JAの活動:持続可能な社会を目指して 希望は農協運動にある
【特集:希望は農協運動にある】対談:萬代宣雄JAしまね元組合長×村田武九大名誉教授 「協同組合教育 高まる重要性」(2)2020年11月19日
地域循環共生圏が必要 村田氏
![村田武九大名誉教授](https://www.jacom.or.jp/noukyo/images/toku20111930_4.jpg)
萬代 地域で何とか生活できるようにするのが農協の役割ですが、それには指導者が必要です。残念ながら農協の全国段階でも、かつての農協短大や中央協同組合学園のような教育機関がなく、県域でも協同組合学校などが廃止あるいは縮小されています。全国組織の連合会が、その利益の一部を出して、もう一度、教育機関をつくり直すべきだと考えます。
農林中金や共済連などの連合会があげた利益は組合員一人ひとりの汗の積み重ねです。組合員に還元しなければなりません。1844年にイギリスで誕生した「ロッチデール公正先駆者協同組合」は、四半期ごとに剰余金の10に2・5%を教育基金に充てていたといいます。お金がないからできないと言いますが、それくらいのお金はあるのです。やろうとしないだけです。教育はすぐに効果が出るものではない。1年ごとの積み重ねです。腰を据えて取り組まなければなりません。
島根県では、農協の新採用職員を中央会で預かり、教育しています。地区本部(旧JA)で2、3人程度ですが、交通事故に遭ったと思えと言って、無理やり集め、中央会に籍をおいて、3カ月半強制的に勉強させました。
農業のあるべき姿を
村田 営農指導のTAC(タック)はありますが、地域をどう再生するか、地域全体をいかに再生するのかという大きなプランをもち、マネジメントできる指導者が求められています。いまこそ農協陣営は農協人の教育を再生させなければならないですね。
萬代 そのためには、農協の司令塔である全中の指導力が必要です。今回、貯金保険機構の掛け金凍結について、我々新世紀JA研究会が中心になって政府に働きかけ、掛け金の引き下げに風穴を開けることができましたが、全中には、教育活動も含めてこうした運動についても、もっと積極的にリーダーシップを発揮してほしいですね。
一般社団法人になって、国による法的な規制がなくなったのですから、もっと自由に運動体として農協をまとめ、農業のあるべき方向を示すべきだと思います。
村田 いま、農協は職員の採用で四苦八苦しています。広島県の農協で、「神楽」をやりたいという応募者がいました。そのためには地元に残りたい。農協に就職したいということでした。こうした若者を生かし、農協は農村文化を守ってほしいですね。
萬代 かつては行政が責任をもって、地域文化を守るための手間も金もかけました。いまこそ、農協が行政とタイアップして、地域を守る運動をしないと、本当に農村も農村文化もだめになります。
村田 愛媛県の東宇和農協で1泊2日の初任者教育の講師の経験があります。受講生に提出してもらったレポートでは、協同組合運動の歴史についての講義は難しかったが、各職場に散っていた同期が集まって話し合えたのがよかったという声が多く聞かれました。
萬代 そうなんです。専門職セミナーはあっても、今の職員には仲間意識を育てるそうした機会がなくなっています。なぜこんなことに気がつかないのか不思議です。それに研修をみても農林中金は金融、全共連は共済と、専門化しており、農業や協同組合の価値などについてはあまり教えません。10年、20年経った職員に聞くと、わずか10日ばかりの農業体験でも、それが一番印象に残っていると言います。現場での農作業も含め、もっと教育にお金を使うべきです。
我々の先人は理念、目的があって協同組合をつくってきました。途中で環境が変わって変な方向へ行くような場合は、協同組合の原点に即し、自信をもって正す指導者が必要です。
村田 農協は 1県1JAで、いよいよ真価が問われますね。
萬代 指導者がしっかりしないといけませんね、私は米と養豚の専業農家をやりながら、地域をよくするためには、政治的にも力をつけないとだめだと考え、そのための資金を確保するため会社を興すとともに、地域をよくするため農協や市、県の役員や議員をめざし、仲間で役割を分担しました。この思いは概ね実現し、多くの仲間が農協や市のリーダーとして活躍しています。
我々のこうした思いは今も続いていますが、時代が変わり、原点が分からない人が増え、進むべき方向を見失っているのが現状だと思います。もともと都道府県で協同組合の学校があって、きちんと教育してきたのですが、それがいま、ほとんどなくなりました。いまからでも教育にお金をかけ、基礎から教育をやり直さないと農協は本当にだめになります。
私と私の仲間は、思いを実現するため会社をつくりましたが、会社経営はゼロからスタートです。家や土地を担保に入れ、失敗したら夜逃げです。しかし、農協の役員はかなりの人が、いわゆる雇われ組合長の感覚で、緊張感に乏しいように感じます。自力で株式会社の社長になった人とは、経営に対する姿勢が違います。
村田 トップにも経営教育が必要ですね。1980(平成3)年のICA(国際協同組合同盟)のモスクワ大会の「レイドロー報告」は、日本の総合農協を高く評価しました。その評価に応えるためにも、協同組合教育が重要であることを改めて感じました。
萬代 日本の農協はこれからが頑張りどころです。特にJA全中はその先頭に立って頑張っていただきたい。
対談:萬代宣雄JAしまね元組合長×村田武九大名誉教授 「協同組合教育 高まる重要性」(1)
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