JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【特集:今こそ我らJAの出番】農の宝あふるる柳川の贈り物 新谷一廣 JA柳川代表理事組合長に聞く 元気な地域農業をめざして 福岡県の取り組み(3)2021年1月4日
JA柳川が管内とする柳川市は、「水郷(すいきょう)柳川」(柳川に生まれた北原白秋が水郷(すいきょう)と呼んだことにちなむ)で有名である。広大な筑後平野の西南端にあって、筑後川と矢部川に挟まれ、有明海に面した平たん地で、クリークが縦横にめぐらされた肥沃(ひよく)な水田3850ヘクタールで、温暖多雨な気候を生かした土地利用型農業と施設園芸を複合した農業が展開されている。水稲1850ヘクタール、小麦2800ヘクタール、大豆1400ヘクタールの普通作に加えて、施設園芸を中心にナス、イチゴ、アスパラガス、トマト、オクラ、さらにブドウ、イチジクなど果樹栽培があって、JAの農産物販売額は52億円にのぼる。新谷一廣代表理事組合長(65)にインタビューした。
JA柳川のシンボルマーク「センドくん」
――水田利用率132.7%という高い数値には驚いています。大型カントリーエレベーターの近くの水田では、小麦播種が行われていました。この高い水田利用率の理由はどこにありますか。
集落営農を振興
JA柳川の現在の組合員数は1万0759人、うち正組合員数は6170人(個人6140、法人30)です。従来から土地利用型農業が中心でしたが、集落営農、当JAでは「営農組合」と呼んでいますが、それを組織する大きなきっかけになったのは、2007(平成19)年度から実施された品目横断的経営安定対策です。
認定農業者4ヘクタール以上、集落営農(特定農業団体)20ヘクタール以上の経営面積が対象という要件でしたから、要件をクリアするために集落営農育成を始め、水稲を中心に大豆、麦類のブロックローテーションに取り組みました。営農組合数32組織(うち法人化が24組織)を数えます。管内3850ヘクタールの水田の7割近くは、営農組合が集積しています。
転作作物は大豆が中心です。従って、大豆作付けは県内で常に3位以内で、大豆加工品として開発した大豆を利用したマヨネーズ風ドレッシング「まめマヨ」は、日本農業新聞主催の「一村逸品大勝」を受賞し、商標品登録もしています。
また、伝統的な水田二毛作を維持するために、裏作の麦については、60キロ2500円の交付金のある硬質小麦(ミナミノカオリ)の作付けを推奨しています。
さらに、集落営農の機械共同利用の推進に加えて、集出荷施設についての共同利用施設の再編を生かした生産販売体制の構築をめざして、カントリーエレベーターの統廃合を進めてきました、2017(平成29)年には総事業費36億円をかけて南部地区カントリーエレベーターを建設しました。これは、四つのカントリーエレベーターと一つの大豆乾燥調製施設の機能を再編統合したもので、保管能力は1万トンで、都府県では最大級の規模を誇ります。
カントリーの荷受け情報を携帯電話で受け取れる「メッセージ配信システム」で生産者の出荷調整を行い、軽量「メッシュコンテナ」で収穫米麦・大豆を運んできたトラックをそのまま計量できる「トラックスケール」、さらに「回転リフト」を導入して、以前の半分の時間や作業量で荷降しできるようになりました。
水田農業を柱に
――そうした努力のなかで、土地利用型農業と野菜など高収益型農業で、JAの販売高の9割以上を占めることになっているのですね。ところで、今年度は新型コロナウイリスまん延の影響で主食用米が過剰になり価格が低下しています。来年度産主食用米の生産目標数量は相当下がることが予測されます。今後の柳川水田農業の方向をどう構想されますか。
まず、こういう時にこそ、政府の備蓄米在庫は150万トンに増やすなどの対応が求められます。農相は「価格の下支えなどを目的に国が買い上げるのは制度の趣旨にそぐわない」と否定していますが、新型コロナ禍は予期せぬ災害であって、そんなことを言っている場合ではありません。食糧法の正式名称は「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」であって、国が主体的に需給と価格の安定化を図るというのが基本です。こういう時にこそ国が前面に出て主食用米の需給の安定化に全力をあげるべきです。
そして、私は、米の消費が毎年約10万トン減少していることに危惧しています。いかに、日本人の「米離れ」を回避していくのか、古来からの「日本型食生活」が健康寿命に大きく貢献していることを、国民に啓蒙していくことも重要なことと思います。
そのうえで、JA柳川は、伝統的な水田二毛作と大豆を中心に水田利用率の向上を図ることを基本に農業者の所得増大を図りたいと考えています。
対話活動に期待
――組合員との対話活動を重視されていますが、どのような意見が多いですか。
多くの意見が出されますが、まとめますと以下に絞られます。
▽「収量の増大」につながる営農指導の強化
▽柳川独自で行っている土壌改良材の散布助成のさらなる拡充
▽JAでの大型農機免許取得への無料講習はありがたい
▽スマート農業の取り組み強化をしてほしい
▽メール配信やSNSなどによる中身の濃い情報はありがたい。これからも多面的に多数発信してほしい
▽職員教育を徹底し専門的知識を持ったプロ職員の育成をお願いしたい
今後は、この実践に向けて具体的な議論をしていきたいと考えています。
――本年度開講された「組合員大学」の受講生はまじめで積極的と感じますが、手応えはどうですか。また、准組合員向けに「広報誌」を発行されていますね。反応はどうですか。
本年度より、将来のJAを担う次世代のリーダー育成のため組合員大学を始めました。協同組合を一から学んだ組合員は、「なんでJAが必要なのか初めてわかった」「身近にJAを感じた」「もっと他の地域のことも知りたい」など、積極的な意見が多く、手ごたえを感じています。2期生の募集や、今の受講生の次のステップなど継続したJAとの関係強化について検討をしています。
昨年度末に、初めて准組合員向け広報誌を発行しました。融資の関係で准組合員になられた人からは、「JAが身近に感じられた」「金融以外でもJAをもっと利用したい」「中身がわかりやすくJAを身近に感じた」などのご意見が寄せられました。また、正組合員から農業をリタイヤし土地持ち非農家の准組合員となった方々からは、「JAが引き続きよくやっている」「いろんな情報がもっとほしい」と喜ばれています。
地域との共生掲げ
――柳川を魅力的な都市にしているのは、「水郷(すいきょう)柳川」の存在です。その保全には、周辺の水田農業あってこそのものと考えられます。都市化によって水田が消えてしまっては「水郷」はその価値を半減させます。そういう意味で、JA柳川が経営理念として掲げられている「地域とともに歩む」は、たいへん意味深いですね。
農業が環境の保全や、美しい景観の維持など多面的な機能を持ち、水田は水資源の涵養と緑地保全に寄与していることは常識です。この環境を将来に引き継ぐために水田農業の維持・継続が不可欠だと考えています。
「水郷(すいごう)柳川(やながわ)」には観光のイメージが強いと思われがちですが、近年の度重なる豪雨で被害を受けないのは、掘り割りや水田によるダム機能の発揮や農業者による献身的な用排水ポンプ管理によるもので、農業は観光地「水郷柳川」を支える大切な産業であることを広くPRし、行政との関係も強化したいと思います。
100万人を超える観光客に対するJA柳川特産物の販売については、6次化商品による販売拡大と、JA柳川農産物キャラクター『センドくん』を活用し観光客を含め全国の消費者に向けたPR強化を考えていますし、新たなJA直売所の設置を模索していきます。キャッチフレーズ「農の宝あふるる柳川の贈り物」で農業の展開を考える毎日です。少し、大げさに言えば、国連が世界の国々に呼びかけて実施している持続可能な開発目標(SDGs)17項目のいくつかに貢献していると思っています。
JA柳川は、6JAが30年前に合併し、その後行政も15年前に合併し、1JA1行政が実現しました。「地域とともに歩むJA柳川」を経営理念にかかげる農協として今後とも行政・漁協・商工会議所などと柳川の発展のため、全力を尽くします。
水郷めぐりの船頭さんを、生きのいい新鮮な農産物で表現。緑は新鮮さ、赤は健康、青はみずを、自然や豊かな水郷柳川の農産物を表しています。
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