JAの活動:2021持続可能な社会を目指して 今こそ我らJAの出番
【特集:今こそ我らJAの出番】人を育て創造的改革を(1)JA太田市・天笠淳家組合長 JA栃木女性会・猪野正子会長 (司会・進行)・大金義昭氏2021年1月7日
JAグループの組織を挙げた「創造的自己改革」で何がどう変わり、何が変わらなかったのか。それに対してJAの役職員や組合員、青年・女性組織は、「食と農を機軸として地域に根ざした協同組合」の新しい地平を切り開くために何をすべきか。JA全青協(全国農協青年組織協議会)の元会長で、現在群馬県JA太田市代表理事組合長の天笠淳家氏とJA栃木女性会会長の猪野正子氏が、JAについて新春の抱負を語る。(司会・進行は文芸アナリストの大金義昭氏)
【出席者】
群馬県・JA太田市 天笠淳家組合長 (写真中央)
栃木県・JA栃木女性会 猪野正子会長 (写真右)
(司会・進行) 文芸アナリスト 大金義昭氏 (写真左)
【きっかけ】
農家のため前面に 天笠
地域や家族見据え 猪野
――自己紹介も兼ねて、お二人の暮らしと経営についてお話しいただけますか。
天笠 2015(平成27)年にJA全青協会長を務め、17年に農協の副組合長に就任しました。「JA自己改革」実践の期間と重なります。政府の「農協改革」には、いろいろ疑問や憤りもありましたが、全国には当時650を超す単位農協がありました。もし、これがなくなったら私たち農業者はどこを頼ったらいいのでしょうか。困ったときに助けてくれる組織が農協ですからね。
私は農協が大好きです。政府・規制改革会議の動きからみて、農協はもっと農家のためになる組織に改革しないと、さらに標的にされると思い、家族と話して農協の常勤役員に出ることを決意し、2019(令和元)年に組合長に立候補しました。
トップとして最初に考えたのは、職員の意識改革でした。農協は総合事業を行っていますが、事業は縦割りで、経済や信用・共済など農協の事業のすべてに通じている人が少なく、職員の意識レベルも決して高くはありませんでした。
それではだめだと考え、総合事業の知識を身につけるために、アフター・ファイブ・スクールを開きました。
組合員との対話に必要な「引き出し」をできるだけ増やそうというものです。月に2回、午後5時半から開催し、定員30人ですが、多くの職員が参加を望んでいます。
――地域の中核農家として、生産現場の現状はいかがですか。
天笠 高齢化や担い手不足により、農家のリタイアが増えていますね。世代交代が進み、「農業をやめるので田んぼを引き受けてくれないか」という農家が増え、中核的な農家に農地が集まっています。品目横断的経営安定対策で4ha以上の面積をまとめることが必要になって小麦生産が減り、水田農業で稼ごうという意欲が一気に下がったように思います。
わが家の経営は常時雇用3人で、主食用米が25ha、WCS(発酵飼料稲)が8ha、備蓄米7ha、小麦15ha、食用大麦8haの規模です。受託面積が毎年1、2ha増えているので、5~10年後には、3人の労力では対応できず、経営転換も考えなければならなくなります。
農地の多面的な機能を維持することは大切ですが、それを預かって維持するのは難しくなっています。水田の多面的な機能を維持するためには、消費者の皆さんの理解と支援を得る仕組みが欠かせません。
猪野 私は、日本一のイチゴ産地、二宮尊徳にゆかりのある真岡市に住んでいます。長女の出産を機に勤めをやめ、夫の両親と私たち夫婦で米麦、イチゴの経営を続けてきました。1989(平成元)年に地域の土地改良が進み、少しずつ農地を預かるようになり、土地利用型農業として経営を拡大してきました。地域の皆さんにとって、当時3世代そろって農業をしていることが、農地を預けるには安心だったのでしょうね。
1999(平成11)年に夫婦、その後、県の農業大学校を卒業して就農した息子と親子で家族経営協定を結び、経営に対する位置づけを対等にしました。また認定農業者として3者共同申請して共に責任ある立場になりました。3年前、息子に経営移譲しましたが、夫は息子を後継者としてうまく育てたと思っています。経営を移譲するには、任せる勇気が必要です。
40aのイチゴは私の担当ですが、前シーズンから娘が手伝ってくれ、技術を引き継いてくれています。水田は主食用米65ha、飼料用米14ha、納豆用大豆18ha、小麦37haのほかソバなど、延べ188haの規模です。私の住む地域には、およそ1000haの農地があり、受託を始めたころ夫が、やがて100haくらいにはなるだろうと話していましたが、予想をはるかに超えました。
――経営は大型でも、猪野さんのところは「家族農業」の延長と見て良いのですか。
猪野 省力化という点では、企業的な経営も大事ですが、問題は農業に対する考え方や心の持ち方にあると思います。企業はもうからないと地域から出ていきますが、私たちの場合は自分たちが住む地域の農地や環境を守るためにどのような経営が良いかについて、家族が一緒になって考え、話し合っています。それが家族農業の優れたところです。
【組織活動】
「思いを形に」実践 天笠
出会いが気づきに 猪野
――なるほどね。お二人とも青年・女性組織と、それぞれに組織活動を通して農協を支えてきました。その経験から何を得ましたか。
天笠 青年部の都道府県委員長は地域の仲間の意見を「聞く」立場にあるのですが、全国組織では委員長や会長が集まると、お互いに悩みを打ち明け、問題意識を共有できます。
悩みはさまざまで、それを取りまとめようと作成したのが2013(平成25)年から取り組んだ青年部の政策提言集「ポリシーブック」です。
盟友が少なくなり、このままだと青年部のような小さな組織の意見が通らなくなるだろうという危機感もありました。ポリシーブックに基づき、青年部自らできることを実践し、JAや国にも働きかけようとしたのです。
ポリシーブックは、全国の盟友が一丸となって自分たちの主張ができるツールであり、盟友自身にとっても大きな財産なのです。「思いを言葉に、言葉を形に」したもので、農政をも動かす礎(いしづえ)をつくり上げることができたと思っています。
たくさんの仲間を得たことも、青年部活動の財産の一つです。普通に農業だけをしていたら、日本の農業や農協がどのような問題を抱えているのか、知ることは出来ませんでした。青年部時代に培った10年来の仲間と共に、農業や農村の重要性を訴え続けることができるのです。
――ポリシーブックは自らのスキルアップに役立ち、同時に自分たちの要求に基づく政策づくりに道筋をつける「金字塔」を打ち立てたということですか。
天笠 政策課題で大きかったのが、いわゆる「農協改革」でした。農協はなぜここまで攻撃されなければならないのかという憤りもありましたが、マイナス金利などで農協の経営危機が到来することが八分通り分かっていても、連合会や国がいずれどうにかしてくれるだろうと楽観視していた組合長が少なくなかったことも疑問に思いました。
猪野 地域の若妻会からスタートした女性会活動を振り返ると、農協祭りの女性会食堂で組合員さんと触れ合い、先輩方から受け継いだ郷土料理、地産地消、共同購入、地域貢献、JA参画などの会員・役員として、その時々の立場でたくさんの気づきや学びがあり、また小さな活動を積み重ねて、組織や農協の役割を体得しました。
さらに全国フレミズ実行委員長の任務や、家の光大会全国最優秀賞受賞などの経験は、全国の仲間の元気なパワーを受け止める貴重な機会となり、ものの見方や考え方で大きな刺激を受けました。その時々の小さな「点」の出会いが、「線」や「面」や「円(球)」となり、仲間の絆(きずな)も深まり、同志としての有言実行の活動になっています。私を育ててくれた組織への恩返しに、次に続く人を育てたいと思い、実践中です。場所が与えられれば、人は誰でも、その場所で輝くことができるのですから。
――人は一人では「置かれた場所」で花を咲かせることができない。点と点を結んで活動の輪を広げていく運動の理念は、お二人に共通していますね。農協運動には、人づくりが欠かせませんが。
天笠 職員には、常に組合員と「対話」するよう話しています。間もなくキャッシュレスの時代が到来し、農協の支所に足を運ぶ人の数は確実に減ります。職員が自ら組合員を訪問し、「御用聞き」に励んでほしい。
人を集めることがむずかしくなっても、こちらから組合員を訪ねることはできます。私自身もカントリーに人が集まっているときには、できるだけ顔を出すようにしたり、グランドゴルフの飛び入りをしたりするなど、日ごろから何げない会話を重ね、事業改革のヒントをいただいています。
――「現場・現物・現状」のいわゆる"三現主義"ですね。猪野さんは「人・組織・地域づくり」についてどのように考えてきましたか。
猪野 天笠さんの考え方や行動はすばらしいですね、「人・組織・地域づくり」で大切なことは、お互いが助け合い、仲間とともに力を合わせ「協同の力」を発揮し、地域でできることを考え、協力しながら実践することだと思います。そこに一人ひとりの達成感が生まれ、人も地域も輝きます。これが組織の団結力だと思います。
最近、農協の若い職員は、農家の人と話すのが苦手のようですが、それなら農家の方から声をかけて会話の機会をつくるようにしたいものですね。それをきっかけに自信が生まれ、「対話」ができるようになれば、何らかの新たな発見につながります。自ら積極的に情報発信し、「伝える」ことで初めて相手から反応があり、共通の理解が生まれます。
【意識改革】
「対話」からヒント 天笠
農家からの発信も 猪野
――ところで、天笠さんのアフター・ファイブ・スクールは、具体的にどんな取り組みなのですか。
天笠 農協の常勤役員になって、「これはおかしいな」と思ったことがあります。何か提案をすると、職員は出来ない理由を並べることは上手いのですが、肝心なことは「どうすれば出来るか」「どこまでなら出来るのか」という前向きの思考です。そんな職員の姿勢や組織のあり方を変えたかった。
農協の職員は地域に根ざし、歴史や文化・地域の伝統などを担う存在です。これは農協にしかない「強み」です。農協を連合会のような縦割りになりがちな組織にしてはならないと思っています。そのためには新人職員の教育が大事で、入組3年間が勝負です。3年間でしっかり教育する必要があります。
――「鉄は熱いうちに打て」ですね。
天笠 アフター・ファイブ・スクールは2018(平成30)年の秋から始めました。2週間に1回のペースで、組合長に就任してからは28回になります。午後5時半からですが、自主参加で残業代はつきません。最近のコロナ禍で交替制になった支所の職員から「開始時間に間に合わない」との強い要望があり、午後6時からのスタートにしました。
組合員との対話のツールになる農薬や害虫の話ができるようになるなど、意識改革の成果が出てきたと見ています。
また、入組15年前後の職員には、自分の考える事業改善や新しい事業についての提案を提出してもらっています。在職10年くらいになると、農協や農業について何らかのビジョンを持っているはずですから。最優秀の企画は、次年度の事業計画の柱の一つにしてきました。
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