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JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある

【特集:希望は農協運動にある】提言:国民と農業者に視点を定めて運動を 姉歯 暁 駒澤大学教授2020年10月6日

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圧倒的な格差と貧困に疲弊した90年前の農村への反動から必然的に生み出された「協同」への希求。そして今日のコロナ禍で再認識される協同組合運動の基本「互助」。時代の潜在的な変化を受け止め協同組合運動を拡大していくことがいまこそ必要だと、姉歯教授は提言しています。

姉歯 暁 駒澤大学教授農協運動創生の時代:田中豊稔が目にした時代

農協協会の創立者田中豊稔が「経済更生新聞」を発刊した1929年は世界大恐慌の年であり、第一次世界大戦後に急速に盛り上がった労働者と農民の運動に対して、支配層が究極の制度となる治安維持法を制定して侵略戦争へと突き進むための条件づくりが着々と進められ完成段階を迎えようとする時期でもあった。

第一次世界大戦終戦直後の好景気が終焉したことを示す1920年の恐慌は労働者・農民に大打撃を与え、各地で小作争議や労働争議が相次いで発生した。農村の疲弊と農村からその多くの労働者が送り込まれた紡績工場における労働者の使い捨てがいかに耐え難い状況であったかは、1925年に出版された細井和喜蔵の『女工哀史』によく表れている。

同じく1925年には治安維持法が制定され、28年には処罰範囲に死刑を含む改訂が行われた。これに反対しようとした山本宣治が暗殺されたのも「経済更生新聞」発刊の1929年であった。ものを言うことも政府に抗することもできなくなる息苦しい世の中で、人々は共に闘う手段を次々と奪われ、分断され、大資本家の富の蓄積と、その一方での労働者・農民の貧困の増大という「格差の拡大」が社会を蝕んでいった。当然ながら、農民の政府に対する不満が反体制運動に結びつくことは必至であり、それを避けたい支配層が自ら組織した運動が経済更生運動である。その底辺に流れる「精神」は自力更生、自立自助、そして農民同士の「隣組」的連携によって、「自立自助」は農村における協同目標となっていく。これらの標語こそは、インフラや政府援助の圧倒的不足を埋め合わせると同時に、暮らしから農作業全体に至る相互監視・相互の自由抑止体制を構築していくときの合言葉であった。

支配層は、自由意志による労働者と農民の連帯と運動を分断することに機能したが、農民の不満を抑え込むためにそもそもその原因である絶対的貧困を緩和していくこともまた同時に行わなければならなかった。生産工程の検証から家庭内の個別作業の共同化、生活改善など、農民自身が問題点を見つけ出し、行動するという経験を自ら獲得していくことにもなった。もちろん、その流れは一方ではその後の体制翼賛に与して農業会として「銃後の支え」を担う主体として組織されていくのであるが、この共同の力は戦時体制から解放されるや否や、今度は戦後の食糧難を乗り越える際の基盤ともなり、そして、現在の地域社会における「協同」を作り出す力へとつながっていくことになる。経済更生運動にしても生活改善運動にしても、政府肝いりで組織された運動にはこうした二面性が潜んでいる。

農協とは、まずは農家同士の互助組織であり、内部における自由と平等、対外的には政府・支配層から自立した組織でなければならないはずである。その組織が戦中に体制翼賛に組み込まれていったことを私たちは常に記憶に留めておかねばならない。事実、戦後、1947年に農協法によって改めて新たな組織として設立された農協は、やっと政府干渉から解放され、戦前戦中の「政府支配」「体制翼賛」への反省を経て民主主義が体現できる真の互助組織としての姿を取り戻すのだと、当時の農林省そのものが宣伝していたくらいである。農協がかつてこうした協同運動の基本を投げ捨て、体制翼賛へと舵きりを行って解体させられたその歴史から目をそらし再び政府の判断に物言わず、その実行部隊となることは、先祖返りに他ならない。

しかし、こうした支配層の思惑とは無関係に、圧倒的な格差と貧困に疲弊する農村で、その脅威に立ち向かい自ら行動する力が生じることは、むしろ必然の成り行きであった。利益を最優先に据え、貧富の格差拡大が必定の資本主義体制のもとにあるからこそ必然的に生み出される「反動」こそが「協同」への希求である。私たちが生きるこの社会は生産性原理や利潤追求の原理だけで成立はしない。地主の娘や息子が農民運動や労働運動、社会主義運動にその身を投じていったように、目の前の貧困や格差に無感覚でいられるほど、人間は孤立して生きられる存在ではない。

コロナ下での協同組合運動への共感の広がり

生鮮野菜が売り物のスーパーまで歩いて30秒のところに住む友人が生鮮野菜を目当てに生協に入った。そのスーパーで売られている野菜の価格が不安定でどちらかといえば値上がり気味、さらにはコロナで内食が増え、置けばなんでも売れるとのことでどうやらそれほど新鮮には見えないものまで売っていると彼女はいう。長年に渡って私が生協の話をしても乗ってこなかった友人がコロナの影響でさっさと組合員になったことにも驚いたが、生協の加入者が一気に増えて一時的に注文に制限まで設ける事態が発生する事態が生じたことにも驚いた。生協の個配供給高は一気に20%増加した(2020年6月度、日本生協連調べ)。

加入の理由は例えば友人のように全般的に物価が上がっている中で安定した価格で供給する生協ならではの価格設定や産直の新鮮さ、安心、安全、国産などといった質への信頼によるものや非接触で購入できる上に生協という長い共同購入の歴史を持つ運動体への信頼感であると考えられる。単なる非接触の宅配と言うだけなら他にもある。それでも生協が一人勝ちをしたのは、コロナのせいで店舗で手にとって選べない中で生じる「顔の見えない距離感への不安」が、「利益第一主義ではない協同組合運動」のシステムと「安心、安全、国内農業を守る運動」への信頼感によって埋め合わせられることの証明に他ならない。

加えて、生協が新規加入者を温かく迎え入れ、組合員全体に対して平等に物が行き渡るよう自制を求め、多くの組合員がそれによる欠品を受け入れているという事実は、長期の戦いになるであろうコロナと向き合う社会のあるべき流通の姿を示しているように思える。コロナで学校給食が供給停止状態となり、牛乳の産地で大量の牛乳があまりそうになった時、割り引くこともなく組合員に事情を説明しもう1本ずつの購入を呼びかけたところ、多くの組合員がこれに呼応した。多くの生協ではすでに共同購入より個配へのシフトが顕著となっている。かつての共同購入の時のようにお互いに顔がわかることもなくなり、普段は運動体であることを意識することもなくなった生協活動だが、コロナ禍でのこれらの生協の経験は、協同組合運動の基本となる互助が再認識されたのではないかと考えられる出来事だ。

農協運動は国内の食料生産と流通を守る要であり、協同は必然

コロナで自国第一主義や貿易戦争が再燃し、マスクや食料などの必需品が新たな戦略物資へと変貌した。世界的に人の移動が制限される中、オリンピックを前に膨らんでいたインバウンド消費への期待もどこかへと吹き飛んだ。そもそも、外国からの観光客に依存する地域に持続的発展などあり得ないのだが、コロナは、我々に、「発展こそすべて」だった世界観から「持続可能性」を軸とした世界観へと転換させる画期をもたらしたのかもしれない。

農水省の支援もあり、消費者の国内農産物への関心が高まったという。JAタウンのサイトには、イベントの中止などで売れ残ることが必至だった花卉類が出品され、私を含めて初めて国産のバラを購入したという消費者も数多く見られた。住まいのある地域から遠出ができないコロナ下での生活の中で、産消間の距離を埋め、消費者に国内農業の存在を知らしめる役割を果たすことができるのはやはり農協ならではの力である。

今後、新たな販路を開拓し、生産の持続性を確保しながら、徐々にコロナに対応できる経営へとシフトしていくための援助を行なっていくこともますます必要とされるであろう。今や、コロナの経験を通じて、輸出に頼ることの不安定性がはっきりした。そんなことより、再び突然学校給食への供給がストップするという事態が生じたときの対応や、全国組織であり、多くの流通網を抱える農協が持つ利点を最大限に生かして農業と国民生活を守ることの方が重要である。しかも、今、農業だけではなく、暮らしの継続が脅かされている中で、利益第一主義ではなく本来の互助組織としての協同組合運動の必要性が高まっている。その潜在的な変化を受け止め、コロナを機に真の協同組合運動に今一度立ち戻り、国民と農業者にこそ視点を定めて運動を拡大していくことが望まれる。

 

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