JAの活動:第67回JA全国青年大会特集号 持続可能な社会をめざして 切り拓け! 青年の力で
【エール:切り拓け! 青年の力で】座談会「どうする これからの日本農業」(2)2021年2月16日
農協に何を期待するのか
――若い大規模農業者である皆さんが、地域での農業を頑張っていることに敬意を表します。しかし、個人の力だけでは限界があります。そこで、地域の農業者が集まって、農業を守り地域を守るための相互扶助の協同組合活動を進める農協の役割は大きいと思います。自分の農業経営において農協に望むもの、あるいは地域の農業振興において農協に期待することを語り合いたいと思います。
佐々木祐介氏/農作業中の
佐々木 農協に最も期待するのは農作業の人材確保です。農業ではどうしても大量に人手が欲しい時があります。そんな時に農協が労働力を貸してほしい。今、農協では外国人の研修生を確保していますが、コロナ禍のことや言葉の問題によるコミュニケーションがうまくできないこともあるので、できれば近場の人が2時間でも3時間でも来てくれるのであれば、当然にそれ相応の対価を払います。農協で人材派遣をお願いしたいです。農協は、農家が何時、何人の労働力を必要なのかを常に聞いて、その労働力の確保支援をしてほしいと願っています。個人での労働力確保には限界があります。
寺澤 自分は、先ず農業に関する最新の情報を常にほしいです。例えば、新しい農薬のこととか、農業資材のことなど、常に新しい営農情報を求めています。次には、個人では難しいのは、地域にいる若手農業者の情報です。そうした若い担い手を農協青年部の仲間にしたいし、勉強会や情報交換会などの交流の輪を広げたいので、ぜひとも農協で若手農業者の把握や発掘の手助けをしてほしい。そして、最も農協に望んでいるのは農業所得アップです。私が生産しているナガイモでは、消費者価格から見れば6割程度なので、農協の努力で農業者手取りの増加を最も望んでいます。
寺澤祐介氏/家族や従業員と共に
――そうですね。寺澤さんが言われたことは重要だと思います。集落座談会や日頃の交流などで農家組合員から「農協の手数料をもっと安くしてほしい」とよく言われます。当農協の共撰販売手数料は3%ですが、仮に農協手数料を半分にしたところで、農業所得が増えるのは1.5%だけです。消費者価格との比較では、その六掛けですから1.5%の60%で0.9%だけの所得アップ効果しかないことになります。
農協は市場流通での物流改革を進めるのはリスクと人件費・宣伝営業費などの農協コストは増えますが、そのことで農家手取りが増えるのであれば農協手数料を大幅にアップしても農家組合員の理解は得られると思います。
消費者への直接販売や量販店・レストランなどへの直接販売を進めて農家手取りを増やす農協による物流改革は大きなテーマです。その際、直接販売での最大リスクである代金回収を全国連が行うことや新たな市場開拓などの取り組みに対する全国連への手数料は必要コストだと理解してもらえると思います。
寺澤 今のような説明は初めて聞きました。もっと農家組合員に物流改革の重要性、そのためには農協の手数料増となっても農家手取りは増えることを説明し、具体的な物流改革案を示せば農業者は理解すると思います。
ぜひ農家手取り増の農協事業改革に期待します。もしも、農協の手数料が大幅に上がったとしても、農家手取りが今の消費者価格の6割が7割になるのであれば大いに賛成します。
東寛貴氏/自慢のニンニク
東 私は農協の存在意義が今は揺らいでいるのではないかと思っています。農協と農家組合員との関係で最も重要なのは信頼関係だと思います。信頼関係を築くためには、農協にとって都合が悪い情報でも組合員にはきちんと伝えなければなりません。農業者の所得アップにつながる情報や、個人の農業経営改善につながる情報・データを提供してほしい。
特に情報については、新しい野菜の情報、最新の農薬・肥料などの農業資材の情報・データ、新しい営農技術情報がほしい。肥料・農薬の使い方についての詳しい説明ができる農協職員を求めています。
先日、新規就農者と出会った時に、農協のことを知らなかったし、農協を使っていなかったと言われました。こんなことでは「農協は何のためにあるのか」と思う。農協の存在価値を考えざる得ない。そうではなくて、農協と一緒にやるからこそ「良い物が作れる」し、「農業所得がアップ」するし、「農業経営が安定する」という信頼関係を構築すべきだと思っています。
どうする これからの日本農業
――皆さんの農協に対する熱い思いを聞くことができて感謝します。最後に、この座談会のテーマである「どうする、これからの日本農業」について語り合いましょう。大きなテーマなので、自分が考えている日本農業のある姿でも話してください。
東 現状は農業者が減っています。高齢化も進んでいます。新しい農業者も思うように増えて来ていません。私が思うには、農業者の数自体が増えないと日本の未来はないと思っています。農業者を増やす取り組みを第一に考えるべきです。そのためには、問題点として「就農の敷居の高さ」があります。農地・農機・農業施設など、農業を始めるには事前の経営資源が必要だし、農業技術の習得も必要です。このことが大きな障害になっています。
また、収入の確保も必要です。農業の所得の低さがあります。そして、農業に対するイメージの悪さです。「所得が低い」「重労働」「休みが無い」などのネガティブな情報が多く伝わっています。このことが農業に踏み込めない大きな要因にもなっているとも考えられます。
私も子どもの頃に農作業の手伝いをしていたが、無償で小遣いもなくて、「手伝うのが当たり前だ」という感覚でした。すごく農業業は嫌だなと思って育ちました。でも実際は、「農業をやりたい」という思いを持って取り組めば、収入もちゃんとありますし、実に面白いし、楽しい暮らしができています。でも、この楽しさはやってみないと分からない事ことです。
寺澤 自分ができることでは、先ずは良い農産物を作って、誰が見ても「これは良い物だ」と言う技術を確立して維持していく。そのことによって農業所得を高めることで農業イメージを良い方向に変えていきたい。「稼いでいる農業者がいる」とか、「楽しいことをしている農家がいるな」というような存在に自分がなりたいと思っています。
自らが「農業者としての良いモデルになりたい」と思っています。そうした自分の姿を見てもらって、「自分も農業やりたいな」と言う人が少しでも増えることを望んでいます。
また、農業に興味がある人に対しては、農協青年部員の農業をやっている若者との交流ができるようマッチングする仕組みがあればいいと思っています。そのことによって農業に対するイメージは良い方へ変わるし、農業の敷居の高さが無くなると思います。
佐々木 農業のネガティブなイメージを変えなければならない思いは一緒です。特に、新しく農業をやる場合には、農業をやることよりも、農家の家に行かなければならないという認識の問題があるように思います。
そうしたイメージを変えるためには、農業を仕事として確立し、農業従業員として働くような仕組みづくりをしなければならないと考えています。その事が、私が10年以内に実現を目指している農業法人化です。
また、日本農業を考えると農業機械が高いと思います。日本の土地利用型農業は、米国などと違って、大型機械を使って大規模に効率よく農業する環境にはありません。現在、ようやく全農の低価格トラクターが提供されてきましたが、まだまだ不十分です。我々農業者の求めている声に対応できるような低価格の農業機械を提供してほしい思っています。その取り組みは、これからの日本農業を良い方向に変えていくものだと思っています。
もう一つは、深刻な現実問題として地域の農業者の嫁不足があります。農家に嫁に来る人がいないのが現実です。嫁として実家に入らなければならない、農村で生活しなければならないという障害が大きいと思います。嫁さんが農業者の所に来たいと思えるようなイメージアップがさらに重要だと思っています。
農家に限った話ではないけれども、若い農業者は若い女性との出会いの場が少ない。そして若い女性に農業の魅力を語る能力も身に付けなければなりません。農業の魅力を語れる農業者が増えて、そんな農業者に魅力を感じて嫁に来てくれるような日本農業でありたい願っています。
座談会の出席者。左から寺澤祐介氏、佐々木祐輔氏、東寛貴氏
まとめ
――どうもありがとうございました。農業のプロである若い農業者の皆さんが農協に求めているのは、「やる気に満ちたプロの農業者の求めに応えられる農業情報」であり、農業経営の参考となる経営情報・データであり、農業経営コンサルティングであり、農業所得アップを図るための農家手取りを増やす農協販売システムの構築であることを再認識しました。
そして、農協の存在意義が揺らいでいるのでは、農協と農家組合員との信頼関係が失われることへの危機意識を持ちました。農協にとって都合が悪い情報を組合員に隠すことなく、常に新しい情報、正しい情報を組合員へきちんと伝える努力を惜しまないこと、そして農協事業はどうあるべきかを組合員へ示して、組合員との話し合いから始めることが重要。その事が農協と組合員との信頼関係を再構築して農協の存在意義を高めるのだ、と彼らから改めて学ぶことができました。
こうした若い農業者が我が地域だけではなく、全国の全ての地域において農業を頑張っている姿、地域農業を守り振興し地域を守るために高い問題意識を持っている姿を想像します。この全国の若手農業者の存在は、「これからの日本の農業」の未来に明るい希望を持てるものだと思った今回の農協青年部による座談会でした。
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