JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある
【特集:希望は農協運動にある】健康と安心守る砦――地域・農村医療の要・神奈川県厚生連(2) 根岸久子 日本協同組合連携機構客員研究員2020年10月26日
厚生連の新型コロナ感染対応
高野靖悟 理事長
クルーズ船の感染者も受け入れ命を守る
県下初の感染者は市内勤務の男性で相模原病院に入院したが、その時点では病名等の詳細は不明のなかで数ヶ月前に実施した新型インフルの対策訓練を思い出しながら処置した。
その後、クルーズ船客に感染が広がるなかで新型コロナと判明し、同病院への感染者受入の要請があり、感染症指定医療機関でもあり受け入れを決め、以降はクルーズ船客に加え市内の感染者は全て受け入れている。
とはいえ、対応について保健所に連絡しても「病院で決めてください」との回答だったため理事長の主導で厚生連独自のコロナ対策本部を設置、それに基き相模原病院も対策室を設置し全部署横断的な仕組みを創った。
そのなかで一番苦慮したのは、クルーズ船の外国人客への対応だったという。どこに指示を仰ぐのか全く決まっておらず、かつ病状は刻一刻と迫ってくるなかで大使館にも電話しながらの手探り状態だったという。
守られた「医療はライフライン」
これについても理事長と看護部長から伺ったことを整理しつつ、その実践と果した役割について以下の通り整理した。
一つは感染者を受け入れたことである。相模原市内の病院のなかには風評被害を恐れ感染者受入を断る病院もあったなかでの早い段階での受け入れは、感染者の命を守ったと言えるのではないか。
二つ目は迅速・適切な対応で感染拡大を防いだことである。入り口対応すべき保健所が縮小と業務過多でパンク状態にあったことから前述の通り相模原病院は対策室の設置と全職員への周知と参加の体制をとり、スタッフ全員に感染認定ナースが指導し、医師たちには繰り返しの指導・訓練をしている。さらに、医療従事者なのでかなりきつめの行動制限もしたという。それらが院内感染ゼロという結果に繋がった。
三つ目は診療は継続し「医療はライフライン」を守ったことである。相模原病院では感染者受け入れ後も、入り口での発熱測定や接触、行動等を聞いた上で仕分けし、待合室はソーシャルディスタンスで間引きしながら、通常の医療業務は行った。それは「医療はライフライン」であり「患者が困らない」ためだったという。
四つ目にはJAの渉外担当者や希望する組合員・役職員に対するPCR検査を実施したことで、それは感染予防とJA業務の円滑な遂行をサポートしたと言えよう。これはJA役職員が不安を抱えるなか県中会長が厚生連に要請し実施したという。さらに、今後、新型コロナとインフルエンザが同時発生する時期を迎えるにあたり、厚生連は専門医の意見をもとに作成した「今期、冬の過ごし方」(コロナの現状、感染予防の注意事項等)を作成し、すでに県下JAに送っている。県下JAは地域のインフラを支える厚生連がJA組織のなかにある素晴らしさを痛感したのではなかろうか。
こうしたコロナ対応の一方で、コロナ禍での受診抑制や手術制限等で10億円近くの赤字が生じ、経営面での課題が残された。ちなみに他県も含めコロナ対応に積極的だった厚生連ほど財政難に陥っているという。
機能強化し患者に寄り添う医療を
「きてよかった」病院に
2021年1月に新築移転する相模原病院は、救急センターや脳卒中センターを新設し、救急医療を強化するため、地域医療における役割は一層重要性を増してこよう。
とはいえ「そこだけではない」と阿部看護部長は語る。それは前述したように患者の生活は退院後も続くので、「入院時の看護だけでなく、患者の生活環境や暮らし方を念頭に入れつつ退院後を見据えた指導も必要なので(とりわけ大手術した患者)、3次救急病院になっても在宅での生活にも目を向けた看護をめざしたい」と語る。
それは新病院の機能や施設が良くなっても「病院内の質がよくないといけない」からで、看護師には常日頃から「患者家族がうちの病院にきてよかった」と思ってもらえる看護をして欲しいと話しているという。そのためにもスタッフが「この病院で働いてよかった」と思える職場環境づくりを目指したいと語る。こうした患者に寄添う看護師と高い医療機能を有する相模原病院は、これからも市民が「きてよかった」と思う病院となろう。
ちなみに当病院の奨学金で学んだ阿部さんは、お礼奉公のつもりで働き始めたが、スキルアップという面では非常に良い環境であったことや地域に貢献したいとの思いともマッチしたので、当病院で働き続けているという。
健康問題は女性の力を活かしJA全体で――髙野理事長
高野理事長は「人間にとって健康が一番。かつて生活の基礎は衣食住であったが、今は
医食住で、健康にとって医と食(農)は一体のもの、医療事業にとって食(農)は切り離せない。その意味でも健康問題は厚生連だけでなく、JA全体で関わるべき事業だ」と語る。
さらに、病院の機能分担により専門性の高い病院は敷居が高くなっているので、自らの健康管理を求められており、病院としてのサポートと同時に地域での住民参加型の取組みが必要になってくる。JAでは女性部の皆さんが健康づくりや介護支援等に取り組み、女性たちを中心とした下支えができている地域もあり(JAはだの等)、取り組みの素地がある。健康は誰でもの「願い」てもあり、JAはこうした活動を積極的に可視化させたり、まだ不十分なところはJAが下支えしていくことも必要ではないか、とも語った。
取材を終えて 総合性の発揮を全国で
今や市民病院として、さらに地域医療の中核をも担う厚生連病院には日々、多くの市民が訪れる。そこは随所で地元農業の「見える化」への実践が見て取れ、JAグループの病院であることを感じさせる。今、JAグループは「JA自己改革」のなかで「地域住民との結びつき強化」に取り組んでいるが、その一環として実施した地域住民や准組合員アンケートの結果を見ると、JAには健康、福祉を期待する声が多くみられた。その意味で今日的課題に対応していく上ではJAの特性である総合性の発揮を単協内部に留めるだけでなく、全国連を含めたJAグループ全体としても事業間の協同・連携を強めていくことが必要なのではないか。そのことをコロナ禍での神奈川県厚生連の実践が教えたのではなかろうか。(根岸)
神奈川県厚生連の沿革
1945(昭和20)年 神奈川県農業会「相模原病院」開院(20床)
設立認可された神奈川県厚生連に相模原病院を移管(「協同病院」と改称)
津久井に巡回検診開始
1951(昭和26)年 協同病院が公的医療機関指定(厚生省告示)、周辺農村への保健予防活動
1954(昭和29)年 相模原町立結核病棟の落成に伴い運営受託事業開始
1963(昭和38)年 総合病院が完成(299床)
1964(昭和39)年 成人病巡回検診(共済連福祉事業)開始
1966(昭和41)年 健康管理室新設、農協組合員短期人間ドック開始
1968(昭和43)年 伊勢原町立国保病院が厚生連に移管され「伊勢原協同病院」に改称
これに伴い協同病院は「相模原協同病院」と改称
1981(昭和56)年 津久井郡農協婦人健康相談開始
1994(平成6)年 厚木市に健康管理センター開設
1996(平成8)年 JA看護ステーションさがみはら・いせはら開設
1999(平成11)年 相模原市からの要請で在宅支援センター開設
2003(平成15)年 地医医療支援病院指定(相模原協同病院、2019年に伊勢原協同病院指定)
2008(平成20)年 市民健康教育公開講座開催(以降は毎年4~5回開催)
健康と安心守る砦――地域・農村医療の要・神奈川県厚生連(1)
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