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JAの活動:築こう人に優しい協同社会

【乗り越えようコロナ禍 築こう人に優しい協同社会】対談:厚生連病院の思い 人を助け命を守る 地域と共に(1)2021年7月23日

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新型コロナウイルス感染症は再び全国で拡大し、医療関係者の懸命な対応が続けられている。昨年冬からのわが国での感染拡大の最前線に立ってきたのは実は全国のJA厚生連病院で、国内第1例を受け入れたのはJA神奈川県厚生連相模原協同病院である。井關治和院長とJA全厚連の中村純誠理事長に命と地域を守る「JAの病院」の奮闘と厚生連事業がめざすことなどを語り合ってもらった。

井關治和JA神奈川県厚生連相模原協同病院病院長
中村純誠JA全厚連理事長
司会・進行:根岸久子JCA客員研究員

持続性は一体感から

井關治和JA神奈川県厚生連相模原協同病院病院長井關治和
JA神奈川県
厚生連相模原協同病院病院長

根岸 今日は日本で初めての新型コロナウイルス感染症患者に対応し、その後、大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の患者を受け入れるという新型コロナウイルス感染症対応の最前線に立ってきた相模原協同病院の井關院長にお話しをお伺いします。まずは直面した課題などお話しいただけますか。

井關 新型コロナウイルス感染症への対応に正解はないというのが課題と申しますか苦労した点です。

第1例は昨年1月10日でしたが、その前から中国で少し怪しい肺炎が発生しているらしいという話は知っていました。しかもその日の朝、ワールドニュースで中国が武漢発の新型コロナウイルス感染症を報じていましたから、院長メッセージで全職員に情報を発信し、N95マスクのチェックなど対応するように指示をしていました。しかし、まさかその日に当院に国内第1例の患者が来院するとは思っていませんでした。

第1例を受け入れるにあたり最悪のことを考え空気感染対応をするよう指示しました。当院は感染症指定医療機関であり設備は整っていましたので、直接、感染症病棟に入院させて一般患者と導線を分けました。幸い翌週には患者さんの状態が落ち着き退院となりました。結果的にですが、クルーズ船の患者受け入れまで半月ほどあったことから、この経験を機に、今度患者が来たらどうするかを話し合うことができ以降の新型コロナ対応に役立ちました。

その後、昨年3月から新型コロナウイルス感染症が拡大していきますが、心がけたのは情報を迅速に収集すること、そして、その情報を共有することです。私もほとんど毎日感染対策室に詰めていました。当院では今日まで220人の入院患者を受け入れてきましたが、最初の頃は、看護師は精神的にかなり疲弊しました。しかしその後、皆が粛々と対応し、今日まで病棟での職員の感染者は一人も出していないということは自慢できると思っています。

根岸 入手した情報を行政や地域内の公的病院と共有しつつ、リーダーシップをとって迅速に対応してきたという印象を受けます。

井關 相模原市には市民病院がありません。一方、相模原協同病院は、もともと76年前に無医村だったこの地域の農民のために設立した病院です。その後、役割が増えて農民だけでなく市民も診るようになり、今では市民病院的な役割を果たしています。ですから新型コロナウイルス感染症が拡がってから保健所(行政)とは毎日のように情報交換し、病院と保健所が同じ方向で対応しています。

根岸 今年の食料・農業・農村白書は厚生連病院の新型コロナウイルス感染症への対応を紹介しています。JA全厚連としてはどのような取り組みをされてきましたか。

コロナ1例目に対応

中村純誠 JA全厚連理事長中村純誠
JA全厚連理事長

中村 実は新型コロナウイルス感染症の国内第1例目に対応したのが厚生連病院だったことが驚きでした。しかも当時、井關院長が新型コロナウイルス感染症患者に対して非常に適切に対応されたということです。1例目で混乱すれば大変なことになったと思いますから、素晴しい対応だったということはすでにいろいろと紹介されています。これはとても誇らしいと思いました。

厚生連病院は地域では知られていても、それがJAの病院だと関連づけて認知されているかというとあまりそうではありません。今回、JA組合員だけでなく地域住民に向けて広く医療事業を行っているということを多くの人々が知ることになったと思います。

JA全厚連としては、新型コロナウイルス感染症発生初期には、各厚生連において医療資材、特に医療用マスク等の資材不足が大きな課題となったことから、医療サービスの提供を持続させるための資材対策を中心に国に要請に赴きました。国にも努力いただきましたが、すぐに手に入るような製造体制ではなかったので、みなさん苦労され、ビニール袋を加工してガウンにするなどの環境で、命がけで向き合わなければならなかった医療従事者が厚生連病院にもたくさんいたと聞いています。

その後は経営問題でした。新型コロナウイルス感染症患者を受け入れれば医療提供体制への負荷がかかるだけでなく、一般の地域住民が病院への来院を敬遠し受診控えとなりました。患者数が減少することで収入は減っていく。しかし、これでは地域の医療を守れなくなりますので、国に対する支援要請に注力しました。

国は他の事業と同じように損失補てんは行わない方針でしたので、損失補てんではなく医療行為としての実態に応じた補償をしてほしいと要請しました。国難ですから病院がおかしくなれば乗り切れません。結果として国は、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ体制を確保するため、新型コロナウイルス感染症患者用の病床を確保したことに対しての補助を行う仕組み等を構築しました。この体制確保の補助があったことで地域医療を守ることができたと考えています。

とくに相模原協同病院は国内1例目やクルーズ船にもいち早く対応していましたが令和元年度の対応であったことから、補償がない状況でした。これを補償しないのは理不尽だとJA神奈川県厚生連のみなさんとともに強く主張しました。

最終的には県、そして国も相模原協同病院が先駆的な取り組みでいち早く奮闘してきたことを理解し措置してくれましたが、こうした国の政策判断にも影響を与えたということです。

根岸 厚生連病院の連携も特筆されることだと思います。

中村 今年の4月には大阪府が医療危機に陥り、国から医療従事者の派遣依頼がなされました。本会から各厚生連に看護師の派遣をお願いしましたが、すでに厚生連105病院のうち感染症指定病院33のほか、全体で75病院が新型コロナウイルス感染症患者を受け入れており、各厚生連とも余裕がない状況でした。

そのような状況のなかでも、各地の厚生連病院から大阪に23人の派遣が実現しました。自院の新型コロナウイルス感染症への対応で精いっぱいであるにもかかわらず国全体の状況をおもんばかり、困っているところに派遣していただいた。さらに伊勢原協同病院からは全国の厚生連病院で唯一、沖縄県にも派遣していただきました。

ボトムアップで難局に挑む

根岸 日頃からの基本的な病院の運営体制、また院長のお考えがあったから非常時に対応できたのではないかと思います。そこはどうお考えですか。

井關 病院に限らず組織の運営の仕方はトップダウンかボトムアップしかないと思います。両者に優劣はなく、ケースバイケースで対応すべきです。

緊急時はやはりトップダウンが必要だと思います。ですから新型コロナウイルス感染症への対応の初期段階はトップダウンでなければならなかったと思いますが、トップダウンばかりではよくないんですね。

ボトムアップのためにはやはり院長が現場で情報を共有しながら現場をよく理解しないとだめです。トップダウンだけでは解決できないことが失敗する。緊急時や、たとえば新興の小さな企業がある一つの方向に向くといったときはトップダウンが良いのですが、きちんとシステムがあり、しかもそれぞれに専門家がいるような組織ではボトムアップが必要だと思います。職員も意識を共有して皆で取り組むという姿勢が大切で、そうでなければ持続可能な医療行為はできないと思っています。

ですから私も毎日のように院長メッセージを発信しています。心がけているのが皆の気持ちを高揚できて一体感が高まるようなメッセージを出そうということです。

一方で当院としては地域住民のニーズに対応することが必要と思っています。

もともと当院は無医村であったこの地域の農民の方々、市民の方々に必要とされてつくられた。ニーズがあるから病院があるのであって、市民の求めに合っていないことをすれば存続することはできません。

感染が広がるなか昨年春には抗体検査を導入しましたが、これも市民から要請があったからです。その後も感染の状況についてホームページに掲載し、市民にも公表し、地域住民目線で対策などを呼びかけてきました。やはり地域住民が何を求めているかを考えながら運営しないと病院の存在価値もないだろうと思っています。

対談:厚生連病院の思い 人を助け命を守る 地域と共に(2)に続く

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