JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある
【特集:希望は農協運動にある】「協同」意識 教育で 市民ぐるみの"担い手"づくり JAはだの(神奈川県)(1)2020年10月22日
農業者の組織であるJAは地域の農業生産の向上と、地域に根差した組織として農業を通じて暮らしやすい地域をつくるという社会的使命がある。農業経営の支援なら行政や銀行、あるいはホームセンターでも可能で、地域の人々の生活を維持することは総合スーパーでも務まる。JAの特長は、お互いに助け合うという協同組合の相互扶助の精神にある。それが安全・安心の農産物供給、住みよい地域づくり、教育文化活動など、経済活動以外の事業・活動につながっている。神奈川県のJAはだのは、こうした協同組合の基本を据えた運営・事業を行い、常に新しい取り組みに挑戦している。そして、JAと一体となって地域農業を振興してきた古谷前秦野市長にもインタビューしました。
「地域との共生」-市民に新鮮な野菜を供給する「じばさんず」
正准の区別なく地域農業支える組織へ
報徳思想がバックボーン
秦野市にあるJAはだの本所を訪れると、玄関前で二宮金次郎の薪を背負った銅像とともに、安居院庄七を称える石碑が迎えてくれる。碑文は
「乱杭(らんぐい)の長し短し人こころ 七に三たし五に五たすの十」
と刻まれている。河川の護岸用に埋め込む杭は長いものも、短いものもあるが、長短あることで水流を和らげることができる。世の中もいろいろな人が集まって助け合い、補っていくことが大事だという意味で、「一人は万人のため、万人は一人のため」の協同組合の精神と共通する。
2001(平成13)年、松下雅雄元組合長の時、建立された記念碑で、松下氏はことあるごとにこの歌を口にしていた。安居院庄七は今の秦野市の生まれで、二宮尊徳の弟子として、「報徳」思想を広めた人物として知られる。この歌にある教えは、今日のJAはだのの事業・活動を進める上で、精神面の大きなバックボーンになっている。これをもとに、「三つの共生」、つまり次世代との共生、地域との共生、そしてアジアとの共生を基本目標としている。
JA本所の玄関前にある安居院庄七の石碑
組合員と家族対象の「講座」で協同意識
JAはだのを特徴づける取り組みの一つに、充実した教育文化事業がある。同JAは、協同組合意識の高揚と地域の組合員リーダーを育てるための「協同組合講座」を開講している。これには、准組合員とその家族を対象にした「組合員基礎講座」(1年)、組合員とその家族が対象の「組合員講座」(1年)、それに組合員講座修了生による「専修講座」(2年)の3コースがある。
さらに、国内・国外視察研修を実施。国内は、県外のJAの施設を視察。千葉県旭市にある大原幽学記念館や静岡県掛川市にある大日本報徳社などで視察研修した。国外は「3つの共生」として、毎年アジア地域(タイ、ベトナム、韓国、台湾、中国)の中から1か国へ視察団を派遣。「次世代との共生」で、訪問国の小学生との図画交換などを行っている。
特に国外視察は普通の旅行と異なり、参加者同士の絆が生まれ、帰国後も交流が続き、さまざまな面でJAの事業・活動に貢献している。「貸借対照表に現れないJAの誇りとすべき財産」と、山口政雄組合長は言う。1983(昭和58)年スタートした協同組合講座の修了者は、累計で2604人に達しており、今日のJAはだのの協同活動の原動力になっている。
さらに文化意識を高めるために毎年実施している文化講演会は、組合員に限らず、誰でも参加できる。各界の著名人を招き、毎年、1500人収容できる文化会館を一杯にしており、地域とJAをつなぐ場として定着している。
こうした組合員教育を実施するため、同JAは1982(昭和57)年から「組合員教育特別積立金」を創設。剰余金のなかから、組合員一人当たり5万円を積み立て、国内外の研修費用などに充てる。現在、積立金は約7億2500万円に達する。積立金の目的は「将来の農協運動の中心者となる組合員後継者や、秦野市の農業振興の担い手である農業後継者に対しては、広い視野に立った協同組合運動や農業のあり方等について研鑽の機会を与えたい」(創設を決めた理事会議案)と、約40年前から、協同組合運動を担う人材確保を視野に置いていることが分かる。
農業振興の取り組みは、秦野市(行政)を含め、市民ぐるみの展開となっている。その一つに「さわやか農園」がある。都市住民等への農地の趣味的な利用を可能にした特定農地貸付法に基づく事業で、荒廃化した農地を10アール当たり1万5000円でJAが借り受け、准組合員や市民に100平方メートル当たり年間6500円で利用してもらう仕組み。1か所26区画で2000年にスタートし、現在は45か所350区画まで拡大している。
「農業塾」から就農も
さらに関心のある人には、やはり秦野市、秦野市農業委員会と共同で運営する「はだの都市農業支援センターが開設した「はだの市民農業塾」で学ぶことができる。「さわやか農園」の利用者は現在260人で、うち79人が修了後JAの組合員になっている。組合員になるとJAファーマーズマーケット「じばさんず」への出荷ができる。農園利用者のなかには、市民農業塾などを経て88人が農家になっている。
「地域住民が生産・販売する側になるという仕組みをつくることは大変重要なことだと考えている」と、同JAの宮永均専務は言う。本来、消費者であった市民がファーマーズマーケットの出荷に関わることで、農業者との交流が生まれる。このような市民の農業を促す取り組みは「地域の農業資源は市民や組合員の共有財産」というJAと秦野市の共通認識が根底にある。
魅力ある都市農業づくり」で秦野市と共同歩調
JAと秦野市は、「魅力ある都市農業づくり」を目指し、共同歩調をとってきた。それがJAはだのと秦野市、農業委員会の3者でつくる「都市農業支援センター」で、2005(平成17)年設置。地域農業を維持・継続できる集落営農に取り組む「地域づくり」、専業・兼業農家、市民参画による多様な担い手育成・確保の「人づくり」、地域の特性を生かした農産物生産・販路を確保する「ものづくり」の支援を効率的に行うことを目的とする。
「はだの市民農業塾」は同センターが運営するが、塾長は市長で、JA組合長が福塾長を務める。農業参加の形態によって基礎コ―ス、新規就農コース、農産加工起業セミナーコースの3コースがある。なかでも定年帰農やUターン、Iターンなどの新規就農希望者を対象とする「新規就農コース」は、修了生88人のうち73人が秦野市内で就農し、約15ヘクタールの農地を耕作している。なお、この中で農外からの新規就農者が55人を占めており、秦野市の農業の担い手育成に着実な成果をあげている。
また秦野市には、市内の農業を応援する「はだの農業満喫CULUB」がある。秦野市の農業に対するイベントなどの情報をいち早く入手できる会員制のクラブで、農園オーナー制や収穫体験などの案内を受けることができる。
市民や消費者とともに進めるJAはだのの取り組みは生協も巻き込む。同JAは昨年3月、生活協同組合パルシステム神奈川ゆめコープと事業連携を通じた地域振興・地域貢献に関する包括協定を結んだ。具体的な取り組みは、生活関連物資供給事業の相互利用や、相互の施設やインフラの活用、秦野市産の農畜産物およびその加工品の生産・販売、さらには災害時の支援・協力も視野においている。
※詳しくは「2:「ご近所産 ご近所消費」で田舎の香りがするまちづくり」を参照
准組合員も総会出席
JAはだの組合員は2019年度末で1万4490人。うち正組合員は2831人、准組合員は1万1653人で、4倍近い准組合員に対し、あらゆる機会を使って活動への参加を働きかけている。その一つが総会への出席。同JAは総代会制度を採用せず、正組合員全員の出席を認める「総会」を維持している。
そこにファーマーズマーケットの出荷者や年金友の会の代表などの准組合員の出席を認めている。会場の一角に准組合員のコーナーが設けられ、総会での議決権はないが、発言は可能で、正組合員の一体感の醸成に一役果たしている。今後、出席者が増えると会場の確保が難しくなり、新型コロナウイルスの問題もあるが、総代会にすると「准組合員の参加を閉ざすことになることから、可能な限り総会を開催していく」(宮永専務)考えだ。
JAは、春と秋に市内83か所で組合員座談会を開いているが、これには准組合員も参加でき、勤め人が多いことを配慮して、土曜日に開くようにしている。JAはだのは正組合員、准組合員の区別なく対応し、農業振興は食や地域に関連する人々と共にあることを明確しており、正組合員以外で地域の農業を支える人を加えた組織へどう転換するかが、これからの課題になる。准組合員の多い都市JAに共通する課題でもある。
春と夏、市内83か所で開く組合員座談会、准組合員も出席する
(2)古谷前市長インタビュー「ご近所産 ご近所消費」で田舎の香りがするまちづくり に続く
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