JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【特集:今こそ我らJAの出番】いまこそ農協の出番 生産者情報を発信 八木岡努 茨城県農協中央会会長2020年12月25日
JA茨城県中央会の八木岡努会長は、根っからの農家だ。大学卒業後、イチゴ栽培に取り組み、県内で先駆的な役割を果たした。JA青年部のバックアップでJAみとの理事、組合長になり、いまでは同県JAグループのトップとして、茨城県の農業をリードする。職員あがりの学経理事が増えている中で、たたきあげの農業者である八木岡会長の手腕に期待が大きい。(取材・構成:元ひたちなか農協専務・先崎千尋)
営農経済事業を重視
昨年6月に、61歳で茨城県農協中央会会長に就任した八木岡努さん(以下努さん)は水戸市中(なか)河内(がち)町にお住まい。水田100アール、畑270アールを経営している。東京農大短大を卒業し、イチゴ栽培を始め、最大で47アールを作っていた(現在は5アールに縮小)。一橋徳川家の当主宗親さんは努さんの農場でイチゴ栽培技術を学び、現在水戸市郊外で30アール作り、水戸農協のイチゴ部会長を務めている。他にも15人ほどが努さんのところで研修し、県北の各地に散らばっている。
プロ農家家系 青年部を経験
父親の貞(ただし)さんは水戸市農協理事や水戸市農業委員会長を務めた篤農家。一族に、日本一である茨城栗の栽培研究・指導のパイオニアだった八木岡新衛門がいる。
出身組合の水戸農協は水戸市など7市町村の農協が合併した広域農協。合併当初、農協の経営は厳しく、その対策として、大幅な支店の統廃合や職員の早期退職制度の導入を図った。
当時、努さんは同農協の青年部委員長。1戸で農業従事者が複数いれば、すべて組合員になるという複数組合員制の導入を進めていた。しかし当時、農協の経営が厳しかったことから信用共済部門に重点が置かれ、青年層の「営農経済事業に力を入れてほしい」という声が経営層に届かなかった。それなら青年部から理事にという声が上がり、努さんが理事になった。47歳だった。
次には、青年部の代表を常勤理事としてという声が強くなり、努さんは2012年に組合長に就任した。農協としての特色を出すために、営農経済事業に力を入れ、水戸らしさ、水戸ブランドを確立しようと努力した。生産部会活動を活発化させ、現在では直売所が8、スーパーなどへのインショップが17もあり、きめ細かな展開で小規模農家の売り先を確保しており、消費者からも喜ばれている。
昨年6月には県農協中央会会長に選ばれ、茨城県の農業を牽引(けんいん)する位置に立った。
誇れる農業産出額
茨城県の農業産出額は約4500億円と北海道、鹿児島県に次いで全国第3位。カンショ、メロン、ピーマン、干し芋など日本一が13品目もあり、3位まで含めると29にもなる。しかし、農地面積や可住地面積、首都圏に隣接していることなどを考えると、茨城県のノビシロはまだまだある。しかも、農協の取扱額(シェア)は全国平均で50%を超えているのに、茨城はその半分しかない。米で約2割、野菜で5割くらいだ。
農協以外の任意組合や市場に直接出荷する農家も多く、農協の指導も行きにくい。メロンで例えれば、隣接しているのに旭のメロン、鉾田のメロン、茨城町のメロンと、茨城県のメロンになっていない。「『水戸ブランド』と同じように『茨城ブランド』の確立が急務」と努さんは言う。
農産物に付加価値を付けて売る加工場も同じ。「農協間協同の力で生産販売ができるように持っていきたい、今でもできることは、それぞれの直売所などで他の農協の農産物や加工品を販売すること。一部では手掛けている」。茨城県は畑作が多いので、小麦や大豆などでも一緒にやれば特徴が出せるし、ブランド化もできる。
農業産出額全国3位を誇る茨城のキャベツ
篤農技術を平準化
後継者の育成 農協サポート
「茨城県は県域が広すぎることもあり、現在17の農協がある。ブランド化には入り口(生産、集荷)と出口(販売ルートなど)の統一、共同化が大事。事業連携なら合併しなくともできる。大学や企業などと連携し、それぞれの長所を生かした商品開発や販売ルートを模索することも今後は必要だと考える」という。
また、「今後課題となる物流については、全農が中心になり、ハブ機能を持つ青果物集出荷施設を設置したい。茨城は港がいくつもあるので有利だ」と努さんは強調する。さらに、学校給食への地域産自給率の向上を図ることも大事だと言う。
日本全体では食料自給率の維持すら困難だが、後継者の育成が急務。農業の経営を第三者に移譲するなども農協ならできる。水戸農協ではアグリサポートという別会社を作り、農作業の手伝い、ライスセンターの運用などをやっている。農業技術の継承も難しくなってきている。世襲では無理なので、農協が篤農家の技術を地域で広め、高位水準化を図る。
努さんは最後に、「農協は情報発信が下手。ウェブ等も活用し、販売先や消費者に生産者のナマの情報をどんどん発信していく」と農協の新しい進路を熱っぽく話してくれた。
【取材後記】
私は1972年から9年間、水戸市農協で広報や公共用地対策、農協会館の建設などを担当し、水戸農協になってから営農経済部門のコンサルで渡里など4直売所の立ち上げに関わった。徳川慶喜の孫にあたる幹子さんの家にも何度も伺い、開拓の苦労話などを聞いている。ホームグラウンドでの取材。旧知である努さんとの会話も弾んだ。
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