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JAの活動:第67回JA全国青年大会特集号 持続可能な社会をめざして 切り拓け! 青年の力で

【エール 切り拓け 青年の力で】切り拓く力の源泉とその形 浜矩子 同志社大学大学院教授2021年2月15日

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今回、頂戴したお題が「切り拓け! 青年の力で」である。「ひらく」に開拓の「拓」の字を当てたのがいい。「開拓」を辞書で引けば、まず出て来るのが、「山野・荒地などを切り開いて田畑にすること」だ。農業者に何とふさわしいことか。次に来るのが、「新しい分野や領域、あるいは人の進路や人生・能力などを切り開くこと」だ。これは実に青年的だ。かくして、「切り拓け! 青年の力で」は、若き農業者への呼びかけとしてマッチ度が完璧なフレーズである。

浜矩子 同志社大学教授

浜矩子 同志社大学教授

若き農業者の力で何を切り「拓く」のか。それも、副題として示されている。それは、「持続可能な社会」である。

持続可能な社会とは、どのような社会か。これについては、いろいろな捉え方が考えられる。環境が良く保全されている社会。企業がその社会的責任を良くわきまえて行動している社会。経済活動の均衡が良く保たれている社会。医療・介護・教育などの社会インフラが良く整備されている社会。政治が国民への奉仕者として良く機能している社会。格差無き社会。貧困無き社会。誰も人権を侵害されない社会。恒久平和が貫かれている社会。誰もが幸せであれる社会。

さしあたり、これらのことが頭に浮かんだ。ほかにも多々あるだろう。だが、少なくとも、これらのいずれが欠けても、そのような社会の持続性はかなり危ういと考えるべきだろう。我々がどのように対応すれば、以上の諸側面を含む持続可能な社会を実現し、保持して行くことができるのだろう。若き農業者たちには、どのような力を発揮して、持続可能社会に向けての開拓を進めて頂く必要があるのだろうか。

そのような力の源泉となるべきものが一つあると思う。そして、そのような力が取るべき形もまた、一つあると思う。

他者のために 流す涙が力に

持続可能社会に向かう道を切り拓く力。その源泉となるべきものは何か。それは涙だと筆者は思う。人が他者のために流す涙だ。もらい泣きの涙である。

もらい泣きの涙には、2種類ある。感動のもらい泣きと共痛のもらい泣きである。感動のもらい泣きで流す涙は、他者の歓喜を分かち合う時に流す涙だ。共痛のもらい泣きで流す涙は、他者の痛みに思いを馳せる時に流す涙だ。共痛という言葉は辞書にはない。筆者の造語だ。「共に痛む」の意だとご理解頂ければ幸いである。

持続可能社会に向かって切り拓く人には、共痛のもらい泣きができる力が備わっていなければいけないのだと思う。他者の痛みが解らない人々には、持続可能社会は築けない。これは間違いないところだと思う。そして、若き農業者たちは、皆さん、共痛のもらい泣きができる方々だと確信する。

ちなみに、この共痛のもらい泣き力というイメージは、ある古典的書物にインスピレーションを得て形成したものである。その書物は『道徳感情論』だ。経済学の生みの親として位置づけられているアダム・スミスの著作である。スミスの代表作として幅広く知られているのは、『国富論』だ。だが、その論理的基盤となっているのは、『道徳感情論』なのである。その中で、スミス先生は、全ての人間が共感力を有していると言っている。他者の身になって考える。他者の事情をおもんばかる。それが出来るのが人間だ。『道徳感情論』の中で、スミス先生はこのように宣言している。

ここが前提になっているからこそ、先生は『国富論』の中で、かの有名な「見えざる手」という概念を持ち出しているのである。個々人がその欲するところをそれぞれ別個に追求していても、あたかも「見えざる手」に導かれているかのごとく、社会全体として良き方向に向かう。これが「見えざる手」論の考え方である。

このことをもって、スミス先生は新自由主義の旗手だ、市場至上主義者だ、と思われている方は少なくない。だが、これは誤解だ。「見えざる手」の背後には、先生が『道徳感情論』の中で提示した万人共通の共感力がある。人は他者に共感できる。他者の事情に思いを馳せて、自らの行動を律する。だから、放っておいても、良き方向に向かう。スミス先生はそう主張しているのである。持続可能社会に向かって、切り拓いて行く人々は、スミス先生のお眼鏡にかなう人々だ。

とるべき形は協同組合型社民主義

切り拓く力が取るべき形に移ろう。端的に言って、その形は協同組合型社会民主主義なのだと思う。決して決して、これは農業協同組合さんへの「忖度(そんたく)」のなせるわざではない。この点についても、やはり、一冊の本が筆者にインスピレーションを与えてくれた。『道徳感情論』も『国富論』も古典だが、こちらの本はそうではない。オックスフォード大学教授、ポール・コリア―氏の近著『新・資本主義論』である。2018年に原書が刊行され、2020年9月に邦訳が出ている(白水社刊)。

著者によれば、かつて、資本主義は社会民主主義に救われていた。かつての社民主義は、その土台に共生と共感の感性があった。共生と共感が生み出した協同組合主義が相互扶助の輪を生み出した。この輪が、資本主義の狂暴な排除の論理から人々を守っていた。

ところが、今日、社民主義は地に落ちている。左右両翼からの挟み撃ちに会って、社民主義を掲げる中道政治が仮死状態に陥っている。この中道政治をどう蘇生するか。本書はそれを追究している。

社民主義を共生と共感の響き合いの世界から引きずり出してしまったのが、理念先行で自分たちの「慧眼(えげん)」に酔いしれる「社会的父権主義」者たちだ。彼らの思い込みとエリート主義と独断専行が、社民主義の弱者救済力を破壊した。

社民主義の蘇生の鍵となる要素が二つある。その一が倫理性(ethics)、その二が実用主義(pragmatism)だ。今日的資本主義にこの二つの要素を埋め込むことによって、社民主義の蘇生手術を成功させよう。著者はそう提言している。そして、蘇生成った社民主義を「社会的母権主義」と命名している。素晴らしい。

母性には限りなく高い倫理性がある。そして、母性は常に聡明な実用主義を発揮する。「社会的母権主義」が共生と共感の黄金ブレンドを復元させた時、そこに持続可能社会が出現する。

共痛のもらい泣きができる若き農業者たちよ、至高の倫理性と限りなき聡明さをもって、協同組合型社民主義の大復活を実現されたし。そのことによって、持続可能社会への道を敢然と切り拓かれたし。

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