JAの活動:特集
【特集:東京農業大学創立130周年】鼎談:農学の進化と実践重ね未来創造(2)2021年7月8日
自然科学を学ぶ(世田谷キャンパス)
21世紀型農業像 鮮明に
白石 研究交流で具体的な成果はどのようなものがありますか。また今の研究課題は何でしょうか。
新商品開発と共同研究
江口 一つの例が「えのき氷(R)」です。需要が少なくなる夏場のエノキタケの消費を伸ばすために開発された商品で、エノキタケをペースト状にして凍らせたものです。みそ汁やなべ物にそのまま入れて、いつでも簡単に食べられます。中野市のスーパーやコンビニエンスストアで定番の商品になっています。東京農大の森林総合科学科などとの共同研究の成果です。
現在、東京農大はJA全農などと包括連携協定を結んでいますが、中野市農協とも連携を強化し、こうした新商品の開発に努めたいと考えています。
いまエノキタケが抱えている大きな問題は突然変異の防止です。時々、エノキタケは突然変異し、子実体を形成しなかったり、傘をつくらなかったりする性質があります。東京農大では原因解明に努めていますが、残念ながら、そのメカニズムがいまだ解明されていません。
白石 東京農大が掲げる「農の縁から新たな豊かさを創造」や「食料危機を回避する新たな農業システム」の提案などはどのように考えていますか。
大型と家族農業の両立
江口 2019年の日本の食料自給率(カロリーベース)は38%と先進諸国の中では最も低く、自国の食料は自国で賄うという〝国消国産〟について真剣に考える時です。我々には、安全で安心、身体によく、鮮度のよい農産物を、将来にわたって安定して提供する責任があります。
こうした時代の要請を踏まえ、東京農大は新しい農業システムを考えていこうというものです。日本農業の特徴でもある比較的小規模な家族農業経営と、一方でこれから期待される大規模農業経営との両立を考えながら、農業技術面ではスマート農業やAIなどを導入し、生産者に寄り添った新しい技術で農業生産を支えていくことも必要です。また、消費の観点からは、農産物の新たな機能性を発見し、価値を高めると共に、生活習慣病を防ぐ食品を提案することも人々の健康や栄養を支えるという意味で重要でしょう。
さらに世界に目を向ければ、地球温暖化が深刻化する中で、地球環境を維持しながら、食料や水、エネルギーのあり方についても早急に考えなければなりません。また、開発途上国では栄養不足人口が増え続けており、こうした国々への農業技術の開発や支援により経済的自立を促すことも農学の重要な使命です。
こうした状況を踏まえ、農学をけん引してきた東京農大には、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に貢献する新たな農業システムのあり方を開拓する使命を背負っていると思っています。
園芸を学ぶ(厚木キャンパス)
革新的課題解決は現場で
白石 新型コロナウイルスのパンデミックにより世界全体では十分な食料供給はあっても、栄養不足人口の割合は9%に増大し、SDGsの第2目標「飢餓をゼロに」の実現の困難さが指摘されています。他方で地球温暖化・気候変動や大規模災害、生態系の破壊、海洋マイクロプラスチックの増加など課題山積で、国連の「家族農業の10年」(2019~28年)の取り組みが注目されています。このようなグローバルかつローカルな課題解決のために、東京農大は三つのキャンパスで、それぞれ地域の特徴を生かした教育研究をしています。
江口 東京農大は、北海道の網走から沖縄の宮古島(亜熱帯農場)まで、また地球上の山の上から森林、里山、都市、川、海までのフィールドがキャンパスです。その学び舎の一つが東京農大だと考えています。また連携協定は、国内では自治体、農協、企業、教育・研究機関などと132件あり、海外の大学・研究機関とは32カ国・地域、44校と結んでいます。現在建設中の国際センター(仮称)が国際交流・情報発信の拠点となり、地球全体をフィールドとして活躍することができます。
農協と連携 さらに深め
白石 オホーツクの網走寒冷地農場では地元の営農集団に加わり、農業機械・施設の共同利用、生産物販売などの共同経営を行っています。また沖縄の宮古島では現地のサトウキビやマンゴーの栽培などを支援しています。
望月 中野市農協では独自のきのこ品種の開発に取り組んでおり、四つの種苗登録、九つの技術特許、八つの商標登録を持っています。それも先輩諸氏や組合員のこれまでの努力のたまものです。東京農大初代学長の横井時敬先生が警鐘を鳴らした「農学栄えて農業滅ぶ」にならないよう地道な実践、理論構築を重ねて組合員の所得と生活の向上に努めていきます。
江口 SDGsに各国が貢献する最大の課題は、まず自国の農林水産業を維持していくことだと思っています。その上での農学の貢献は、農業技術の確立といった観点から過去の失敗や成功の事例を数値化することで、栽培技術を普遍的なものにしていく必要があります。それを国内だけでなく世界規模で展開することが東京農大ならではの大きな貢献だと考えています。
白石 東京農大、農協について、これからどこをめざすべきか。抱負を聞かせてください。
双方向研究の集積さらに
江口 農協は産地、地域、品目によってその在り方が異なります。農協組織でどのように働くか、学生は自分のキャリア戦略のなかで見ています。農協がもっと発展して、日本の農業をけん引し、学生が興味を持つ組織になっていただきたいですね。
また東京農大については「ニーズに対してシーズがある」というように、東京農大に行けば現場での悩みが解決できる、と言われるように研究の集積をさらに高めたい。そのためにも、農協の役職員や農家と意見交換して、大学から提案するとともに、現場からアドバイスもいただく、そういう関係を維持し、深めていきたいと考えています。
望月 中野市農協は生産販売事業中心の総合農協であり、各農業者の農業所得の持続的向上を主目的に園芸ときのこを両輪に、昨年度の農協販売額は290億円を達成し、農業振興と農業経営基盤の維持拡大に取り組んでいます。
園芸ときのこの生産者が、幅広いエビデンスのもとで、販売活動ができるよう、技術員は技術だけでなく販売の知識を持ち、販売担当者は技術の知識も身につけるように指導しています。信用・共済も含めて総合的知識を持った職員がこれから求められます。
SDGsの新領域創造を
江口 東京農大で学ぶことの意義は、SDGsの取り組みにつながる第一歩で、例えば、大学で学んだ技術を援用して家庭でプランター栽培をしてみるのもよい。小規模でも起業して食や農の豊かさを発信できる人材になることも農林漁業の支えです。私は東京農大でアントレプレナーシップ(ゼロから起業、就農する)教育を推進し、新たな農林水産業の価値を創造する学生を育成したいと思っています。
健康長寿の日本型食生活と総合農協などを直視
白石 江口学長は東京農大の創立130周年目の画期を迎え、農学系総合大学として改めて実学主義の堅実さ、フィールドに密着した教育研究の重要性を示され、農業者・農協・食品産業等の現場との双方向で成果を上げることが肝要であることを強調されました。
また望月組合長は、当農協の地域密着型かつ組合員や大学等との協働で全国トップクラスの個性ある産地ブランド品を作り上げてきたことが、消費者の信頼と共感を高めることにつながるという総合農協の姿を鮮明にされました。
東京農大の実学主義とその実績を継承し、今後は大学と農協・食品産業などが有機的に連結し、"健康長寿に向けた日本型食生活文化活動"と"生態系に配慮しつつ多様な家族農業を尊重する21世紀型農業経営づくり"を先導する新ビジョンと教育研究モデルが開発されることが望まれます。その先進事例として、中野市農協との連携による「日本型総合農協モデル」を国内外に広げて行くことを期待しています。
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