れ、気候変動による食料生産の不安定化は突然の輸出規制となり、新型コロナウイルスは全世界で物流網を寸断する。結果として、自国中心主義となり世界は分断される。競争は効率を促進するものとして美化されるが、一方では弱者は淘汰され、貧富の格差はますます拡大する。こうした社会構造にあって、共存、協同、相互扶助を掲げる協同組合こそが新たな時代をつくる先導役になるべきだ。
とりあえず今はコロナ禍への対応が急務だ。沖縄県内では特に観光需要が消失した。沖縄県の観光の中心地である国際通りでも4・5月は県の緊急事態宣言もありほとんどの店舗が休業していた。6月ごろから新規感染者が減り始め、緊急事態宣言も解除されたことを受けて店舗が徐々に再開されてきたが、かなりの店がまだシャッターが下りたままだ。中には看板自体すでに撤去されているか、ペンキで上塗りされていて、おそらく廃業したのだろう。再開した店舗、いまだにシャッターが下りたままの店舗、廃業した店舗、それぞれの経営者の決断を分けたものは何だったのか。なぜ再開できたのか、なぜ再開を迷っているのか、なぜ廃業したのか。8月に入り第2波が襲来し、改めて緊急事態宣言が発出され、気温の下がる冬には第3波が来るのではないかとの懸念もささやかれている。当JAが提携している香港のクルーズ船会社も経営がかなり悪化しているようで、インバウンドも当面期待できそうにない。元の状態に戻るのはまだ先かもしれない。
「チーズはどこへ消えた?」。米国出身の医師で作家でもあるスペンサー・ジョンソンのこの著作によれば、二匹のネズミと二人の小人はチーズを見つけるために迷路をさまよい、やがてチーズを見つけ、しばらく満足に浸るのだが、ある日チーズが消えていた。二匹のネズミは直ちに次のチーズを探す旅に出発するが、二人の小人は、まだこのあたりにチーズはあるはずだとしきりに辺りを探しまくることに時間と労力を費やしている。ネズミたちは(単純なものの見方をするために)変化に直面した時すぐに行動しているが、小人たちは(複雑な頭脳と人間らしい感情のために)動かない。事態が変化しているときには直ちに行動し、変化に対応しなければならないのに。
期待される三つの「しんか」
今回のテーマは「希望」。困難を乗り切る力の源泉は希望である。
パンドラの箱からすべての災いが飛び出した後、最後にひとつだけ残されていたもの、それが「希望」。「希望」は箱の中からこう訴えた。「私は、これから人間と共にいて、災いから救います。でも、それには、私の事を思い出してもらわないといけません。災いは、いつでも人間に降りかかりますが、私(希望)は人間が気づいてくれないと、支えてあげることができません。だから、私の事を忘れないで、いつでも思い出してください」。
農協新聞90年の歴史は重い。この新聞の特徴は一般紙に見られるような、「いついつ何があった」などのイベントを後追いするような新聞とは一線を画す。JA役職員や研究者、行政の農業・農協に関する時代の変化に対応した考え方や取り組み、さらにJAに関する様々な研究会における討論の内容などが盛り込まれている。当初は月3回の発刊で物足りなさを感じていたが、今ではウェブサイトで毎日見られる。今後も農協新聞には、テクノロジーの発展に応じた情報発信手法の「進化」、社会情勢の変化に対応した内容の「深化」、人材育成を促す機能の「真価」、の三つの「しんか」が期待される。
反面、この新聞が全国のJA役職員にどれだけ普及しているのか。そもそもこの新聞を読みこなせる役職員が全国にどれだけいるのか。この点を課題提起しておきたい。この疑問が解消されたとき、そこにきっとJAグループの「希望」があるはずだ。
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