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JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある

【特集:希望は農協運動にある】健康と安心守る砦――地域・農村医療の要・神奈川県厚生連(1) 根岸久子 日本協同組合連携機構客員研究員2020年10月26日

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今年は日本中がコロナ感染への不安を抱えながら過ごす1年となった。そのなかで各地の厚生連病院は組合員・地域住民のいのちと暮らしを守る医療事業を展開してきた。
そこで、神奈川県厚生連の高野靖悟理事長(相模原協同病院名誉医院長)と相模原協同病院の阿部徳子看護部長からこれまでの取り組み等も含めてお話しを伺った。

命と健康を守る医療の現場命と健康を守る医療の現場

地域医療の要に 厚生事業の沿革と取り組み

無医村解消へ農業会が創った組合病院

神奈川県における厚生事業は(2の文末の表参照)、第二次大戦が終わる直前の昭和20年8月1日に、神奈川県農業会が無医村の解消を企図して相模原町に開院した「組合病院」が出発点となる。それは必要に迫られた農村の人々が各地で展開してきた努力の結果で、建築工事では組合員個人の山林から伐採した資材を使い、組合員・職員が労働奉仕したという。

そして農業会解散後、昭和24年3月に設立認可を受けた神奈川県厚生連が運営を引き継ぎ「協同病院」に改称し新たなスタートを切った。

その直後から周辺農村を巡回して保健予防活動を開始しているが、この取り組みは地元新聞やNHKでも紹介された画期的な取り組みであり、その後も成人病検診や農協婦人健康相談の開始等、「地元に行って、まず健診」の医療活動を実践していく。

ちなみに相模原町(当時)には町立病院がなかったため、昭和26年に協同病院を公的医療機関に指定している。さらに昭和43年には伊勢原町立国保病院が県厚生連に経営移管され、伊勢原協同病院となり(これに伴い相模原病院は「相模原協同病院」に改称)、以後は2つの病院が神奈川県の厚生事業を担ってきた。そして以上の経緯からともに市民病院としての役割も担いつつ、現在では「地域医療支援病院」として周辺地区の医療機関と連携・サポートする地域の中核病院としての機能も果している。

無医村解消を目指してスタートした相模原協同病院無医村解消を目指してスタートした相模原協同病院

脈々と受け継がれる農村医療の理念

これについては高野理事長と阿部看護部長から伺った厚生連と相模原協同病院(以下相模原病院)の実践をもとに、以下の通り整理してみた。

一つは地域住民の「健康と安心を守る」砦の役割である。相模原病院は、より身近な外傷や疾病にも対応しつつ、救急医療等にも対応する高い医療機能をもつ。さらに重症化を防ぐための専門外来を設け(透析予防、禁煙予防、未病等)、専門看護師が医師と患者の仲介役となりながら運動療法や食事療法等を指導しているが、これは外来患者に関われる医師の時間は限られるなかで患者のニーズに応えるために取り組んだという。高度な医療に加えたこうした患者に寄添うきめ細かな予防医療は、市民にとって「健康を守る」砦と言えよう。

二つ目は、住民の健康意識を高め健康な暮らしづくりをサポートしていることである。

その一つが健康づくりに欠かせない主体性行動を促すために開講した「市民教育公開健康講座」(年5回、500名)で、医師や看護師、技術職等が講師を努める。これについて阿部さんは、「病院開設の歴史や市民病院としての役割について合意形成されているのでスタッフは協力的」と語る。4回受講すると希望者は「地域健康サポーター」として予防活動に参加している。

病院給食へ食材を供給する生産者のみなさん病院給食へ食材を供給する生産者のみなさん

地元の農業を可視化

さらに、応募に応えた院内ボランティアは多様な患者サポート活動を行なっているが、今夏はTVで病院崩壊のニュースを知った大学生が「医療が崩壊したら困るから」と応募してきたと言う。これも市民の当院への思いの一端を表すものと言えよう。

また、毎年11月に開催する健康まつりにはバザーや地元店の出店、地元農産物の直売等もあり、多くの地域住民が集うが、そこでも医師の健康相談、看護師の血圧や血管年齢等の測定、栄養課職員が作った地産地消のヘルシーランチの提供等を通して健康や予防の大切さをアピールしている。依頼があればJAの農業まつりにも出かけるという。

三つ目は、相模原病院の医療や看護の実践は地域医療のあるべき姿を提示していることである。これは阿部さんの実践の1例に過ぎないが、急性期病院は在院日数が限られているため、退院した高齢者が酸素吸入器をうまく扱えず悪化して再入院したことがあり、これを機に看護師が指導したことを確認するため退院者への訪問活動を始める。加算のあった1か月の試みであったが、この経験を聞いた看護師から「自分もやりたい」との声が上がり今も継続しているとのこと。こうした患者に寄添う実践は今後の地域医療のあり方を示唆していると言えるのではなかろうか。

四つ目には、JAグループの特性を活かし随所で地元農業を可視化していることである。

その一つが地元の安全な農産物を使った病院給食の提供で、病院栄養士がJA相模原市旭支店に相談し、直売部会に所属する有志4人が応え実現に至った。また、病院前では同直売部会が週2回直売所を開き、病院の健康まつりでも直売所のほか近隣の相原農業高校生が育てた農産物を販売している。

以上の実践からは「一人は万人のために、万人は一人のために」や「患者の権利」の尊重を謳った農協医療事業の理念や運営方針がスタッフに脈々と受継がれていることが見えてくる。ちなみに、高野理事長が研修医に必ず話すことは農民達が創った病院の歴史と厚生連設立時の理念であり、医師を対象に月1回行なう院長講話でも協同病院の理念や役割について語っているという。阿部さんも採用時の面接では「病院の歴史や理念」を話し、看護師には自らの実践を通したスタッフ教育を目指しているとのこと。

 
人員確保が喫緊の課題

事業運営の課題の一つは、医療政策の変化で、地域医療調整会議が2025年を目途とする日本の医療の方向を決定したことによる。それは、これまでは一つの病院で完結させてきた医療を、今後は病院の機能(役割)分担と病院連携で進めるとし、それにより地域ごとに病床数を決めることを迫られ、神奈川県では2年前から急性期の病床数を規制されている。

そのなかで相模原病院は新築移転を機に機能強化するため人員確保が喫緊の課題となっているが、国は「働き方改革」の名で医師・看護師不足による過剰労働改善のために医師補助・看護助手を雇用し安全を図るよう指示している。しかし、「給料」の安さで人員確保は難しいという。その要因は診療報酬の逓減にあるので、地域医療の役割分担政策は「絵はいいが、難しい」と理事長は語る。



(2)「厚生連の新型コロナ感染対応」に続く

阿部看護部長


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