JAの活動:築こう人に優しい協同社会
【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】菅野孝志JA全中副会長にJA全国大会組織協議の要点を聞く――地域共生社会が鍵 持続、豊かさ、協同の役割 胸に(2)聞き手:田代洋一 横浜国立大学名誉教授2021年7月22日
田代洋一 横浜国立大学名誉教授
ポジティブ思考で目標は前向きに
田代 今回の政府の規制改革実施計画では、農協に対して農業所得の目標設定、KPI(業績評価指標)、それにもとづくPDCA(計画を立て実行する管理手法)などを求めています。しかし、あまりにそれに従うと自己改革の踏み車として自縄自縛に陥らないかと懸念しますが。
菅野 私が感じてきたのは3カ年計画などを作るまではみな本気なんですが、計画ができあがってしまうとそれを少し脇に置いて、実際の取り組みとずれがあったのではないかということです。
そのなかで農業者の所得増大と農業生産の拡大という目標を掲げたわけですが、これは本気になってやらなければだめだという機運は生んだと思っています。自分たちとして意識はしていなくてもKPI的な取り組みにつながってきたのではないか。
われわれは目標をこう立て、それに対してどれだけの実績を挙げたかということをチェックするというPDCAの取り組みは以前からやっていますから、そういうものに訓練されながら具体的な目標に向けて仕事を組み立て、組合員にもお願いするところはお願いするという取り組みを進めてきたということはあると思います。
私は目標は高く設定したいと考えています。そんな約束してできなかったときどうするのか、という意見がありますが、できるようにやればいいではないかと思います。ネガティブではなくポジティブに、できるように取り組みを積み重ねていく。それで3年間のなかで波があったとしても全体として右肩上がりになれば上昇トレンドを作ったといえます。そのなかで何が良くて何が悪かったのか、PDCAサイクルを回していく。それを組合員にも情報提供しながら関わってもらうということが必要ではないかと思います。
田代 少し高めのボールを投げることと、投げて終わりではなくキャッチボールをすることが大事だということですね。
農政運動についても再構築・強化するとありますが、政治に期待する政策についてはどう考えますか。
菅野 今回の食料・農業・農村基本計画では大規模農業だけでなく小規模、家族経営も位置づけましたが、やはりすべての人で地域が成り立っているのであって、その地域を崩壊させてはいけないという思いがわれわれにはあります。何も過剰な補助金を農家はもらっているわけではなく、地域で生活を営めるという政策を求めているということです。
当面の課題は主食用米の在庫が積み上がっていることですが、このままでは20~30haの経営体や家族農業など、これから核となってがんばってもらわなければいけない農家が下手をしたら経営を断念せざるを得ないというような、そんな政策ではだめです。そこは正してもらうという対応は大会議案とは別に今、政治に求めているということです。
准組の参画検証の時期
田代 さて、准組合員問題については、今回、一応政治的な決着がつきました。しかし、先のシミュレーションでも、10年後には准組合員が3分の2を占めることになります。そうなると、やはり制度的な位置づけの問題を避けて通れなくなるのではと思いますがいかがでしょうか。
菅野 現実的にはもう1回、准組合員とJAとの関わり方をセグメント化していく必要があると思います。十把一絡げで准組合員を捉えるのではなく、どういう層がJAとどういう関係にあるのかです。
昔から地域で暮らしJAからガスの供給などインフラも含めて利用している准組合員や、JA共済やJAバンクに魅力を感じて利用しているという人などを見ていくことによって、組織活動や事業に対する参画に、どういう関わり方がいいのかということを整理する必要があると思います。
そのなかで参画のあり方を提案したり、延長線として准組合員が3分の2を超えるなかで本当に正組合員だけで物事を決めていいのかということもあると思います。一つひとつ検証しながら検討に入っていく時期でないかと思っています。
心を養う大地があってこそ
田代 最後に、菅野副会長はJA全国大会が始まった1952年に生まれ、農協に入られた1970年は全国大会が生活基本構想を打ち出した年です。10年前は東日本大震災と原発事故。その前後に相次ぐJA合併も経験されてきました。そして今回は組織協議案取りまとめの委員長。農協とともに歩んできた心境を聞かせてもらえませんか。
菅野 減反政策が始まるなかで農協に入ったということになりますが、農協は学校も幼稚園もやろうと思えばできるし、勉強していくと何でもやろうとしている組合長さんがあちこちにいました。
そのなかで自分たちの農協もいい農協にしたいし、できるのではないかという思いで仕事をしてきましたし、学ぶという姿勢を常に失いたくないと考えてきました。
いつも思っているのは豊かな大地は豊かな心を養ってくれるということです。豊かな大地とは荒廃していない田畑です。農業の生産力が維持されれば大それたことはできなくてもその地域は輝き続けられるのではないか。それを守ることがわれわれの仕事ではないか。そうありたいという思いは二十歳ごろから変わっていません。
田代 ありがとうございました。
【インタビューを終えて】
第29回大会組織協議案は、中長期(10年程度)の課題の整理や方向づけと、ここ3年のそれの両方が打ち出されていて、わかりずらい面がある。その辺を中心にJAグループ改革推進専門委員会の長である菅野副会長にわかりやすご説明いただいた。これを一つの機に、困難の中での組織討議がより実り豊かなものになることを期待したい。改めて菅野さんの柔軟さと目配りの良さを感じたが、その背景には、実に多様な作目に取り組む果樹水田複合地帯という風土が生きているのかなとふと思った。(田代)
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