JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【特集:今こそ我らJAの出番】おらほの農協めざせ――信頼と実践を原動力に 相馬村農協(青森県)理事 田澤俊則氏2020年12月24日
今、世界は、未曾有の新型コロナウイルスに感染されている。政治家やマスコミは、経済優先か、命を優先かを議論しているが、命あっての経済であること、経済支援よりも命・医療支援優先であることは明白。自分が感染しなければ関心が低いという自分中心の利己心の風潮は、あきれるのを越して怒りすら覚える。そんな中、利他心を持って地域で農協運動を実践している農協人に会うと、尊敬の念とともに、多くの人に紹介・高く評価し、その農協運動の輪を広げなければとの使命感を覚える。今回は、日本一のリンゴ農協の評価も高い青森県の相馬村農協理事の田澤俊則氏を訪ねた。(取材・構成:十和田おいらせ農協理事 小林光浩)
自分のリンゴ園での田澤俊則氏
全国的に評価高いリンゴ販売農協
青森県相馬村は2006(平成18)年2月、弘前市・岩木町との市町村合併で廃止され、今は弘前市である。一方の相馬村農協は、弘前市に本店を置く広域合併農協「つがる弘前農協」へは参加せずに地域農協として存続、全国的に「リンゴ販売農協」の評価が高い。
その相馬村農協は、正組合員戸数498戸、職員数39人(うち営農指導員5人)、当期販売高37億円のうち、36億円がリンゴ販売高である(19(令和元)年度)。
田澤俊則氏は、その農協でリンゴ販売担当者、リンゴ課長、リンゴ販売本部長、総務部長を務めた。常にリンゴ販売農協づくりの中心であった。そのことが高く評価されて第34回 (2012年度) 農協人文化賞を受賞したのである。
彼のリンゴ園は農協の大型リンゴ設備の隣にある。手入れが行き届いた「わい化栽培」の整然とした園地は、集落の中心の基幹道路に面し、多くの農家組合員が見る場所にあるため、まるでモデル・リンゴ園のようである。実際も、リンゴ栽培指導の青空教室などにおいての営農指導の園地として活用されている。
1957(昭和32)年11月生まれの田澤氏は、総務部長であった50歳の時、自らが進めた早期退職制度によって農協を退職し、後進に道を譲って農協の活性化を図った。その後は、家業のリンゴ農家として高品質リンゴ栽培に取り組むとともに、農協理事や地域の責任者として、現在はリンゴ産地づくりや地域づくりに活躍している。
3度の危機 その都度ステップアップ
田澤氏との会談で、先ずは「自分が実践した農協運動」を聞いた。多くの取り組みが話されたが、紙面の制約上3点に絞って紹介する。
結論から先に言うと、リンゴ販売において3度の大きな危機があったが、その危機の都度、農家組合員のためを考えた対策を企画して、組合長を先頭に全役職員が一丸となって取り組んだことが、農家組合員が「オラホ(自分たち)の農協だ」と意識するようになった。リンゴ販売高シェアは45%程度であったものが95%まで高まった。それだけではなく、組合員は「助けてくれた農協」を見ていて、そのことは役職員が進める信用事業や共済・購買事業への協力に表れ、利用率が高まり事業全体が大きく伸びたのである。
その3度の大きな危機とは、第1がリンゴ価格の大暴落である。高度経済成長時代までは、リンゴは作れば売れる時代であった。しかし、その後は消費者の嗜好(しこう)が変化し、高品質でおいしいリンゴを選択する時代となった。結果、当時主体であった品種「スターキング」の価格は、農家手取りが原箱1箱4000円程度の手取りであったものが1000円まで大暴落したのである。
リンゴ農家は再生産資金の確保どころではなく、生活できない状態となった。そこで農協では、新しい品種への品種更新を進めた。農協独自で苗木の80%助成を行った。その規模は3年間で1億円を超えるものであった。
飛馬印のリンゴで 日本一の銘柄化
年間150万本/1リットルを製造する農協加工所
第2の危機は1991(平成3)年9月の台風19号被害である。収穫前のリンゴはほぼ落下した。農家組合員の収入は無い。そこで農協がいち早く全役職員で取り組んだのは、落ちたリンゴの生食販売とジュース加工販売である。その時からの農協独自のリンゴジュース加工は、今ではリットル瓶入りが150万本も売れる人気商品となっている。こうした農業所得確保対策を実践したのである。さらには再生産資金の融資も行った。
第3の危機はリンゴの無登録農薬ダイホルタン(殺菌剤)問題である。農協ではこうした無登録農薬は取り扱っていないが、組合員の一部が業者から買って使用した結果、青森県のリンゴ全体が風評被害を受けた。該当者の農家組合員は数人であったが、そのリンゴをもぎとり処分した。そして、農協のリンゴは安全であることを証明し表明した。青森県下で一番早い対応に、市場等の高評価を得ることができたのである。
そして、第1の危機の後からは日本一のリンゴを目指してのブランド化を進めた。その頃は、ちょうどテレビアニメで巨人の星(第2弾)が人気。その主人公の名前「星飛雄馬」と、相馬農協との馬つながりから「飛馬(ひうま)」をブランド名・ロゴマークとし、飛馬印のリンゴの売り込みを大々的に進めた。
リンゴ生産者の農協女性部員(当時は婦人部員)と一緒に、北は北海道から南は名古屋の市場・量販店へ継続して売り込みを続けた。
その結果、苗木の8割助成による品種更新と、栽培技術のレベルアップ、選果基準の厳正化とともに農協一丸となった産地づくりによって、リンゴの評価(単価)は、目標とした青森県一には10年後、日本一には14、5年後に到達することができたのである。
そのことは、農家組合員の農業所得向上と地域経済の発展につながっている。
女性部・農協役職員が全国でりんご販売キャンペーン
今の農協界をどう見ているか
農協運動実践者である田澤氏は、今の農協界をどう見ているのかが気になった。自分の農協のことではなく、全国的な視点での農協に対する評価を聞いたら4点を指摘した。
第1の指摘は、役職員が「農協とは何か」「農業をどうするのか」を語れる人が少なくなったのが問題だと言う。それは、農協運動の本質を言い当てている。利他心の相互扶助の協同組合精神は意識改革と仲間づくりが基本である。その普及活動は共通認識づくりのための人と人とのコミュニケーションが重要となる。語ることが重要となる。
第2の指摘は、「危機意識の無い人がトップなのは農家組合員にとって不幸である」と言う。トップとなることが目的の自己顕示欲が強い人が組織のトップになれば、農家組合員の幸せを進める農協運動とは成りえない。競争組合はつくれても、協同組合はつくれない。そんなトップでは協同組合社会づくりは難しいことを指摘しているのである。
第3の指摘は、「農協の役職員は特定の人とばかり付き合うので、情報収集力に欠け、地域の問題についての現状認識力が弱い」と言う。地域における協同組合社会づくりを進めるためには、多くの組合員の声を聞く努力と、偏りのない情報収集力と、公平公正な現状認識力が農協人に求められるのである。
第4の指摘は、「地域が高齢化社会化している中、農協が何とかするとの問題意識が不足している」と言う。地域・農村が求める農協、存在意義となる重要な問題意識が高齢者に対しての農協事業のあり方である。地域での高齢者・経済的弱者の生活インフラとしての農協事業、地域の多くの人を巻き込んだ助け合い事業を確立することが強く求められる。
田澤氏が取り組んだ水田などの土地利用型農業を守るための一村一農場である「ライスロマンクラブ」の設置・運営、高齢者の生きがいと所得確保のために設置した農協農産物直売所「林檎(りんご)の森」等が高い地域の問題意識と改善方策の実践力によって実現した。
今後の農協のあり方を考える
最後に、今後の農協のあり方として、田澤氏が考える「良い農協」とはどんな姿であるのかを聞いた。その答えは、「おらほ(自分たち)の農協」だと組合員が思える農協であると言う。自分たちの農協だと言う意識を組合員が持てる農協をつくるためには、次の3点が重要だと付け加えた。
その第1は農家組合員の手取りを増やす(農業所得を増やす)取り組みを進めること。リンゴ販売のブランド化や農産物直売所などである。
第2は役職員の対応が良いこと。時間外だから対応できない、日曜日・休日だから付き合えない、と言う農協職員だと困る。組合員の満足度を高めるのは役職員の対応力である。
第3は組合員教育よりも役職員教育を優先すること。その教育内容は、世の中の状況把握力、組合員対応力、改革意識力、地域活動力を高めることである。
別れ際に、「貴方の後世への最大遺物は何ですか」と尋ねると、即座に「地域づくり、人づくりをしたい」と答えた。450年の奇習、地域おこし協力隊の責任者や相馬の沢田ろうそく祭の実行委員長などでも活躍する地域から愛される農協人である。
良い農協づくりは、こうした良い農協人によって実現されると確信した。農協職員はトップの後姿を見て育つ。トップは良い農協人でなければならないと強く認識した。
450年の奇習、相馬の沢田ろうそく祭
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